第171話

 ロイは通路を進み、とある一室に出た。

 そこは帝都の城の地下深くにある部屋。

 窓は一つもなく、燭台もない。

 明かりを取れるようなものがない部屋で、ロイはランタンを片手に進んでいく。


 部屋の中ほどまで来た時、ロイの目の前に何かが並んでいた。

 血の気のない肌。

 うつろな瞳。

 抜け落ちた髪の毛が、床に散乱している。


 数十体の屍兵が、そこに並んでいた。

 ドミティウスは杖を構え、呪文を唱える。


 屍兵の目に光が宿る。

 仮初の命。

 彼らの体内に救う蟲が蠢き、彼らの体と意識を動かしていく。


「これより、この城を爆破する。各自持ち場に行き、爆破に備えろ」


 ロイは命令する。

 その命令通り、屍兵が動き出す。

 暗闇が蠢き、人の波がロイを追い越していく。


 ロイは懐中時計を取り出し、蓋を開ける。

 三時十五分。

 もう間も無く、ここは瓦礫の山と化すだろう。


「……もう、やるべきことは残されていないか」


 ロイが呟く。

 数年の辛抱。

 数年分の苦労、秘密。

 それらからようやく解放される。


 両肩にのしかかっていた重りは、すっかり軽くなっている。

 

「あと少し……少しなんだ……」


 ロイは踵を返し、通路へと戻っていく。

 最後に残された大仕事。

 不名誉な死と悪人のレッテルとともに、命を捧げる。


 一世一代の大仕事。

 これが残されるのみとなった。


 悔いはなかった。 

 やり残したことも、もはやなくなった。


 あとは、ロイに殺されるだけである。

 また、彼が実行しなくとも、方法はまだある。

 心配はいらない。

 あとは、私を待つばかりである。


 靴音が闇の中に響く。

 ロイと屍兵の消えた闇。


 そこを訪れるものは、もういない。

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