第73話 武器屋タンナケット

「な、なに、みんなで睨んで。こ、怖い!?」

 床に座った三人が、もの凄い顔で俺を睨んでいた。

「……この馬鹿野郎!!」

 ミーシャが過去最大級の鼻ピンをした。

「……だ、だから、マジで疲れただけだって。いきなりこんだけ魔力使ったら、誰だってこうなるって。ミーナなら分かるだろ!?」

「……あの、真面目にいってますか。なんで、怪我したらいわねぇんだよ、馬鹿野郎!!」

 ミーナがやっぱり過去最大級の鼻ピンをした。

「……なるほど、そうすりゃいいんだな。この、馬鹿野郎!!」

 国王の超絶鋭い鼻ピンが炸裂した。

「お、お前ら、こっちの方が痛ぇよ……」

「あ、あのさ、なにクソ意地張ってるんだか知らないけどさ、格好良くもなんともねぇよ。いうこと聞かねぇならここで終わりだ。帰るぞ!!」

 ミーシャが睨んだ。

「……分かったよ。別に格好付けてるわけじゃねぇよ。過激な調整したせいで、ミーナの杖がもう限界なんだよ。これ以上酷使したら、ぶっ壊れて暴発しちまうぜ。だから、なるべく使わせねぇようにしていたんだ」

「えっ!?」

 ミーナが自分の杖をみた。

「わ、分からないけど……」

「回復魔法で分かるぜ、もうヤバいぞ。全く安定してねぇからな。だから、まともに効かねぇんだよ。お前の腕のせいじゃねぇんだ」

 俺はため息を吐いた。

「うっかりしてたぜ、脳天気に馬鹿やるための仕様だったからな。今手持ちのもので、ちょっとでもまともなものにしてみるか。ただし、バランスもクソもねぇから、かなり扱いにくくはなるぞ」

 俺はもう一度ため息を吐いた。

「こんなの私じゃ弄れませんから、任せますよ。責任は取って下さいね」

 ミーナが笑みを浮かべ、杖を俺の前に置いた。

「……こりゃひでぇな。よくもったもんだぜ。ミーシャ、アレ!!」

「ったく、ここでやるかよ。久々にみるな!!」

 ミーシャが背負っていた背嚢から、工具を色々取りだしておいた。

「こ、これ、職人が普通に使うヤツだぞ!?」

 ミーナが声を上げた。

「猫手仕様に改造はしたぞ。これだけうるさいタンナケットが、自力で杖を作れないっておかしいだろ!!」

 ミーシャが俺の頭にベルトを巻き、単眼鏡を右目の前に下ろした。

「あいよ!!」

「おう、ちっと掛かるぜ」

 俺はミーナの杖の分解にかかった。

「……モロに職人だぜ」

「……ああ、なんか妙にマイスターな感じだな。初めてみたぜ」

 俺は工具を駆使して、杖を根本から分解した。

「……やっぱり、いい仕事しやがるぜ。これが出来る野郎が、なかなかいねぇんだよな」

 杖の核心部に工具を差し込み、基礎となるデカい魔硝石をそっと取り外した。

「ミーシャ、アレとソレ。二番の箱だと思ったが、久々で忘れちまった」

「馬鹿野郎、四番の三列だ!!」

「……まさに、助手だぜ」

「……アレとソレで通じやがったぞ」

 俺は息を吐き、手元の箱に手を伸ばした。

「ミーナ、相談だがアレとアレ、どっちが好みだ?」

「わ、分からねぇよ!!」

 俺は小さく笑った。

「まあ、聞くまでもなかったぜ。絶対こっちに決まってるんだ……」

「……な、なんか、私の事分かってるぞ」

「……ああ、そういうヤツだぜ」

 俺は新しい魔硝石を慎重にはめ込み、工具で軽く押し込んだ。

「……なんか、微妙に角度がイマイチだな。やり直しだ」

「……始まったぜ。」

「……ああ、そういうヤツだぜ」

 俺は慎重に杖を組み直し、サブの魔硝石の配合を考えた。

「……この馬鹿野郎を安定型にするには、どうしたもんかな。ミーナの魔力特性を考えると、下手に妥協はできねぇんだよな。ここ間違えるとクソの役にも立たねぇぜ」

「……変なオーラが出始めたぞ」

「……ああ、完全に魔法使いじゃなくて生粋の職人だぜ。うちにも欲しいくらいだな」

 ミーシャが杖をみた。

「うん、四十五番と九十九番のグレードを二段階落として、代わりに六十七番と七十六番のグレードを四つ上げたらどうだ。ちとばかりバランス悪いけど、標準偏差の中に収まるだろ。一般的な杖と魔力放出特性はほぼ同等になるから、変な負荷は掛からねぇぞ!!」

「……ダメだ。それじゃ、平均的過ぎてミーナの偏った魔力特性に合わねぇ。だから、難しいんだよ。下手に弄るとピークパワーがデカ過ぎてぶっ壊れちまうぜ」

「そっか、だったらあれだ。そこのセーフティを弄っとけ。出力が落ちるけど十分だろ!!」

「……一考の価値はあるが、そんな単純な細工じゃなぁ」

「おいおい、待て。なんか妙な光景になってるぞ!?」

「な、なんだ、アイツ分かる野郎なのか!?」

 ミーナと国王が唖然とした。

「うん、何度となくみてたら覚えちまったぞ。深い意味は分かってねぇけど、単純な道具としてなら機械みたいなもんだしね。なんか変な罠とあんま変わらん!!」

「わ、罠と一緒かよ。これ、そんな単純じゃねぇぞ!?」

「す、すげぇおもしれぇ野郎だな。なんだ、コイツ!!」

 国王が爆笑した。


「まあ、一応組んだが、これは扱いにくいぜ。しかも、攻撃魔法は期待しねぇ方がいい。手持ちの材料じゃこれが限界だな……」

 俺はため息を吐いた。

「……うわ、背中に哀愁が半端なく漂ってるぜ!?」

「……納得いかねぇと、すぐあれだぜ。なんかよ、自分が許せねぇらしいぜ」

 俺はミーナをみた。

「おい、俺を思いきりぶん殴れ!!」

「ええ!?」

 俺はミーナを睨んだ。

「早くしろ、ブチキレちまうぞ!!」

「……わ、分かった」

 ミーナは俺の首根っこを掴んでぶら下げた。

「半端なことすんじゃねぇぞ。手加減しやがったら、一発ブチ込むからな!!」

「も、もう、ブチキレてるじゃん!?」

 ミーナはため息を吐き、俺をぶん殴った。

「馬鹿野郎、気合いが足りねぇ!!」

「も、もう、泣きそう……」

 ミーシャが苦笑してミーナから俺を引ったくった。

「馬鹿野郎、これは私にしか出来ねぇよ。人に押し付けるんじゃねぇ!!」

「じゃあ、お前でいいよ。早くしろ。もう、とにかくムカついてしょうがねぇんだよ!!」

「いくぞー!!」

 ミーシャが俺を思いきりぶん殴った。

「おう、これでいい。すっきりしたぜ!!」

「……こ、これは、私にはハードだぜ。ちょっと貸せ!!」

 ミーナがミーシャから俺を引ったくって抱いた。

「な、なんだよ!?」

「うるせぇ、テメェのせいで自分に対してムカついきたんだよ!!」

「なんだよ、可愛がられてるじゃねぇか。まあ、タンナケットをぶん殴れるってのはすげぇな。俺も出来ねぇよ!!」

 国王が笑った。

「だって、こうしないとうるさいんだもん。私だって、最初はキツかったぜ!!」

 ミーシャが苦笑した。

「なんて我が儘な猫野郎なんだよ!!」

「だって、猫っぽい野郎だもん」

 俺は笑った。


「さてと、ミーナの杖は多少まともにはなったが、所詮は応急処置だぜ。五階のベースキャンプに行けば、ナターシャのスペアが置いてあるはずだ。そっちを使った方がいいぜ」

 ミーナが笑った。

「冗談でしょ。あり合わせだけど、タンナケット先生が作った杖だぞ。どこの誰が作ったか分からない人の杖なんて使えないだろ!!」

 俺は小さく笑った。

「アイツが使ってるスペアは、あのジジイが作ったヤツだぞ。知ってるんだ、アイツがあのジジイの腕に惚れ込んで、頼み込んで作ってもらってるってな。魔法は頑なに教えてくれねぇみてぇだがな。まあ、ケチくせぇから絶対に教えねぇだろな」

 ミーナがため息を吐いた。

「だったら、なおさらです。今、私がどっちを信じてるか分かるでしょ。今後は、タンナケット先生が作った杖しか使いませんよ。あの腕を見て決めましたから」

 ミーナが笑った。

「お、お前、俺は専門じゃねぇぞ!?」

「プロは使う道具を自分で決めるものですよ。そう決めたら、一途ですからね!!」

「おいおい、タンナケット野郎がついに職人にまでなっちまったぜ。なんなら、俺の弓も作ってくれよ。お前ならやりそうだぜ!!」

 国王が笑った。

「馬鹿野郎、俺は武器屋じゃねぇよ。何でも出来ると思うんじゃねぇ!?」

 ミーシャが笑って、背嚢から拳銃を取りだした。

「これ、誰が設計したと思う。この猫だぞ!!」

「んな!?」

「馬鹿野郎、なにやってやがる!?」

「……ほんの、出来心だ」

 ミーナがミーシャから拳銃を引ったくった。

「おいおい、これマジでタンナケットが!?」

「うん、なんかすげぇ色々調べて研究してたぞ!!」

 ミーナが俺をみた。

「私もよろしく!!」

「馬鹿野郎、お前は魔法使いだろ!?」

 ミーナは表情をキリっとした。

「刃物は廃業したけど、こっちは現役だ!!」

「馬鹿野郎、半端な事するな!!」

「お、お前、マジで何でも屋だな。これも頼むぜ。もっといけるはずなんだがよ、俺の知識じゃもう分からねぇよ!!」

 国王が弓をかざした。

「お、落ち着け、俺を武器屋にするな!!」

「よし、武器調達ルートが出来たぞ。安心したぜ!!」

 ミーナが笑みを浮かべた。

「お、おい、俺を魔法使いにしてくれ!?」

「まあ、もう手遅れだな。副業でやっとけ。俺のも頼むぜ!!」

「馬鹿野郎、過労死しちまうよ!?」

 俺はミーシャの裏に逃げ込んだ。

「あーあ、怖くなっちゃたぞ。こういうとこは猫だよな!!」

 ミーシャが俺を抱きかかえた。

「ほら、みんな期待してるんだからやってやれ!!」

「……分かった」

 ミーシャが前を見た。

「いいってよ。よかったな!!」

「……すげぇ、冗談でいったら本当にやってくれるみたいだぞ」

「……いってみるもんだな」

 ミーナと国王が笑った。

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