第131話

 タイタンが倒れる、その直前。

 ジャックはゴブリンを倒しつつ、逼迫した危機に一目散に待避行動をとった。


 轟音と振動。

 それまでのものとは比較にならない。

 タイタンが地面に触れる瞬間。巨大な風圧がジャックの背中にぶつかった。


 前のめりにつんのめる。

 バランスを崩し、転倒。

 体の至る所を痛めながら、幹に衝突する。

 肘がぶつかり、鋭い痛みが腕を駆け抜ける。

 

 苦悶に顔を歪めながら、ジャックは立ち上がる。

 土煙と血潮の香りが風に乗って吹き付ける。

 咳き込みながら、落とした剣を拾い上げる。


 タイタンの転倒がした。

 つまりは村長達の目論見が、成功したということ。

 ならば、あの巨体が起き上がるより先に、命を奪うことが、何よりも最優先されるだろう。

 

 そう考えたのはジャックだけではない。 

 村から援護をしていたエルフ達も、ジャックと考えを同じにしていたのだ。

 物陰からを伝って移動し、皆が皆、タイタン目掛けてかけ迫る。


 さらに、ここにきてエドワード達がやってきたことも、流れを大きく帰る事態となった。


「エルフたちに続け!」


 エドワードの号令が聞こえてくる。

 先遣隊は彼とともに、雄々しく全身を開始した。


 敵兵とゴブリンは、今度こそ逃走を始める。

 味方を押し除けて、我先にと来た道を引き返していく。


 その後を追うのは、狩人とエルフの放つ魔法と弓矢だ。

 脳天を、喉を、背中を、足を。

 いくつもの矢が彼らの四肢を、首を、胴を。貫き、燃やし、削っていく。


 静寂に包まれた森に、悲鳴が戻ってきた。


「状況はどうなっている」


 ジャックの元へエドワードが駆け寄ってきた。


「見ての通りだ。タイタンが倒れて、敵は戦々恐々。戦の雌雄は決されたが、タイタンに止めを刺さなくては、真に脅威を排除できたとは言えない」


「待て、タイタンだと?」


「ああ、そうだ」


「馬鹿な。巨人が攻撃をしてくるなんて、あり得んぞ」


「そのあり得ない事態が起きていたんだ。今までな」


 地面が揺れる。

 タイタンが、今にも起き上がろうとしていた。


「数人を私の方へ回してくれ。残りは敵の残党の処理を頼む」


 ジャックが言う。

 そして彼はエドワードから離れ、タイタンの元へ走って行った。


「……コビンとカーリアは狩人を数名連れて、ジャックに続け! あとは私とともに残党狩りだ。気を抜くなよ。手負いのやつほど、何をしてくるかわからんからな」


 背後から雄々しい声が響いてきた。

 コビンとカーリアは、すぐにジャックの後を追いかけた。 

 その後ろを狩人五名が続く。


「遅い到着ね」


 エドワードの頭上から、声が聞こえてきた。

 見ると、大木からユミルが降りてきた。


「これでも急いできたんだ。恨まんでくれ」


「恨むつもりはないわよ。むしろ、感謝したいくらい。……私もジャックと一緒に行くわ。いいでしょ?」


「ああ。あいつをよろしく頼む」


「言われなくても、わかってるわよ」


 ユミルは肩を竦める。

 それから弓を担いで、戦場へと向かって行った。


 その背中を見送った後。

 エドワードは剣を抜き、敵兵とゴブリンの元へと駆けて行った。

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