症状3『躁鬱』

「イェーイ!今日もロックだぜぇ!!

ありがとうっ!」


輝かしいライブだった。

今日は大成功だった。

しかし、そう思えるのはこのステージにいる時だけだ。


舞台裏に戻ると...


「ハァー...」


大きな溜息をついて、楽屋の隅に蹲った。


「こんなの全然...

みんなオレの声がうるさかったんだ...聞く人がみんな...ぁぁぁ...」


「イワビー、これ飲んで」


プリンセスが錠剤と水を渡した。

ラッキービーストから貰ったものだ。


「...」


薬を取り出し、飲んだ。





「しかし、イワビーがああなるとはね」


「うつっていうらしいよ?」


「原因は何なのかしら...?」


「元のイワビーさんに戻って欲しいです...」


「あなた達...、そんな所にいないで、普通にイワビーに接してあげなさいよ。

治るものも治らないわよ?」


4人をそう諭した。


「...そうだな」


「わかったよー」


「は、はい」


「マネージャーとして、イワビーさんと正しく接しないとですね」


頷いて理解を示した。



(イワビーがああなったのは、

何故かしら?)


それが腑に落ちない。


彼女は自らを追い込む様な性格ではないので、何らかの原因が無ければいけない。思い当たる節は一点もなかった。


薬で気持ちを落ち着かせれば、

他メンバーとは普通に接している。


私も話しかけた。


「イワビー」


そう名を呼んだ瞬間、ビクッと体を震わせ咄嗟に振り向いた。


「な、なに...」


「次のライブも頑張りましょうね!」


「...おう」


不自然な笑いを見せた。

どうしたのだろう?


今一度、ゆっくり考えてみることにした。


コウテイや、ジェーン、フルル、マーゲイとはいつもの調子で会話している。

私に見せた少々、恐縮したような態度は見せていない。


本人に理由を尋ねると、


「プリンセスがそう思ってるだけで、

別に普通だよ...?」


と言われた。やっぱり、自分の気のせいなのだろうか。


モヤモヤしたものを打ち払いたいと思い、メンバーに尋ねた。


「私と話す時だけイワビーの様子が変なんだけど、なんで?」


三人は口を開かなかった。


「...それは自分がよくわかってるんじゃないか」


「ちょっ、コウテイ!?」


「ジェーン...、もう見て見ぬフリは出来ない...」


「一体...、どういう事なの?」


そう答えると、コウテイの目付きが変わる。


「お前...、自覚が無いのか?」


「え?」


「イワビーがああなったのは、お前のせいだ。プリンセス」


名指しされたせいか、頭が真っ白で言葉が出なかった。


「お前が...、イワビーをいじめた」


「....」


「標的が私達になるのを避けようって...。私達もイワビーに悪いことをした。

だけど、原因を作ったのはお前なんだよ」


「私は何もしてない...

何もしてないっ!!」


感情的になり、コウテイに迫る。


「....」


「私がなんで彼女をあんな風になるまで追い詰めなきゃいけないの?そもそもチームでしょ?どうしてそんな」


急に彼女は胸ぐらを掴んで揺さぶった。


「八つ当たりだよ...。

数週間前からプリンセスは妙にイライラしていたじゃないか…。

言葉でイワビーを罵った。

お前の声は目障りだとか、はしゃぎすぎだとか!」


コウテイは感情を昂らせていた。


「プリンセス...、言いたくなかったが....、お前は異常者だ」


「...」


嵐の前のような不穏な雰囲気が漂い、

すぐに風が吹き始めた。


「うるさいっ!あんたなんかリーダーにするんじゃなかった!元々才能の欠片もないのよ!そんな無能がこの有能な私に向かって説教とか聞いて呆れるわ。

それともイキってるつもり?バカじゃないの?豚は豚らしく地面にひれ伏してればいいのよ」


「お前のそう言う所がイワビーを傷つけたんだ!そんなメンバーを蔑むようなヤツはこっちからお断りだ!お前はもうメンバーじゃない!」


「なに?私がいないと何も出来ないくせに。お人好しペンギンちゃん」


「大口を叩けるのも今のうちだと思え」


コウテイはプリンセスにそう忠告した。






結局、プリンセスは一時PPPを離れた。しかし、数週間後。


「ごめんなさい!私...、心を入れ替えたから!もう一度仲間に入れてちょうだい!」


と、懇願したのだった。

もちろんメンバーは承諾した。


そして現在。


「プリンセス」


バシャッ!


フルルに水をかけられる。




「ちょっと薄汚いんで近づかないでください。魚臭い」


ジェーンに鼻をつまんで怪訝にあしらわれる。



「....」


目線を合わせず、あったとしてもすぐに睨むような視線を送り、無視に徹底するイワビー



「じゃぱりまん?プリンセスのは無いよ。ゴミ箱でも漁ればあるんじゃないかな」


と、コウテイに言われる。

頼れる人物はマーゲイしかいない。


「自業自得って言うんですよ。

プリンセスさん」


と嘲り笑っていた。


プライドも、全てズタボロにされた私は、ラッキービーストから貰うカプセルが無ければ、生きていけなくなった。

毎日が、つらい。











そろそろ、大木に縄を掛けてもいい頃かな...

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る