二章

第13話

「帝都にようこそ」


 長い旅路の終わりを、エドワードはそう締めくくった。

 大きな城門をくぐっていくと、目の前に広がったのは栄華を極めた帝都の街並みだ。

 レンガ建ての背の高い建物が通りの左右に並んでいる。


 大通りの先に目を向けると、大きな城が見える。

 行政、司法、治安とを管轄する帝国の心臓部だ。

 そこには皇帝の家族を含め多くの貴族が働いている。


 数百年経ってなお、城門より見るこの景色は変わらない。

 格段に綺麗にはなっているが、街の作りなどはそう変わりはしなかった。


 一団は通りを右手に折れて、一個の建物の前に止まった。

 玄関に堂々と、西部駐屯所と書かれている。

 到着すると同時に馬番が駆け寄ってきて、馬を馬屋の方へと導いていく。

 その間にエドワードと兵士は玄関前に集まった。もちろんそこには、エリスとジャックもいる。


「皆、任務ご苦労だった。今日のところは報告だけに済ませて、ゆっくりと休んでくれて構わない。野営の道具、武器、砥石、それとボウガンの矢は運び出していってくれ。それが済み次第、解散してくれ。以上だ」


 兵士たちはめいめいに返事をして、早速運び出しにかかっていった。


「ローウェンとエリスは一緒にきてくれ」


 エドワードはそう言うと、二人を連れ立って駐屯所の中へと入っていく。


「孤児院に行かないのか」


「それはまた後ででいい。それよりも、先に済ませておかなくちゃならないことがある」


「なら、私はここで待たせてもらおう」


「その心配はいらない。一緒に来てくれた方が都合がいいからな」


 ジャックの言葉に取り合わず、エドワードの足は建物の二階へと向かう。

 廊下を進み、突き当りの部屋に入る。

 ドアには『執務室』とある。

 中に入ってみると、仕事机と椅子。それにいくばくかの本が詰め込まれた本棚がある。仕事場といえば聞こえはいいが、なんとも質素な室内だった。


「こっちだ」


 エドワードは椅子には向かわずに、部屋の奥にあるドアに向かう。

 扉の中央には金色の獅子の彫像があり、獲物を喰らおうと大きく口を開けている。

 エドワードはポーチから金属製のカードを取り出すと、獅子の口に滑り込ませる。

 数秒の間立ち尽くしていたが、やがて獅子からカードが吐き出された。


 何気なくプレートを取り出し、ドアノブを回す。

 その先には暗い廊下が伸びていた。

 エドワードに案内されるまま、三人は暗い廊下を進んでいく。


 突き当たりに二つのドアがある。

 一つには『上官』、一つには『自宅』と銘打ってある。


「報告に少し時間がかかる。そこにソファがあるから、座って待っていてくれ」


 彼が指差した方には、横長のソファが一つ置いてある。

 背の高いランプが両側に置いてあり、暗い廊下の中でそこだけは明るくなっていた。


 ソファから視線を戻すと、エドワードは『上官』と書かれたドアの前に立っていた。

 二回ほどノックをすると、「入れ」と男の声が聞こえてくる。


「失礼します」


 断りを入れてから、部屋に入っていく。

 ドアの開閉によって、わずかに空気が揺れ動く。

 そして残ったのは、静寂だけだった。

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