【信太郎15歳、紗礼12歳】眠れないの。
「お兄ちゃーん」
そんなことを言って、
「どうした?」
受験生の夜は長い……と言いたいところだが、幼い頃から早寝早起きが染みついている信太郎は、いつも20時には床につく。去年までは4時に起きて勉強していたが、さすがに受験生となったいまは3時に起きている。
そんなわけで、信太郎はそろそろ寝るかと、ベッドを整えているところだった。
ちなみに、紗礼ももちろん早寝ではあるのだが、起きるのは5時だ。そして、夜のうちに録画したドラマや歌番組を見ながら宿題をするのである。その方が見たいところを選べるし、CMも飛ばせて良いのだという。
「今日はさー、一緒に寝ようよ」
「嫌だよ。何でだよ」
一応信太郎も年頃の男、もう寝るとはいっても、いろいろあったりなかったりするわけで。
信太郎が小学校3年生の頃、2人に一人部屋が与えられた。
元々、1人1部屋が与えられるように用意だけはしてあったのだ。
喜ぶだろうと両親は思っていたのだが、意外と子ども達はそれを渋った。特に、紗礼の方が。
仕方なく、ベッドだけを別にして様子を見ること数年、完全に部屋が別れたのは信太郎が中学へ入学した時のことだった。仲が良すぎるのも困ったものである。
「……だってさぁ」
紗礼はそう言ってちらりと窓を見た。
窓には水色のカーテンがかかっている。
かなり風の強い日だった。
夕方に発令された暴風警報はまだ解除されていない。
紗礼の視線の先を見て、信太郎は「ははぁ」と呟いた。
「わかったよ。良いよ」
「やったぁ!」
そう言って、ウキウキと信太郎の枕を端に寄せ、自分の枕をその隣に置く。それを「いやいやいやいや!」といって除いたのは信太郎だ。
「ちょ、何すんの!」
「何すんのじゃないって! さすがに駄目だろ!」
「え~? やっぱ狭いかなぁ?」
「そういう意味じゃなくてさ……。まぁ、そういうことでも良いけど」
2人共細身の体型なので、寝られないこともない。昔に比べれば紗礼の寝相もマシになったので、かかと落としや膝蹴りを食らうことも恐らくないだろう。ベッドから落とされることならあるかもしれないが。
「床に布団敷くから。それで良いだろ」
「えー!!! 私、床なんてヤなんだけど!」
「寝るのは俺だよ」
「なぁんだ。じゃ、オッケー」
紗礼はけらけらと笑い、自分の枕を真ん中に配置し直し、では早速とばかりに、信太郎のベッドに膝を乗せた。
「ちょっと待て」
「何」
「俺の布団のまま寝る気かよ。これ床に敷くから、どけろってば」
「えぇ~良いじゃん。私の布団敷けばさぁ」
「あのさぁ、普通逆じゃない? 『私の布団使うなんてサイテー!』みたいな反応するもんなんじゃないの? 『お兄ちゃんの布団臭ーい』とか」
「それ、自分で言ってて悲しくならない? 臭いとか」
「いや、自分ではわからないだけでやっぱり臭いんじゃないかなって。CMでも言ってるし」
「CMはCMでしょ」
「いやー、やっぱり汗かけば臭いし」
「フツー汗かいたら誰だって臭いから」
「まぁそうだけど」
「良いから。私、ぜんっぜん気にしないから。というわけでね、おやすみ~」
「ちょ、ちょっと!」
「早く電気消してよね。私、明るいと眠れないの」
「ちょ、ちょっと……えぇ?」
「早く! お布団なんて暗くても敷けるでしょ」
「……はい」
結局、オレンジ色の白熱灯の下で、信太郎はクローゼットから寝袋を取り出し、それで寝ることになった。紗礼の方では気にしなくても、信太郎の方が気になるのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます