第100話
黒い地面に塗料をつけられた石が転々と転がっている。ジャックはそれを辿って足を進ませていく。
道標の石が途切れ、岸壁に埋め込まれた巨大な扉が、彼の前にたちはだかった。
重厚で巨大な扉は硬く口を閉ざし、何者の侵入を拒んでいる。
扉の周囲を眺めて見ても、横穴のようなもなければ、ほかの道もない。
もしかすれば見落としがあるのではと、ジャックはドアの周囲をくまなく探そうとした。その時だ。
轟音と地響きを響かせて、岸壁の大扉が自然と開き始めたのだ。
扉の影に隠れ、ジャックは中を覗き見る。
口を開けたその先には漆黒の闇が広がっている。何かが隠れているかもしれないが、見える範囲では動くものは確認できない。
「すごい音だったけど、何があったの?」
背後からユミルが駆け寄ってくる。ジャックは前を見据えたまま、慎重に闇の中へ足を踏み入れる。ユミルもまた彼に続いて口を開けた扉の中へと入って行った。
二人が中に入った途端、扉は再びその口を閉ざしていく。
唯一中を照らしていた外の明かりが、扉が閉まる事で細くなり、消えていく。
すると、道の両側に光が灯った。それはちょうど魔法大学にあった、あの発光体とそっくりだった。
発光体は間隔を開けながら宙に列をなしていき、暗闇が光に包まれる。
そこはまるで神殿のようだった。
崩れかけた石柱が立ち並び、白い大理石には湿気からか苔が繁殖している。
中心にはポツンと玉座がある。
そこに人間が座っていた。
だが、それを人間と称するには、ジャックには抵抗があった。
黄色がかった肌。黒い肌。白い肌。様々な色の肌が縫い合わされ、人の形を形成している。その縫い目は荒く、隙間から肉が垣間見えた。
衣服は着ていなかったが、その人間が男か女であるかも、判然としない。
左胸は男性のように筋肉質の胸だが、右側は女性のように柔らかな膨らみがある。
股間には男根も膣もなく、ただ白い皮で埋められていた。
「よくきてくれたな。見知らぬ兵士よ」
二人がを注視していると、それはおもむろに言葉を発した。
「手厚い歓迎をしたいところだが、何分、ここには私しかおらなんだ。すまないが、私でがまんしてくれ」
「あの子はどこだ」
ジャックは剣を抜いて、それに歩み寄っていく。
それは、ジャックの顔をみると、不思議そうに首を傾げた。
「貴様、どこかで会ったか?」
「あの子はどこだと聞いている。答えろ」
「……そうだ。貴様、大戦の兵列に加わっていただろう」
ピクリと、ジャックの動きが止まった。
それはニヤリと頬を歪ませながらさらに言葉を続ける。
「やはり、そうか。どうりで見覚えがあったはずだ。番号は確か、2366……。いや、2534だったか。何分兵士が多くて覚えてはおらんが、その顔はよく覚えているぞ」
嬉しくて、嬉しくて仕方がないのか、それは腹を抱えて笑い始める。
「……お前は何者だ」
「分からんのか? まあ、この見た目だ、分からなくとも仕方があるまい」
それは肩を竦める。だが、自分の体を見て、それも無理はないと納得する。
「我が名はドミティウス。ドミティウス・ノースだ」
それの名乗った名前。
その言葉はジャックに衝撃と動揺を与えるものだった。
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