第十話
ヨルは、僕に魔法を解けと言ったが、僕はそれを受け入れられなかった。
「ヨル、考え直してほしい。」
「なぜ?」
「三年間は、君のことを魔法によってつくられた人形だと思い直すには長すぎるんだ。」
僕は、ヨルの陶器のような肌に触れた。そこにまだ、ヨルが存在することを確認するように。
「三年間なんて、魔法の世界にとったらちっとも長くなんてない。」
ヨルの言葉に僕は、目を見張った。
「じゃあ、君はもうこの世にいたくないと?」
青い瞳に浮かぶ金色の光が流れるのを見つめた。
ヨルの眉が下がり、僕を見つめ返した。
「私…、ごめんなさい。ちがうのに。」
ヨルの瞳に、悲しさのようなものが浮かんだことに、僕は安堵した。
「私、いつまであなたと同じ心でいられるかわからないのよ。今も、そう。物事の見方が変わってきてるのを感じるの。」
「でも、他になにかできることが...僕、僕は今、研究を進めてるんだ。君が、人間のままでいられるように。」
「その研究が、成功するまできっと私は、人間の心を保てない。」
「しかし、でも」
なおも引き下がろうとする僕の唇に、ヨルは細い人差し指をあて、困ったように笑った。
「魔法は、常に存在している。今、こうしている間にも常に自然の流れに身を任せ揺れ動いている。永遠に変わることなく。永遠の世界と比べたら、人間が存在し始めた時間なんて、ほんのちっぽけなものに過ぎない。自然に抗らうことなど我々にはできやしない。」
ヨルの美しい瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。僕は、それを拭うこともできずに、夜の生ぬるい風の中に運ばれているであろう、魔法という自然を、思った。
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