第72話 もはや……
「よし、いくか。まずはこの階段野郎を仕留めるぜ!!」
ミーシャが床に屈み、俺は結界を張った。
「おし、これが終わったら、お前らの愉快な仲間野郎に会わせろ。なんか楽しそうじゃねぇか!!」
弓を構え、国王が笑った。
「ビックリしちまうかもな。まあ、それはそれで楽しみだな」
「……ビックリどころか、あのボロ宿ぶっ飛ぶかもね」
ミーナが笑い、杖を構えた。
「……おい、きたぜ。また、大盤振る舞いだぞ!!」
「ったく、どっから出てきやがるんだかな」
俺は呪文を唱えた。
周囲に閃光が走り、階段を奥で大爆発が起きた。
吹き出した炎が結界に包まれたミーシャを焦がした。
「……ふん、大盤振る舞いしてやったぜ」
「馬鹿野郎、俺の獲物がいなくなっちまっただろうが!!」
「……い、今の凄まじい破壊力っぽいぞ。もはや、高度過ぎて呪文構成すら読み取れん」 ミーナの顔が引きつった。
「おい、弟子。このくらいでビビるな。もっとワクワクする野郎をしこたま搭載してるぜ」「弟子まで取ったのかよ、生意気な野郎だぜ!!」
「……搭載って、もう兵器の自覚ありだぜ」
俺は笑った。
「兵器以外の何者でもねぇよ。バカスカ撃ちまくるしか使い道がねぇもん」
「相変わらずだな、おまえの一撃でどれだけ街がぶっ飛んだかねぇ!!」
「だって、邪魔くせぇんだもん。消しちまった方が早いぜ」
「……なかなか大雑把な野郎だぜ。気に入った!!」
ミーナが笑みを浮かべた。
「馬鹿野郎、超絶精密破壊兵器だぞ。その余波でぶっ飛んだだけだ。まあ、結局根こそぎなくなるから同じだがよ!!」
「……狙わなくていいじゃん」
俺は笑った。
「どうせぶっ壊すんだから同じだな。でも、なんでか狙わねぇと気が済まなくてよ。ターゲットの家の部屋のベッドの枕狙ったりするぜ。でも、結局全部消えるけどな!!」
「……全く意味がねぇぞ。まあ、狙いたくなるのは分かるぜ!!」
ミーナが親指を立てた。
「だろ、なんか気持ち悪いぜ。無差別破壊ってのはよ!!」
「よくいうぜ。ああ、教えておいてやる。俺は戦場で護衛をコイツしかおいた事がねぇんだ。他にいらねぇもん、脇においときゃ勝手に必要な事を全部対応してくれるからな。ここじゃどうだか知らんが、コイツは最強の守護神みてぇなもんだぜ!!」
「き、気持ち悪ぃ事いうんじゃねぇ。痒くなっちまうだろ!!」
ミーナが笑った。
「まあ、そんなもんですかね。一個置いときゃ何でもやるから!!」
「お、お前もかよ、馬鹿野郎。ただのお節介な雑用だろうが!!」
ミーシャが息を吐いた。
「タンナケット、ぶん殴っていい?」
「なんだよ、詰まったか。おらよ!!」
ミーシャが近寄ってきて俺の首根っこ捕まえてぶら下げ、思い切りぶん殴った。
「よし、気合い入ったぜ!!」
「ったく、しょうがねぇ野郎だな」
「お、お前、マジすげぇな。なんでもやりやがる!!」
「……すげぇムカついたぞ。今の」
ミーナがミーシャを睨んだ。
「なに、猫好きなの。でもよ、俺のどこが猫だよ。半分人みたいなもんじゃねぇの?」
俺は笑った。
「ダメ、猫は猫!!」
ミーナが俺を抱きかかえた。
「馬鹿野郎、これじゃ警戒できねぇよ!?」
「……ダメ」
「お、お前ら、迷宮をなんだと思ってるんだよ。これで、よく死なねぇぜ!!」
国王がミーナの腕から俺を下ろした。
「こうしといてやれ、コイツのプライドだぜ」
「そんな大袈裟なもんじゃねぇよ。自分の仕事が出来ねぇのがムカつくだけだぜ」
「……あとでミーシャにゲンコツでも落としおきます。ムカついたので!!」
ミーナがミーシャに中指をおっ立てた。
「……だ、だから、下品だからやめなさい」
「お前がいうなよ。気持ち悪いぜ!!」
なにかが派手にぶっ壊れる音がした。
「トドメさしたぜ、この野郎!!」
結界を解くと同時にミーナがミーシャに詰め寄った。
「……なにやった?」
「……な、なんか、めっちゃブチキレてるぞ!?」
「あーあ、知らねぇぞ」
「おお、怖いねぇ」
ミーナの拳がミーシャの頭を直撃した。
「馬鹿野郎、よりにもよって自分の飼い猫をぶん殴るな!!」
「……ごめんなさい」
ミーナが息を吐いた。
「ぶん殴るなら私にしとけ。まだマシだぞ!!」
「……なんか怒ってるからそうずるぜ。なに、猫ってぶん殴ったらダメなの?」
「馬鹿野郎、なんでぶん殴れるんだよ。そっちの方が分からねぇよ!!」
ミーナはまたゲンコツを落とした。
「そのよく分かんない神経を叩き直す。この野郎!!」
ミーナがまたゲンコツを落とした。
「……おい、こりゃかかるぞ。メシでも食おうぜ」
「……そうだな。やれやれ」
「……そうか、タンナケットってぶん殴ったらいけない生き物なんだな。今度から蹴飛ばそう」
「おおい、この馬鹿野郎どうにかしろ!?」
「しょうがねぇだろ、俺ってそういう役目なんだよ。ミーシャと二人でやってた時にそうなったんだ。コイツは、迷宮じゃ俺の事を本心じゃ猫と思ってねぇからな。どこのバカが猫なんか連れてこんなヤバいところくるんだよ」
俺は苦笑した。
「い、いや、これは……」
「まあ、そう思っとけ。どうも、アイツはこれを対等の相棒ってみてるみたいだからな。背中みてりゃ分かるぜ。こういうの俺も欲しいぜ、怖くてあんな無防備になんかできねぇよ!!」
国王がミーナの肩を叩いた。
「……馬鹿野郎、だったら猫みたいな姿してるんじゃねぇ!!」
「俺もそう思うぜ。半端仕事しやがってよ!!」
俺は笑った。
「よし、それはいいや。いくぞ!!」
「……よくねぇけどいってやる」
「おう、仕事だぜ」
「ったく、メシ食い過ぎちまったぜ!!」
俺たちは地下四階に下りた。
「おらぁ!!」
「ったく、いい加減にしやがれ!!」
怒りにまかせて叩き付けた攻撃魔法が、通路の壁や床ごと魔物の群れをぶっ飛ばした。「ったく、なんだよ。ウジャウジャ湧きやがって……」
「……ついに、タンナケットがブチキレちまったぜ」
「だってよ、なんだよこれ。こんなの制御できねぇよ。この時点でもう、俺は判断するしかねぇだろ。それが、俺の仕事だぜ」
俺は息を吐いた。
「おい、落ち着け。らしくもなく、芯から熱くなるなよ。まだ、早いぞ」
ミーシャが笑みを浮かべた。
「……おい、国王。全軍ブチ込め。根こそぎぶちのめすまでは、この迷宮を封鎖しろ。こんな場所に入るもんじゃねぇ」
「ああ、ダメだこれ」
ミーシャが俺を抱きかかえた。
「イライラすんなって、タンナケットが短絡思考になってるぞ!!」
「……微妙だな。捻りが足りん」
「ったく、ちっと頭冷やせ。休憩だ!!」
国王は苦笑して床に座った。
「よっぽど我慢出来なかったか。こんなタンナケット、みた事ないな」
ミーナが苦笑した。
「まあね、こういうときもあるさ。これでも、感情はあるからさ!!」
ミーシャが俺の背を撫でた。
「……せめて、五階のベースキャンプまででも使えればな。これじゃ、かなりの手練れでもたどり着けねぇぜ。俺たちだってかろうじて進んでる状態だからな。さて、どうしたものか」
俺は小さく息を吐いた。
「まあ、結論を急ぐなって。その分罠が減ったし、ある意味難易度は下がったともいえるぞ。一番の敵は魔物なんぞじゃない!!」
ミーシャが強く抱きしめた。
「まあ、そうでしょうね。面倒な罠の方がよほど厄介です。魔物なんて、ただぶちのめせばいいだけですからね」
ミーナが笑った。
「……ただぶちのめすか。今の俺や国王の怪我をみて、あの連中で対応できると思うか。自慢するわけじゃねぇが、それなりに戦ってきてるからな。ここがどんな程度かは分かるつもりだぜ。もはや、冒険野郎が楽しみにくる場所じゃなくなってやがる。命捨てる覚悟で、戦闘訓練でもしたきゃ別だがな。さすがに、ちょっと疲れたな」
「ん、タンナケット!?」
ミーシャが声を上げた。
「マズい、早くしろ!!」
「ちょ、分かった!!」
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