第71話 水の精霊に愛されし猫?
「よし、地下二階は大体把握したぞ。これ、小まめに掃除しないと使い物にならないな。魔物が多すぎるぞ!!」
「ったく、この迷宮野郎は手間がかかるぜ」
俺は苦笑した
「馬鹿野郎、そもそもの使い方が間違えてるんだよ。だが、気に入ったぜ。お前らだけじゃ無理だ。軍の暇してる野郎どもに仕事くれてやるか。まあ、これなら千五百人ってとこだな!!」
「……せ、正規軍が投入されるの!?」
国王は笑った。
「もちろん、普通の冒険者に偽装してな。まあ、このくらいは楽勝だろう!!」
「なんだ、気前がいいな!!」
俺は笑った。
「いいんだよ、このくらいしか出来ねぇんだからよ。軍ってのは使うためにあるしな!!」
「……タンナケットのコネがすげぇ。今度、なんかの時よろしく!!」
ミーナが笑った。
「おう、いってくれ。この馬鹿野郎に頼めば、大体やってくれるぜ!!」
「おう、ガンガン使ってくれ!!」
「……こ、国王を馬鹿野郎呼ばわりして、こき使う猫だぜ。半端ねぇ」
ミーシャが息を吐いた。
「よし、地下三階の階段様だぜ。この野郎をぶちのめさねぇと先に進めねぇ!!」
「……こっちはこっちで、戦いだぜ」
俺はミーナをみた。
ミーナは呪文を唱えた。
階段にうずくまったミーシャの周りに結界が展開された。
「悪ぃな、ちと暴れすぎで一時的に魔力がヤバいんだ。不安定な結界を張るわけにはいかねぇ」
「休んで下さい。いざというとき困りますからね」
ミーナは杖を構えた。
「んじゃ、俺はサポートに入るぜ!!」
国王は弓に矢をつがえた。
俺は杖を構え、ミーシャの背中を見守った。
しばらくして、何かが壊れる音がして、ミーシャが親指を立てた。
「んだよ、大した事ねぇじゃん。期待しちまったぜ!!」
「馬鹿野郎、この期に及んで遊んでるんじゃねぇ!!」
「やっぱ、アイツいいぜ。このペースを維持出来るんだぜ。タダもんじゃねぇな!!」
国王が弓を下ろした。
「結構、根性で頑張ってるぞ。普段ならとっくに撤退してるはずだからな」
「私なら二度とこないですよ。ここまで変わったら、刃が立たないどころではないですからね」
ミーナが苦笑した。
「そうならねぇように叩きのめそうぜ。生意気に牙なんか出しやがったからな、へし折ってやるぜ」
「なんでもいいが、死ぬなよ。お前、結構ヤバいからな!!」
国王が笑みを浮かべた。
「冗談じゃねぇ。こんなところでくたるばような、ヤワな猫じゃねぇよ。知ってるか、猫って九つの魂があるってな。つまり、なかなかしぶといぜ」
「……そんな諺、どっかで聞いたな」
ミーシャが手を振った。
「いくぞー!!」
「……か、軽い」
俺たちは階段を下りた。
「そうだ、地下三階っていえばこれだぜ!!」
俺は氷の浮島を作った。
「おう、久々だな!!」
すぐさまウンディーネが顔を出した。
「な、なんだあれ!?」
国王が声を上げた。
「おう、この二匹の飼い主だぜ!!」
ミーシャと俺を指差し、ウンディーネが笑った。
「か、飼い主っていわれたぞ……」
ミーシャが俺をみた
「しらねぇよ、もう好きにやらせとけ!!」
国王が爆笑した。
「お、お前ら、マジでここでなにやってるんだよ。楽しみすぎだぜ!!」
「……ついに、正式に飼い主宣言しやがったぜ」
ミーナが頭を掻いた。
「おい、なんか知らねぇけど乗れ。面倒くせぇ」
俺たちが浮島に乗ると、ウンディーネはミーシャの頭を撫で、俺をみた。
「……ちょっと待て、お前そんな怪我でここまできたのか」
ウンディーネの表情が固まった。
「なんとかな、まあ問題ねぇ」
「馬鹿野郎、ちょっと待て。どう考えたって、もう長く持たねぇよ!!」
ウンディーネは俺に手をかざした。
「な、なに、そんなにヤバかったの……」
ミーシャが呟いた。
「まあ、正直にいうと、よくここまできたって感じだぞ。ここで治療してもらえる事を当てにしてたな。とんだ冒険野郎だよ」
ミーナが息を吐いた。
「……無茶すんなって、私には分からないんだぞ!!」
ミーシャがため息を吐いた。
「無茶かどうかは俺が判断する事だ。大丈夫だって確信していたぞ。コイツと召喚契約しただろ。居場所は把握していたからな」
俺は小さく笑った。
「だろうと思ったぜ。なんか計算してやがるなとは思ったがよ……じゃなきゃ、とっくに戻ってるよ。いっておくぜ、コイツは昔から冒険野郎だが、絶対に考えなしで勢い任せの冒険はしねぇ。猫ってのは慎重なんだよ!!」
国王が笑った。
「だからって……はぁ、とんだ飼い猫だよ」
ミーシャが苦笑した。
「なんだお前、そいつの飼い猫になったのかよ。てめぇ、甘えてるんじゃねぇよ!!」
「……あ、甘えさせてあげて、可哀想だから」
「馬鹿野郎、男がメソメソ甘えてるんじゃねぇ!!」
「うるせぇ、いいじゃねぇかよ。俺だってなんかそんな時があるんだよ!!」
「馬鹿野郎、テメェが甘えるなんて気持ち悪いんだよ。このオヤジ猫野郎!!」
「……ひでぇ」
ウンディーネの表情が微かに曇った。
「おい、ちと覚悟しろ。ギリギリだぞ。黙っててくれ!!」
「……マジ?」
「……やっぱりな」
「……うわ」
ウンディーネ手から放たれる光が俺を包み、しばらくして消えた。
「……危ねぇ。なんか普通に立ってやがるけど、三回くらい心臓止まったぜ」
「馬鹿野郎!?」
「うん、いい根性だぜ!!」
「こ、根性の問題!?」
俺は小さく笑った。
「……これも、ロマンだぜ」
「どこがだ馬鹿野郎!!」
「うむ、男のロマンだな。ある意味死んでるのに、平然と立ってやがる。馬鹿野郎だぜ」
「ど、どんな構造してるの!?」
ウンディーネはため息を吐いた。
「勘弁してくれよ、お前ら可愛いんだからよ……」
「か、可愛いって……」
「これ、いいこと?」
「なんだよ、ここでも甘えてるのかよ。この、腐れ猫野郎!!」
「……これは不可抗力だぜ」
ウンディーネはゆっくり島を押し始めた。
「……無理、なんか安心したら、パワーがでねぇ」
「……すげぇやつれてるぜ」
「おう、悪かったな。助かったぜ!!」
浮島に乗って地下三階を進んでいくと、ミーシャがクリップボードの紙に書き込みをした。
「ここは変わってないね。なんか、安心かな」
ミーシャが笑みを浮かべた
「おう、筋力と気合いと根性で支えたぜ。ったく、いきなりなんか変になるから焦ったぜ!!」
ウンディーネがニヤッと笑みを浮かべた。
「なんだ、コイツも根性野郎か。気にいったぜ!!」
「どいつもこいつも、根性で切り抜けるな!!」
ミーナが肩を落とした。
「……頼む、根性とか気合いだけで何でも切り抜けるな。ついていけないぜ」
「馬鹿野郎、気合いと根性がなきゃなにもできねぇ。基本だろ!!」
国王が笑った。
「おう、いってこい……って待て、そういや用意しといたぜ!!」
ウンディーネがミーシャと俺に首輪をつけた。
「ぎゃああ!?」
「あーあ……」
「お、お前ら、マジ笑える!!」
国が爆笑した。
「……うわ、これは」
「おう、それ取れたらまたつけてやるぜ。どっかに引っかかったら外れるようなってからよ!!」
「お、おもっくそ、猫用じゃねぇか!?」
「俺は普通だな。問題ねぇ」
「馬鹿野郎、これ以上笑わせるな!!」
「……ミーシャとタンナケットって、他にはいねぇナイスなコンビだぜ!!」
ミーナが笑った。
「ん、お前も可愛いな。これ、余ってるからつけてやる」
ウンディーネはミーナにも首輪をつけた。
「こら、まて!?」
「おう、いってこい。待ってるから、ちゃんと帰って来いよ!!」
ウンディーネが引っ込んだ。
「……おいおい」
「なんだ、いいじゃねぇか。俺なんて二個もあるぜ。どっちだよ」
「……あ、あのな」
「馬鹿野郎、もう耐えられねぇ。ちょっと待て!!」
国王が床に蹲った。
「……タンナケット、間違ってもそっちじゃねぇからな!!」
「なんだよ、お前っだってついてるのに、偉そうなこというなよ」
「……ってか、これどう引っ張っても取れねぞ。引っかかったらどうするんだよ!!」
「ったく、なんだあれ。みた事ねぇぞ!!」
国王が小さく笑った。
「まあ、水の精霊なんだがよ、なんでか気に入られちまってよ。なにかと世話になってるんだ。なかなかいい奴だぜ」
「へぇ、妙な知り合いができたもんだな。この迷宮は面白いぜ!!」
国王が笑った。
「よし、もうそれ気にするのやめていくぞ。変にブチキレられたらシャレになんねぇから、好きにやらせとけ」
「……い、いいけどさ」
「……私まで巻き込まれたぜ」
地下三階から地下四階の階段の前で、ミーシャが止まった。
「そ、そろそろ休憩いいかな。もう限界だぜ!!」
ミーシャが俺を抱きかかえた。
「だって、休もうぜ」
「おう、分かったぜ!!」
「はぁ、疲れた……」
俺たちは床に腰を下ろした。
「はぁ……もう勘弁してくれ。神経がもたねぇ!!」
俺を強く抱きしめ、ミーシャが叫んだ。
「いやぁ、大したもんだぜ。この迷宮にここまでのヤツがいるとはよ!!」
国王が弓の手入れを始めた。
「だいぶ酷使したからな……まあ、まだ大丈夫だな。これよ、弦を張り替えるのがエラい大変でよ。念のため丈夫なやつにしておいてよかったぜ!!」
「……ここまでこれただけでも奇跡に近いな。この面子だからだね」
ミーナが苦笑した。
「これをどうでもいい感じにするのが好きでよ。ヤバい怪我をするのは俺たちだけでいいぜ。これを、ミーシャとやってたんだぜ。なぁ、何回大怪我したっけ?」
「知るか、今度怪我したら猫鍋にしてやるからな!!」
「……うわ、先生がブチキレたぜ」
「おいおい、食っちまうのかよ。そりゃ、もったいねぇぞ」
「……いや、猫鍋の意味、なんか違う気がするぞ」
ミーシャは俺を強く抱きしめ、そのまま目を閉じた。
「なんでぇ、やたら大事にされてるじゃねぇかよ。逃げちまって良かったかもな。あのジジイだったら、今度はなにやったかわからねぇぜ!!」
国王が苦笑した。
「……これは許せない事ですよ。例え、どんなに高名でも」
ミーナが息を吐いた。
「まあ、たまには猫が飼い主を選んでもいいだろ。なんか、こんなになっちまったからな!!」
俺は笑った。
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