第123話

 ジャックが中庭の戻ると、そこに人だかりができていた。

 生徒ではない。

 大学の外で待機しているはずの、先遣隊の面々だった。

 その中にはカーリアとコビンの姿もある。


 柱の影から、ジャックと同じように、ユミルがその人だかりを見つめていた。


「何があった」


「さあ、私が来た時には、ああなっていたわ」


 ユミルも事態を把握していないようだった。

 人混みが二つに割れて、そこからエドワードが出てきた。

 傍らには、驚いたことにエルフがいた。

 大学の教員であり、ユミルの知り合いである、ロドリック・ガトガだった。


 ロドリックが、ジャックたちを見つける。

 彼が指をさすと、エドワードも二人に気がついた。

 彼らはジャックたちの元へと、近づいてくる。


「用事はもう済んだのか?」


「ああ。そっちは」


「ああ。充分に娘と話せたよ。それより、彼から耳寄りの提案を受けたんだ」


 ジャックはロドリックに目を向ける。


「別に大層なことじゃない。拠点が欲しいと学校長から聞いたから、よかったらうちの村を使わないかと、提案しただけだ」


「村? エルフの村か」


 ジャックが尋ねる。


「そうだ」


 こともなげに、ロドリックは言った。


「校長には話をつけてある。エドワード殿にも先程話を通して、了承を取り付けた」


「そうなのか」


 ジャックはエドワードを見た。


「ああ。願ってもない提案だったからな。大学に迷惑をかけずに、隊員たちをゆっくりと休ませられる。特に文句はない」


 確かに、その提案は魅力的だった。

 だが、ジャックの中にはぬぐいきれない疑問があった。


「なぜ、そこまで世話を焼く。お前には、そんな義理はないはずだろ」


 その疑問を、ジャックはロドリックにぶつける。


「別に何か思惑があるわけじゃない。ただ、せめてもの罪滅ぼしになればと、思っただけだ」


「罪滅ぼし、だと?」


「ああ。エリス君が連れ去らたのも、エリス君の体を、過去の化け物にいいように操られているのも、元を正せば、我々大学がしっかりと彼女を保護していなかったせいだ」


「……喋ったのか、こいつに」


 エドワードを睨みつける。

 エリスのことは、ユミルと彼以外には知られていないはずだったからだ。


「いいや。彼は何も言っていない。私が校長の口から聞き出したんだ」


 ロドリックが言う。


「私だってエリス君や君らの役に立ちたい。同胞の娘がひどい目に遭っているのに、黙っていられるほど私は無神経じゃない。別に、君らや人間に恩を売って、どうこうしようなどと思っていない。そこは信じてくれ」


 ロドリックはジャックとユミルの顔を交互に見る。


「今から団長殿と一緒に、村に許諾を取りに行く。私の信用の証明になるかはわからないが、一緒にきてくれたら、きっと私の言葉が嘘ではないとわかってくれるはずだ。無理強いはしない。場所は東棟の三階だ」


 ロドリックは左側の校舎の三階をさした。


「階段を上がって、右手側にある。私たちは少しの間、そこで待っているから」


 そう言い残すと、ロドリックはエドワードを連れて、大学の学舎へと入って行く。

 

「ねぇ。どうする?」


 ユミルが尋ねる。

 ジャックは迷っていた。

 行かぬ場合と、行って確かめた場合との結果に待つものを、考え続けた。


 どちらの方が危険が少なく、かつ無事でいられる確率が高いかを。

 考えに、考えに、考えた。


 そしてその答えが出たとき、ジャックの足は東棟の学舎へと向かった。

 

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