第6話 副作用

 「ヨル、聞いてほしい。」

「なんですか?」

僕を見るヨルの目に信頼はなく、ぎゅっと心臓が押し潰されそうな感覚に僕は、顔をしかめた。

「女の子みたいに、泣けば済むとでも?」

ヨルはその、賢そうな瞳に軽蔑の念を浮かべて僕を見た。


 「僕は、本当は教育係なんかじゃない。科学者だ。ホシ博士と呼ばれている。」

ヨルは、ツンと窓の外を見つめたままだ。

「僕は、もともとある女優に憧れて君を造った。はじめは、君を彼女の代わりだと思っていたが、君と過ごすうちに彼女ではない君に惹かれた。この言葉に嘘はない。わかってほしい。」

僕は、ヨルを見つめた。

 

 「私は、作り物なのね。偽物。容れ物。人間ではないのね?」

ヨルは、夕方の風を頬に受けながら、吐き捨てるように言った。

「なにを言ってるんだ、ヨル。」

「私が、今感じている風はなに?今感じているこの感情は本物なの?それとも、魔法と科学によって作り出された疑似感情?」

ヨルは、作り物には見えない確かな悲しみをその瞳に浮かべて僕を見つめた。


 その日からヨルはちっとも話をしてくれなくなった。


 僕は、いつものように魔法の水を垂らした実験動物を見に行った。

 小さな動物は、今までずっと暮らしていた檻のなかをウロウロと動き回っていた。まるでそこが、初めて入れられた檻であるかのように。

 僕は、ヨン君に連絡をとった。

「このとおり、実験動物は、今までにない反応を見せた。これは、魔法の水による反応なのではなかろうか。」

僕は、目の青い実験動物を見た。それは、僕と目を会わせない。

「そうですね。」

ヨン君は、興味深そうに実験動物をみると、視力を確かめる魔法を描いた。

 キラキラと光る魔法の粒たちは、実験動物を取り囲み、それの見ているものをうつしだした。

 そこには、なにもうつらなかった。

「なぜでしょう。寿命でしょうか。おかしいな…。」

ヨン君は、首をかしげた。魔法の粉はさらさらと落下しながら消えた。

「魔法の水は、すごい力をもつ。」

僕は、ある種の危機感に、眉を寄せた。

「容れ物より大きい物を押し込めたとき、容れ物は最後まで耐えきれることができるだろうか。」

僕は、小さな動物を見つめた。この動物の目は、もともと毛の色と同じ茶色であることを思い出しながら。


 「ヨルの瞳も、もともと彼女に寄せて茶色と灰色にしたなずなのに…」

 

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