Episode02 学園のラブハンター(1)
人里離れた結界の中に存在する学園。
私立怪奇学園――そこは妖怪たちが通うための学校である。
学園の生徒はもちろん、教師も含めてみんな妖怪である。
普段は人間に変身しているため、人間の学校と勘違いすることもしばしば。
しかしその正体は強力な力を有する妖怪。人間が生活を共にするのは難しい。
だが、そんな中、皆月冬夜は唯一の人間として学園で生活していた。
自分の正体がバレないかといつもヒヤヒヤしている。
登校途中男子生徒たちが色めき立つ。
「お、おい! アレ!!」
「朝一でお顔を拝見できるとは!!」
その姿を見ずとも誰が現れたのかが分かる。
学園一の美少女――天月真白、その人である。
男たちが自然と道を開ける。その中を優雅に歩く姿は女神と見まごうほど美しい。
「冬夜くーん!」
笑顔で駆け寄ってきて冬夜の背中に抱きつく。
柔らかな感触が背中全体に広がる。
冬夜は全神経を背中へと集中させる。
「おっはよー!」
真白の挨拶に冬夜も「おはよう」と返す。
真白の過度なスキンシップは嬉しいことは嬉しいのだが……
「何だあの男は!」
「真白さんに男がッ!?」
「うらやま……――け、けしからん! 天誅をッ!!」
「殺す殺す殺す殺す……」
尋常ではない殺意が注がれる。
運命の悪戯か……妖怪の学校に入学してしまったり、学園一の美少女に好かれていたりと幸福と不幸はなんとか釣り合いをとってくれている。
真白がいるから冬夜は妖怪だらけの学園でやっていくこと決意したのだ。
そして真白は冬夜の秘密を知っている唯一の存在でもある。
「冬夜くん、人間一人で心細いかもしれないけど、私がいるからね。私に出来る事なら何でも力貸すからね」
「真白さん……何で僕のためにそこまで……」
「だって私……私……ごめんなさい」
首筋につきたてられた牙がブスリと突き刺さり血液が吸い出される。
何度吸われても慣れることはない。
真白は毎朝モーニングコーヒー代わりに冬夜の血を吸う。
少量の吸血で留めてくれてはいるが、朝からフラフラと貧血気味で授業を受けなければならないのは辛い。
真白が冬夜の正体を知っているように、冬夜も真白の正体を知っている。
ヴァンパイア。それが真白の正体だ。
強大な妖力を持ち、数多いる妖怪の中で最強と呼ばれる大妖怪の一角だ。
吸血鬼と呼ばれる通り――血を好む。もちろん血液以外の――普通の食事もとるのだが、血液は別腹なのだとか。
そんなヴァンパイアである彼女は、冬夜の血が大好物なのである。
「ごめんね。つい……あ、でも冬夜くんの血はホントにおいしいんだよ。やみつきになる味って言うのかな?」
真白は周囲に人気がなくなるとすぐに冬夜の首筋にかぶりつく。
冬夜の防衛本能が警報を鳴らす。
これ以上は危ないと。
「僕は食糧じゃないよ――ッ!!」
冬夜は走った。
この学園に来てから磨かれた逃げ足は相当に速く。
真白はあっという間に遠ざかる背中を見つめることしかできなかった。
そんな二人の様子を木陰から覗く人影が一つ……――。
…………
……
…
はぁはぁ、と肩で息をしながら、冬夜は考える。
もし真白が、自分の事を本当に食糧程度にしか思っていなかったらどうしよう、と。
そうしたら妖怪だらけ(妖怪しかいない)のこの学園で自分の味方が一人もいなくなってしまう。
「だ、誰か……」
微かに声が聞こえる。
声のした方へと向かってみると、一人の女子生徒が倒れていた。
大丈夫? と声を掛けて近づく。
「手を貸していただけると助かります……」
ほのかに上気した頬にとろんと潤んだ瞳……メッチャかわいい!!
おっと、いかん。そんな事よりも今は、
「立てる? 保健室まで連れて行くよ」
手を差し出すと「ありがとう」と女子生徒は手を取る。
「あっ!」
フラついてバランスを崩した彼女を支える。
しなだれかかるように身体を預けられる。
ああ、色々と柔らかいものがぁあああッ!!
邪念を祓わなくては、無心になるんだ冬夜ッ!!?
こういう時は円周率を……πイコール……πが二つ!!
無心にはなれなかった。
それどころか余計に邪念が――、
「む、胸が……」
「い、痛いの?」
「うん、そうなの。胸が張り裂けそうなの」
そう言って彼女は胸を押し付けてくる。柔らかな弾力が冬夜の胸板に押し付けられその形を変える。
冬夜を見上げる少女が、
「私の目を見て」
その声に応え、彼女と視線を合わせる。すると目の前の世界が大きく歪み始めた。収縮を繰り返す世界の中で冬夜は目の前の少女に目を奪われていた。
綺麗な瞳……吸い込まれそうだ……
僕……この娘が好きになって……
勝手に腕が少女の背に回る。
身体の自由が利かない。
冬夜は自分の意志と反して少女を抱きしめる。
何をやっているんだ僕は!?
混乱しつつも、伝わってくる感触は心地よく、そのまま身を委ねてしまいそうになる。
その様子を、冬夜を追いかけてきた真白が呆然と見つめていた……。
…………
……
…
さっきの娘は冬夜くんのなに?
まるで恋人のように抱き合っていた。
真白は何でこんなにもショックを受けているのかわからなかった。
冬夜は大切な友達で、この学園で初めてできた友達……なのに私……
冬夜が「食糧じゃない」と言って逃げていく姿を思い起こし落ち込む。
とても大切に想っているのに、どうしても血を吸いたくなってしまう。
ヴァンパイアの本能なのかもしれないが、だからと言って冬夜を傷つけてもいい理由にはならない。
冬夜は人間で真衣は妖怪。
わかり合えるはずもなかったのか……
どうしたらよかったのだろう、と自己嫌悪にさいなまれていると、
「淋しそうね」
頭上から声がかけられる。
真白はハッと顔をあげると、
「初めまして、天月真白さん。私の名前は
階段の手すりに腰かけ、妖艶な笑みを浮かべて真白を見下ろす少女がいた。
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