第156話
「では、今一度問おう。私に付き従おうという意思のあるものはいるか」
水面に石を投げ入れるように放たれたドミティウスの言葉は、反逆者たちの間を漂い、そして波紋を浮かべた。
貴族が一人、静かに立ち上がる。
「ドミティウス・ノース皇帝に、我らが帝国に栄光あれ……」
弱々しい声だった。
しかし、貴族は恭順の意を表したことは、間違いなかった。
「そうか。そうか。他に賛同する者はいるか」
ドミティウスが頬を歪めながら、他の面々の顔を見回す。
貴族に続いて一人、二人と立ち上がり、同じ文言を繰り返す。
そうして最後まで残ったのは、たった二人きりであった。
「この腑抜けどもが!」
二人のうちの片割れが、顔を真っ赤にして叫んだ。
口汚い言葉を並べ立てて、唾とともに恭順者たちに吐きつける。
彼らが兵士に連れていかれるまで、罵声と怒声が響いていた。
彼らが消えると、謁見の間は再び静寂に包まれた。
「では、今後とも私のために働いてくれ。よろしく頼むぞ」
ドミティウスは残された男たちの縄を解き、肩を叩いて労って行く。
これで命は助かった。
安堵のため息と、引きつった笑みが彼らの顔に現れる。
前皇帝への忠誠心はいまだにある。
しかし、彼らの命には変えがたい。
「と、その前に、一度だけではあるが、私に反目した罰を与えてやらねばなるまい」
ドミティウスの一言が、その場にいた面々を凍りつかせた。
「命まで奪うつもりはないさ。君らは私の信奉者たちだ。できうることなら、帝国のために身を粉にして働いてもらいたい」
ドミティウスは笑みを浮かべて上機嫌に言う。
「だが、反目した君たちを罰しなければ、家臣たちに示しがつかん。これも全て私のためだ。わかってくれ」
ドミティウスは議員の肩を叩く。
「じっとしていてくれ。すぐに終わる」
ドミティウスは微笑んだ。
そして、細い指先を男の片目へと突き入れた。
男の悲鳴が悲鳴を上げる。
指先が男の眼窩から引き出される。
赤い粘液がドミティウスの指にまとわりついている。
さらに大きな悲鳴が響き、男はうずくまり目を抑えた。
「ほう。綺麗な目をしているのだな。まるで宝石のようではないか」
ドミティウスの指に挟まれているもの。
粘り気のある血をまとったその球体は、男の眼球であった。
細い血管が眼球の下方から垂れ下がり、ひらひらと揺れ動いている。
綺麗な石を見つめるように、ドミティウスはその青い瞳をしげしげと眺めた。
しかし、大した興味もなかったのか。
眼球を床に放り捨てると、二人目の男の肩を掴む。
「さて、では次は君だ。あまり暴れてくれるな。大丈夫だ、すぐに終わる」
ドミティウスはニタニタと気味の悪い笑みを浮かべながら、男達の目の中へと指を差し込み、眼球を引きずり出して行く。
絶叫と悲鳴、うめき声。
男達の眼球が床に無造作に転がり、悶絶するほどの痛みが彼らを襲った。
「罰は下された。今日この時より、君らは私の部下となった。末長く働いてくれることを願うよ」
ドミティウスが言う。
血と粘液で汚れた指先を、ハンカチで拭いとる。
貴族と議員たちは、目玉を抜かれた眼窩を手で押さえながらひざまずいた。
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