おまけのおつまみ

おまけのおつまみです。晩酌のお供に。


百合さんの着物は無口なお父さんが贈ってくれた唯一の贈り物だったという設定です。藤色の着物、裾に菫。縹色の、百合の柄の帯。百合さんは一度しか着たことはなく、あとは大事に大事にたんすの中にしまっていた事と思います。


あと慶太と直太は清太とだいぶん離れていて、清太は40手前で出来た子なので、中学生3年と小学6年のお兄ちゃんと3歳の清太、42の夫婦が最後の全員揃った家族写真。


お父さんは笑う時も口角を上げるくらいで、写真でにこやかなんてのは珍しく、口は当然緊張して真一文字。百合さんは顔立ちが綺麗なので真顔だと冷たさを感じさせますが、笑うと目尻に皺が出来て可愛らしいお嫁さんです。

慶太も直太もどちらかというと百合さん似でやんちゃ坊主。ふたりとも歯を見せてニカッと笑います。清太はお父さん似で、眉根を寄せて今にも泣きそう。この家族写真は遺影にも使われています。




時代背景としては田舎の昔ながらの大きい家で、日本はまだそんなに栄えてはいないが、これから経済が盛り上がる活気に溢れた時代のイメージ。ご近所づきあいや地域の関わりが深い田舎は、周りが心配してくれていたとしても世話を焼かれたり義務が増えたり、人付き合いが苦手なシングルファーザーにはきつかったのではないかなと思います。お見合いなど親戚に持ってこられてもお父さんは全部断っていました。それは無愛想だからという理由だけではないと思います。


お父さんは物書きになりたかったけれど頭がよかったために親が許さず、この時代では珍しく、高卒ですぐ一流商社に入れたエリートです。なのでお家は、田舎のじいちゃんばあちゃんの家で馬鹿でかくて部屋あまりまくってるような所あるじゃないですか。あんな感じ。地元ではちょっと目立つ裕福さで、贅沢はしませんが書斎や子供部屋、応接間など、部屋数が多く、縁側・庭も子供達がはしゃいでかけっこなどできる広さです。百合さんはさぞかし草むしりや雑巾がけなどお掃除が大変だったのだろうなと思います。


そんな広い、2人だとだだっ広いだけの家で親父さんは清太と2人になってからもずっと、百合さんや慶太、直太の声が聞こえてたんではないですかね、多分。子供たちの上ではしゃぐ足音、食器を洗ったり料理をする百合さん、時々聞こえる悪戯を企む3人の笑い声。

清太が東京へ物書きになるため出ていってから、百合さんとか顕著に心配してお小言を言ってたのかなと、それを聞きながらずっと、いやむしろその声に耳を傾けるためにお父さんは晩酌してたんだろうかと思うと書いたのは自分なのに泣きそうです。


この後清太先輩はバカ売れしてバイトなんて必要なくなるけど、直樹が世話焼けるやつだから多分バイトはやめません。バイト明け飲みに行くことも、下書きを直樹にやることも今まで通り。直樹はバイトをしながら、庭師になろうと住み込みになって勉強し始めて、いつか先輩のあのご実家の庭を綺麗にさせてくださいって、一人前になったら言うつもりです。でもどれだけ大変でも2人とも深夜バイトはやめないし、雨の日は特に絶対シフトを入れます。百合さんが来た時、手帖を返せなかったらいけませんから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

縹の手帖 凪澄 @NAGISUMI

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る