第17話

ヨン君が、訪ねてから少ししてから、ヨルの目は濁った金色におおわれてしまった。

「ヨル、おはよう。」

僕は、こちらを見ているかもわからないヨルの目を覗き込んで言った。ヨルは全く反応しないが、僕は、毎日声をかけている。

「今日は、なにを聴く?」

ヨルのお気に入りの曲を流して、僕は、席についた。

「もうそろそろ、冬になるね。」

肌寒い風を頬に受けた。 

「そんなところにいて寒くない?」

ヨルは定位置から、動かない。よほど気に入っているんだろう。季節を視覚で感じられないヨルにとって風とか、気温とか、音とかそういったものはきっと大きな意味を持つんだろう。雨が降りこんでも、そこから動かないほどに。



「ヨル、おはよう。今日も早いね。僕よりも、遅く寝てるのに睡眠時間は足りてる?」

朝の風は、昨日より大分冷たくなっていた。

「今日は、これにしようかな。」

僕は、レコードを取り出した。


 「博士!博士!ドアを開けてください。」

朝、扉を叩く音に僕は、目を覚ました。

「…ああ。ヨン君か。なんだい?」

「開けてください!変ですよ!ここだけ魔法の色も臭いも変です!このままだと博士の身体も危ないです!あれの魔法を解いてください!」

僕は、ドンドンと扉を叩く音に顔をしかめた。

「いやぁ、大丈夫だ。私は至って元気で、ヨルも相変わらず、窓の外の景色をみて、音楽を聴いている。」

風に運ばれた、草の匂いを吸い込んで僕は、言った。

「帰ってくれ。彼女と僕は、うまくやってるよ。」

「もう、どうせ、ヨルはうごかないんでしょう?博士のせいでいつまでもヨルは解放されません。」

ヨン君の声が大きくなった。何を言ってるかわからない、というようにヨルに目配せすると、ヨルは少し首を傾けた。

「ヨルは相変わらず動くし、彼女は満足してる!僕を愛してる。」

扉を叩く音が止んで、ヨン君は黙りこんだ。

「本当は、もう、ヨルが動かないってわかってるんでしょう?」

扉の向こうから鼻を啜る音が聞こえて、足音が遠ざかっていくのを僕は、背中で聞いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る