第12話

 エリスの提案に明快な答えを出さないまま、二週間の時が流れた。 

 エリスも最初は答えを催促するようなそぶりを見せていたが、一向に答えを出さないのを見て、とうとうそういうそぶりも見せなくなった。


 このまま自然となかったことにできれば幸いだが、エリスは未だ諦めてはいない。

 時折ジャックの顔を見つめては、物言いたげな表情を向けている。


 エルフ族の最後の村を訪れ、一団はいよいよ帝都への帰途へつくこととなった。

 兵士達には疲労が滲んでいたが、この朗報に彼らの目に、僅かながらに光が戻る。


 太陽と月の入れ替わりを、青空と曇天模様の移り変わりを、何度も見送った。

 そして今は、何度目かの夜営についている。


 いつものようにジャックは配給される夕食を受けとり、天幕へと戻る。

 その途中、エドワードとエリスが、通訳の兵士を交えて会話しているところに出くわした。


 ジャックに気づいたエリスは、バツが悪そうに顔を背け、足早に天幕の方へと歩き去っていく。

 エドワードもまた、顔をほころばせて、他愛ないことだと言いたそうにしていた。

 

 近頃、彼らが会話しているのをよく見かける。

 エリスの悩みを聞いているだとか。エドワードに対する思いを打ち明けるとか。そういうものではない。

 何か、二人で企み事を話し合っているような、怪しげな会合に見て取れた。

 そして、その内容を常に、ジャックには秘密のうちにしている。


 改まって打ち明けさせようとは思わないが、こうまで秘密にされると、気になってくる。

 それに、何やら嫌な予感が鼻先を掠めているような気がしてならない。

 この際だからと、エドワードをとっちめて、その秘密を明るみにさせようか。


 思うのはたやすいが、実行するにはあまりに危険だった。

 もしもエドワードが気分を害して、ジャックを置き捨てるような事態になれば、せっかくの報酬の約束も水泡に帰すことになりかねない。

 エドワードの性格から見て、可能性は低いがないとは言い切れない。


 それはジャックとて不本意なことだ。

 だから、あえてその選択を取らないでいた。

 この時も、エドワードに会釈をするに留め、天幕へと向かって足を進めた。


 エリスと目が合う。言葉は交わさず、用意した食事に手をつける。

 いつも通りの夕食。だが、エリスの態度に、どこか余裕のようなものを感じた。

 嫌な予感がする。戦いの予感ではなく、面倒なことに巻き込まれるような、そんな予感が。


 その予感は、すぐに現実のものになった。

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