第8話

 「博士、わたしの魔法を解いてください。」

ヨルの真剣な表情に僕は目をそらした。

「全部って、その、全部?」

「はい。私の心すべて。」

「なぜ?」

「私は、いつまで博士と同じように世界を見れるかわかりません…。」


 草花はますます、青い葉の色を深め僕の気持ちなどなにも気にしていないかのように、相変わらず、のんびりと風に吹かれていた。


 「やっぱり、私はホシさんのことが好き…。」

ヨルは唇を震わせた。

「ホシさんと同じ世界にいたい。」 

ボロボロと大粒の涙を落とす目の前の少女は、魔法の力を持っている生き物なんかではなくて、十八の少女そのものだと感じた。

 「たまに、こうやって窓からさしこむ初夏の陽射しよりも、魔法の流れの方が眩しいことがあります。」

ヨルは涙を溜めた目を僕に向け、困ったように笑った。

「魔法は、現実もとい人の感情に手を出すことはできません。また、人の感情に触れたとき、その魔法は消えます。だから、もし、まだ、あなたが私のことを好きならば、キスをしてくれませんか?

そうすれば、現実に触れた私の魔法は消えます。…しあわせなまま。」

僕は、小さくかぶりをふった。

「他にも、なにか方法があるはずだ。」

ヨルは、窓から入った生暖かい風で乱れた髪もなおさないまま僕に向かって寂しげな笑顔を向けた。

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