第178話

 謁見の間に近づいてくる、いくつもの足音。

 開かれた大扉から、ゾロゾロと人影が入ってくる。


 屍兵。動く爆弾の登場である。


「ほらみろ。テメェのお仲間がご到着だ」


 村長はドミティウスを小突く。

 相変わらず睨みを利かせているが、村長には知ったことではなかった。


「さて、客人は盛大に出迎えなければな」


 村長は杖の先を胸に当てる。

 狙うのは心臓。一発で自らの心臓を自らで貫くのだ。


 屍兵は村長を囲うように、謁見の間に広がっていく。

 天井から屋根が落ちてくる。  

 下敷きになった屍兵は、それでも半身だけを引きちぎり、屍兵たちと行動を同じにする。


 そして謁見の間をぐるりと囲うと、体を震わせ、体内から赤い樹を生やした。


「なるほど、気味が悪いな」


 村長は頬を歪めた。

 

 赤々とした物体が風船のように膨らみ始める。

 村長も、杖をしっかりと握りしめる。


「さて……お別れだ」


 村長は杖に魔力を宿し、胸を、心臓を貫いた。


 痛みは鋭く、意識は重くなる。

 だが意識はまだ失うわけにはいかない。


 声を絞り出し、エルフ語で呪文を呟く。

 二、三言。たったそれだけの言葉の羅列だが、唱え終われば村長の周囲から音が消えた。



 肉体から、痛みが消える。

 膨張を続ける肉の塊。

 それを横目にしながら、村長は前のめりに倒れていった。


 冷たい感触。硬く、頭部に衝撃があった。

 己の体が床に到達したのだ。


 視線を動かせば、屍兵の足が並んでいる。

 どの足も素足のままで、爪垢の溜まった汚らしい緑色の足ばかりだ。


 はちきれんばかりに膨れ上がる肉塊。

 そろそろ爆発するのだろう。

 村長は思う。


 やがて村長の意識が遠のいていく。

 達成にもにた満足が、わずかに残る村長の意識を満たしていく。


 ふと、うすれゆく意識の中でドミティウスの顔を覗く。

 

 相変わらず地べたに這いつくばる無様な姿を晒している。

 

 しかし、ドミティウスの顔つきだけは変わっていた。


 ひどく穏やかな笑みを浮かべていた。

 ドミティウスではない。村長は思った。


 しかし、それを確かめることはもはやできない。


 村長の意識がなくなると同時。

 謁見の間は眩い光に包まれた。

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