第70話 地下二階清掃

「ふぅ……これで階段は大丈夫だね。面倒な複合型だったけど、一カ所ぶっ壊せば機能しなくなるから」

 ミーシャが額の汗を拭った。

「おう、お疲れさん。先生にしては、手間取ったな」

 ミーシャが頷いた。

「なかなか手強いぞ、この迷宮の難易度が一気に跳ね上がったな。これじゃ、私たちじゃなくたって、まず進めないぞ。まさに、迷宮がブチキレた感じだね」

 ミーシャが息を吐いた。

「ほら、こんな事やってるからよ。真面目にやれってか!!」

 国王が笑った。

「馬鹿野郎、上等だぜ。黙らせてやるよ」

 ミーシャが小さく笑った。

「黙らせるねぇ……私の経験がこれ以上進むなっていってるけど、ここは主義を曲げるか。うちの猫をズタボロにしやがったからな。私もブチキレたぞ!!」

「おいおい、ここで熱くなるな。俺なんかどうでもいいから、真面目に考えろ!!」

 ミーシャが笑みを浮かべた。

「これでも、いつも真面目だぞ。この程度、どうってことねぇ!!」

「……絶対、熱いな」

「いいじゃねぇか、先生のいうこと聞くんだろ!!」

 国王が笑みを浮かべた。

「やれやれ、こりゃ大変だ」

 ミーナが苦笑した。

「おら、いくぞ!!」

 ミーシャがゆっくり階段を下りはじめた。

「お、おい、いくぞ。ほっとくと突っ走るぜ!!」

「おうよ!!」

「あーあ、制御不能だな」

 ミーシャのあとを追って、俺たちも階段を下りた。


「うん、階段は大人しいな……さっきぶっ壊した罠だけだね」

「なら、問題ねぇな。問題は地下二階だ、あのコボルト野郎も気になるぜ」

「コボルト野郎?」

 国王が不思議そうな顔をした。

「おう、ここで知り合った妙な野郎でよ、地下二階でメシ作ってるぜ」

「な、なんだそりゃ。面白過ぎて堪らねぇぜ!!」

 国王が笑った。

「これだけ変異してると、あの通路自体がどうなったかな。ちょっと読めないね」

 ミーナが息を吐いた。

「いってみりゃ分かる。まあ、覚悟はしてるぜ」

 俺は杖を構えた。

「ったく、変なとこでメシなんか作ってるからだよ。なに考えてやがる!!」

 国王は笑みを浮かべた。

「だからいいんじゃねぇか。迷宮でメシ食えるんだぜ。しかも、美味いってな」

 ミーシャが立ち止まった。

「タンナケット、最大出力。これはヤバいぞ!!」

「あいよ!!」

 俺は呪文を唱えた。

 杖の先で魔力光が弾けた。

「馬鹿野郎、俺の前で禁術使いやがったな。今は国王じゃねぇから、忘れちまったけどよ!!」

 国王が笑った。

「そういうところが、お前のいいところだぜ。お堅いのはよくねぇな!!」

「……即死魔法ね。最悪の魔法だけど、今は心強いな」

 ミーナが苦笑した。

「こうやって使う分には、俺も多少は罪悪感は消えるぜ。変に使ったら立ち直れねぇよ。なんでこんなの作っちまったね」

 俺は苦笑した。

「ジジイのこといえねぇよ。好奇心に負けやがって!!」

 国王が苦笑した。

「俺も若かったな。馬鹿野郎だぜ」

「……タンナケット、オッサン臭いぞ」

 ミーナが鼻ピンした。

「馬鹿野郎、七才っていったら人間じゃ四十七才くらいだぜ。オッサンで悪かったな」

「……これは、知りたくなかったぜ」

 ミーシャが頷いた。

「なんとかなりそうだな。大掃除やるぞ!!」

 ミーシャが階段を下りた。


「ったく、ボコボコ湧いてきやがってよ。さすがにキツいぜ」

「んだよ、もうへばったのかよ。そういう俺も、さすがに痛ぇぜ!!」

 俺と国王は笑った。

「ミーシャ、いい加減止まれ。回復が追いつかない!!」

 鋭いミーナの声が飛び、先頭を進んでいたミーシャがビクッとした。

「馬鹿野郎、殺す気か!!」

 一声叫びミーナは息を吐いた。

「おいおい、お前も熱くなるなよ。あいつだって、ちゃんと考えてるぜ。こんな魔物溜まりで止まってみろ、それこそ最悪だ。ここは、気合いで抜けるしかねぇんだよ」

 俺は笑った。

「そういうこった、まあ、俺たちがぶちのめせばいいだけだ。お前は自分とあの野郎を徹底的に守れ。あとで、修理してくれりゃいい。そういう役割なんだよ!!」

 国王が笑みを浮かべた。

「……死ぬなよ」

 ミーナが小さく呟いた。

「馬鹿野郎、腐ってもあのジジイ仕込みだぞ。こんなところでくたばるかよ」

 俺は杖を構えた。

「おう、その顔はやる気だな。おい、こんなところ一気に抜けろ。どうせ、罠なんかねぇだろ。こんだけ馬鹿野郎がウジャウジャしてりゃよ!!」

 国王は弓を構えた。

「……いくぞ、ついてこい!!」

 ミーシャが駆け出した。

「いくぜ!!」

「おらよ!!」

「こ、ここでダッシュかよ!!」

 俺はひたすら呪文を唱え、国王は矢を放ち続けた。

 無数の魔物が床に崩れ、その合間を全力で駆け抜けた。

「いいぜぇ、これぞ戦場だぜ!!」

「馬鹿野郎、これぞロマンだ!!」

「……男の子はこれだからな。はぁ」

 ダッシュしていると、いきなりミーナが攻撃魔法を放った。

『馬鹿野郎、あれは俺の獲物だ!!』

「……はいはい、勝手にやってろ」


「いてて……おい、マジで勇者になっちまったぞ」

「いいじゃねぇかよ、男臭くてよ!!」

「馬鹿野郎、暴れすぎだ!!」

 ミーナが俺たちの怪我の治療に入った。

「おい、国王からだ。何があっても絶対だ!!」

「馬鹿野郎、タンナケットの方が重傷だ。絶対に聞かん!!」

 ミーナが俺の怪我の治療に入った。

「ったく、こいつはいつもこれなんだよ。なんかよ、妙に大事に思ってくれてるらしくてな!!」

 国王が笑った。

「だったらなおさらだ。この馬鹿野郎!!」

「怒るな、呪文間違ってるぞ。落ち着け!!」

 俺は苦笑した。

「……頼むぞ、全く。これだから、馬鹿野郎は」

 ミーナは息を吐いて、改めて呪文を唱えた。

「まあ、タンナケットらしいけどさ。いい加減にしねぇと蹴るぞ!!」

 ミーシャが俺に中指をおっ立てた。

「……それはやめなさい。下品だから」

「お前に下品もクソもあるかよ!!」

 国王が笑った。

「はぁ、これ治るかな。かなり深いぞ……」

 ミーナが表情を引き締めた。

「おい、気合い入れすぎるな。安定してねぇぞ。これじゃ、効果がねぇ」

「……こういう時に弱いんだよな」

 息を吐いたミーナにミーシャがそっと抱きついた。

「……落ち着け。いいね」

 ミーシャが笑みを浮かべた。

「……分かった。なんとかする」

 ミーナが静かに呪文を唱えた。

「……なんかよ、温かくて妙に気持ちいいぜ」

「馬鹿野郎、風呂じゃねぇ!!」

 ミーシャが鼻ピンした。

「ちなみにそれ、俺の見立てじゃ致命傷スレスレだぜ。体が小せぇからな。なのに、なんでコイツ普通にしてんだろうな。馬鹿野郎だぜ!!」

「そ、そうなの!?」

 ミーシャが飛び上がった。

「なんの事だ。ちょっと痛ぇだけだぜ!!」

「これがちょっと痛ぇって、お前相変わらず猛烈な強がり野郎だな。だから、いつもなかなか治療されねぇんだよ!!」

「強がって誤魔化せるレベルじゃねぇだろ。馬鹿野郎!!」

 ミーシャがガクッと肩を落とした。


「……」

「馬鹿野郎、痛きゃ痛いっていえ。無駄に根性使うんじゃねぇ!!」

「……あ、あの、そのぶら下げてるヤツ、まだ全然治ってないぞ」

「まあ、いいや。先にやっといて。痛いから」

 ミーシャがミーナに俺をぶん投げた。

「よろしく!!」

「……あ、扱い方がハードだぜ」

「いいんだよ、こんなの。優しくしたら、死んじまうぜ!!」

 国王が笑った。

「ったく……正直にいうぞ、死ぬほど痛ぇよ。馬鹿野郎!!」

「……そうでもなさそうだな。体がわりと抉れてるのにね」

「い、いいから治してやれ。みてると笑っちまうから!!」

 国王が笑った。

「……わ、笑うんだ。これ」

 ミーシャが俺の脇に胡座をかき、傷口を触った。

「ば、馬鹿野郎、痛ぇよ!?」

「あっ、やっぱ痛いんだ。よかった」

 ミーシャが笑った。

「馬鹿野郎、俺だって痛覚はあるぞ!!」

「おう、いっそ塩でもかけてみたら?」

 国王が笑った。

「……やってみるか」

 ミーシャが背嚢から塩を出した。

「こ、こら、怪我人で遊ぶな!?」

 ミーシャが笑った。

「よし、乗り切った。まだ大丈夫だぜ!!」

「な、なんだよ、なんの作業だよ!?」

「……もはや、いじめだぞ」

「いいじゃねぇか、それより治りそうか?」

 国王がミーナに聞いた。

「……正直にいうぞ。私の力量じゃ完治は無理だね。せいぜい、止血程度だな」

 ミーナがため息をついた。

「それで、十分だぜ。まだ、問題なく動けるからな」

 俺は立ち上がり、杖を持った。

「よし、そうこなくちゃな。ヤバかったら、抱えていってやるよ。昔みたいにな!!」

「ああもう……いいよ、どこまで付き合ってやるぜ!!」

 ミーナは苦笑した。

「ミーシャ、どんな感じだ?」

「うん、地下二階は魔物だけだね。数は多いけど大した事はないから、適当に減らしておけば大丈夫か」

 ミーシャはクリップボードを捲った。

「……あえて、いってなかったぞ。コボルトの店への通路が消えてるぞ。どうなったか、想像はしたくないな」

 ミーシャは息を吐いた。

「……これもこの迷宮だよ。そう、都合良く甘くはないぜ。牙を剥きやがったな」

 俺は前方を見つめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る