第65話
「これより一時間ほど休憩の時間をとる。その後、説明と制服を与えるため勝手に帰らいでいただきたい。折角入学の権利を手に入れたのだ。みすみすふいにする事のないように」
監督官がそう宣言すると、試験官も試験者たちもめいめいに学者の方に引き上げていく。
「行って上げて下さい」
エマが言った。彼女の視線をたどっていくと、そこにはエリスが立っており、じいとこちらを見上げていた。
「お前の護衛がある。そう勝手ができるものか」
「大丈夫ですよ。これから監督者同士の会議があって、部屋には監督者以外入ることはできないんです。ローウェンさんにはその間時間が空くと思うので、折角ですから、ね」
「だが…」
「心配いりません。あの時とは違って私にも自衛の手段はありますから」
そう言うと、エマはローブを少しめくった。
丈の長いチェック柄のスカート、白い生足に黒いソックス、ブーツ、制服のジャケットの裾がそこから覗ける。だが、別にそれを見せたかったわけではあるまい。彼女の腰には、黒茶色の杖がさしてあった。
「お昼が終わったら、またこの廊下で落ち合いましょう。道に迷ったら、係りの者に聞けばわかると思いますから。それじゃ、私は行きますね」
エマはジャックに会釈をすると、試験官たちとともに学舎へと歩いていった。
「……そこで待っていろ。今いく」
ジャックは言う。
エリスは頷くと、笑顔を見せた。
階段を見つけて一階へと降り、中庭に出る。
渡り廊下のすぐ下。先程ジャックが立っていたその真下に、エリスは立っていた。
ジャックの姿を認めると、真っ先に彼の元へと駆け寄ってくる。
「お疲れ様」
エリスが言う。
「それはお前の方だろう。ずいぶんと緊張していたようだったじゃないか」
「緊張しないほうがおかしいよ。本当に、途中膝が笑っていたんだから」
エリスは自分の膝を叩いた。今は震えてはいないようだった。
「何にせよ、合格を勝ち得たんだ。これで一つ肩の荷が下りただろう」
「うん。まあ、ね」
「だが、あまり余裕に構えるなよ。喜び勇むのはいいが、まだ始まってすらいないのだから」
「……分かってるよ、そんなの」
ムッとしたように、エリスは少し頬を膨らませた。
ジャックが出てきた方の校舎から大人たちが出てきた。どうやら保護者たちのようだ。彼ら彼女らは自分の子どもの姿を見つけると、歩み寄り彼らの努力を誉め称える。
「ああいうのは、やってくれないの?」
それを見ていたエリスが、上目遣いにジャックに言った。
「必要か?」
「……面と向かって聞かれると、恥ずかしいけど」
エリスは呟く。少しだけ頬が赤らんだように見えたのは、おそらく気のせいではないだろう。
ジャックはエリスの頭にポンと手を置くと、数度彼女の頭を撫ぜてやる。
思わぬ行動に、エリスはきょとんとして、ジャックの顔を見上げた。だが、彼はエリスに顔を向けることはない。
すぐに手を離すと、ジャックはそのまま学舎の方に歩いて行った。
「何をしている。飯を食うんじゃないのか?」
「えっ……あっ、うん。今いく」
エリスは慌ててジャックのあとをおう。
何となく、彼の手の温もりが、今も彼女の髪に残っていた。
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