第64話

 試験は一斉に、試験官の合図によって始められた。

 その内容は実技による魔術の使用の是非を確かめるものだ。

 監督者の指示した魔術。それを一度実演し、のちに試験者たちがそれを実行する。それを八回ほど繰り返して、合否を図っていく。


 高らかな号令の後に響くのは、足下から聞こえる呪文の大合唱。下にいる人の群れが同じ文言を声に出して、大気を揺らしている。

 見下ろすと皆が一様に空に杖を掲げている。


 何の変化もなく棒切れを掲げているだけの者。

 何となく杖の先が光を持っているもの。

 歴として杖から火炎が空へと昇り、爆ぜる者。


 様々な反応が中庭で巻き起こる。足下をつぶさに見つめる監督者達は、成功してみせた受験者の番号を呼び上げていく。


 数字を確かめる上で、彼らはとある器具を使用していた。片眼鏡。耳に掛けるフレームのない、鼻にかける形の眼鏡だ。

 

「気になりますか?」

 

 フレームを叩きながら、エマは言う。ジャックがじっと見つめていたことを、彼女は気がついていたのだ。


「受験者に配られた番号札とセットで使う物なんです」


「セット?」


「ええ。この眼鏡を通して見ると、合格した人が赤く光って、その頭上に番号が浮かんでくるんです。どうぞ、見てみればわかります」


 エマから片眼鏡を渡される。ジャックは目の前に持ってくると、中庭の試験者をそれを通して覗き見た。


 確かに、頭上に受験者の中に赤い光をまとったものがいる。


 15 29 40 113……。


 これまでに呼び上げられた数字と同じものが、試験者の頭上に浮かんでいた。


「なるほど。確かにこいつは便利だ」


「でしょう? 魔法大学の卒業生が作り出したんですよ。これよりもっと前には、人力で数えていたので、結構大変だったらしいですから」


 エマは再び片眼鏡をかけて、仕事に戻った。

 手持ち無沙汰になったジャックは、自然とエリスの方へ目を向ける。


 流石はエルフの血を受け継いでいるとあって、エリスは順調そのものだった。監督官から支持される魔法を次々に成功させていく。


 エルフへの珍しさか。それとも魔法をいともたやすく操る、種族の血に感心しているのか。監督する人間の間から、感嘆とも取れる吐息が漏れている。


 残り数分。どうにも合否の判定はすでに決まっているようだった。


「これにて試験を終了とする。番号を呼ばれた者はこの場に留まる事。呼ばれなかった者は即刻この場を立ち去るように」


 終了の鐘とともに、無常ととも取れる言葉が監督官から伝えられた。

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