第3話 魔法の水

 ヨルは、驚くほど、学習能力が高かった。ヨルは、三ヶ月のうちに、昔、女神が踊った曲をすべてマスターし、一年が経つころには、タンゴ、コンテンポラリー、ワルツその他たくさんの踊り方をマスターしていた。クルクルと舞うヨルに目を奪われながら、魔法の水の力はやはり素晴らしい物だったのだと、僕は満足感に一人微笑んだ。


 五曲目にさしかかった辺りで、

「ねぇ、ホシさんも一緒に踊りましょう。」

と、なにも知らないヨルは賢そうな目をきらりと輝かせて、僕を見た。

 僕は、もちろん、と言って椅子から立ち上がり、小さく白いヨルの手を取った。

 少女趣味な窓から入る、光の直線は、小さなホコリをちらちらとかがやかせ、スポットライトのように彼女の、頬を照らした。

 曲が終わりに近づき、僕はヨルをクルクルと回した。

「あははははっ」

ヨルは、回りながら笑った。それも、本当に純粋な15歳の少女のように。

「ふふふ。」

 曲が終わってヨルが僕の元に華麗なステップとともに戻ってきた。

今日の、夜ご飯はなにか、と尋ねながら僕にまとわりつく少女の愛らしさを僕は知らない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る