第132話

 戦闘もいよいよ佳境である。

 敵兵は先遣隊とエルフにより攻撃で瓦解。

 もはや戦意のかけらもない、残党勢力に成り果てている。

 

 ただ、唯一の障害と考えられたのは、地面から身を起こそうとするタイタンである。

 何人ものエルフが、魔力の管をタイタンに幾重にも張り巡らせる。

 身動きを封じるため。

 しかし、エルフの魔法をもってしても、その巨体を完全に封じることはできなかった。


 両手と残った片足。

 それぞれをバラバラにばたつかせる。

 幼い子供がわがままを言うように。


 だが、タイタンのそれらの動作は、簡単に人をはね飛ばすだけの力を秘めていた。


 数人のエルフが、タイタンの癇癪かんしゃくで、宙を舞った。


 うまく受け身をとれる者もいたが、ほとんどは強かに体を打ち付けていた。

 うめくエルフを、仲間のエルフや先遣隊の兵士が看病する。

 エルフの抜けた穴を他のエルフと、魔法を使える冒険者が埋める。


「さて、お前には聞かなければならないことがある」


 村長は、ローブをきた魔術師の胸ぐらを掴む。

 その魔術師は、タイタンの肩に乗っていた魔術師である。

 

「タイタンをどうやって操っていた?」


 村長は魔術師を問い詰める。


「ごまかしは通じんぞ。タイタンの目の色を見ればわかる。赤い目をしたタイタンなど、この世には存在しない。あるとすれば、何者かの力が加わっている場合に限る」


「だ、だとしたらどうする……?」


 魔術師は言う。


「認めたな? なら、単純な質問だけが残るな」


 魔術師を大木に叩きつけ、村長は詰め寄る。


「お前がタイタンにかけた術は、お前の死によって解除される類のものか」


 村長は、杖の先を魔術師の心臓に押し付ける。


「そ、それを言えば、私を殺すかもしれんのだろう?」


「ああ、そうだな。だが、どっちみちお前は死ぬ他に道はない。ただな、お前が解除しなければ、奴にかけられた術が解けない場合。ちょっとばかり面倒になるんだ。せっかくだから、死ぬ前にちっとばかり俺たちの役に立っちゃくれないか」


「誰が、貴様ら下等な部族などに、施しをするものか……!」


 村長は、ため息をつく。

 そして杖を魔術師の膝に向けた。


 風を切り裂く短い音。

 その直後、魔術師の口から悲鳴が轟いた。


 村長の放った風の魔法が、男の片足を両断したのだ。

 太腿からバッサリと切断され、断面からとめどなく血が溢れ出していく。


「そうなれば、お前はどのみち死ぬ。だが、死際でも苦痛を与えることはできる。さんざんお前達人間にやられてきた手だ。じっくり味わってみるのも、いいかも知れんな」


 魔術師はうずくまり、恨ましげに村長を見上げる。


「大人しく話してくれれば、お前には安らかな死を与えてやる。だが、もしも話す気が起こらなければ、お前が死ぬまでに数多の苦痛を与えてやる。好きな方を選べ、お前のためになる方をな」


「だ、誰が、誰が、貴様らなどに……!」


 よだれを垂らしながら、魔術師はあくまで抵抗の意思を示す。


「敵ながら、その確固たる意思に、敬意を表そう」


 赤く色づいた断面に、村長は杖の先を挿し込む。

 そして、静かに詠唱をした。

 

 魔術師の悲鳴が森に響く。


「まだまだ時間はたっぷりとある。話す気になったら言ってくれ。それまでは、ゆっくりと味わいながら、死んでいってくれ」

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