ほころび

 「ヨル…なにしてるんだ?」

背を向けてしゃがみこむヨルに僕は、声をかけた。

 別になにも、ヨルの目はそう言っていたが、ヨルは嫌がる猫を押さえつけ首からしたを土に埋めていた。

「なにしてるんだ!」

「猫が、畑を荒らしたから。」

全く悪びれない様子でヨルはさらに土を被せた。

「やめなさい。」

僕は、ヨルの手を取り、猫を出した。 

 猫は、僕の手を引っ掻くと、怯えるようにして逃げていった。


「ヨル?」

ヨルの顔を覗きこむと、ヨルはなんの感情も写し出さない目を僕に向けた。ガラス玉のように美しい目をみて僕は、気分が悪くなった。

僕の気持ちが顔に出たのか、ヨルがハッとした顔になる。

「私…なにを…?いたっ。」

ヨルは、自分の腕の引っ掻いたような傷をみて眉をしかめた。

「私、猫にひどいことを。ホシさん…。」

ヨルの顔に表情が戻り、ヨルは悲しい顔をした。はやく、魔法を解いてください、切実にそう訴えかけるような瞳を見ていられなくなって僕は、目をそらした。



 少し経つとヨルは、腕の傷なんて忘れたかのように、本を読み始めた。血を滲ませながら。

「ヨル、腕の傷はいいの?」

「あぁ。忘れてたわ。」

ヨルは、猫を埋めたことなんて忘れたかのように吐き捨てた。


その日の夜、彼女はいつものように窓に肘をつくことはしなかった。

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