不在

 ヨルの不在は、僕をとても寂しい気持ちにさせた。

 朝、起きると、光がまっすぐにさしこみ、人影を作らないことに堪らなく不満を感じた。

 昼に、紅茶たまにコーヒーを飲みながら、話すことができない。

 すこし、日が沈んで、部屋にオレンジの暖かいスポットライトがさしこんで、小さなホコリをキラキラと光らせても、舞台に上がる人はいない。

 ヨルは、僕にとって結局どのような存在だったのだろうか。

 僕は、少し前に精神鑑定から家に帰ったばかりだった。

 ヨルの魔法を解いた三日後に、魔法使いの血筋のヨン君が僕を訪ねにきた。魔法の水によって引き起こされる中毒症状、病気、障害についての研究が終わり、本に出版された、ということだった。

 僕は、そのまま魔法警察に保護され、なにがあったのか聞かれた。

 僕は、何も語らなかった。

 ヨン君は、何も言わなかった。鑑定士にたいして、「知らないんです、博士は、気づいたらこんな風にボロボロになっていましたから。」とだけ言った。

 それから、ヨン君とは会ってない。5ヶ月に及ぶ、精神鑑定を済ませ、3ヶ月間、魔法の水の毒抜きのようなものを行い三日前に家に戻った。

 久しぶりに、この家に足を踏み入れたときに、懐かしさは感じなかった。

 ホコリのたまった木の床は、灰色にひかり、ヨルの椅子は、日に焼けて、レコードは、無機質な機械に戻り、僕は、家を間違えたのではないか、とさえおもった。

 僕は、一人分のお茶を入れ、いつもの席だった場所にすわった。

 もう、前に美しい少女はいなかった。  

 

 行動の一つ一つが、あの美しい少女は、僕の中にしか存在しない、ということを、何度も僕に認識させた。


 僕は、ヨン君からの手紙を開けずに捨ててしまった。きっと、魔法の水、云々だろうから。

 これ以上、ヨルをただの人形と同じだったと、おもいたくないと思ったから。

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