第69話 激闘の猫

 ミーシャを先頭に地下一階を進み、俺たちは迷宮の変異を探っていた。

「地下一階でも魔物が出るようになった代わりに、罠の数は激減したか。歩きやすくはなったけど、戦闘の機会は増えるね。どっちがいいかは、微妙なところか……」

 ミーナがクリップボードの紙に書き込みながら呟いた。

「お前らなにやってるんだ。普通に探索してるんじゃねぇのか?」

 国王が不思議そうにきいた。

「そんなのは余所がやってるだろ。遊び場作りだよ。まだ、経験が浅い連中を連れて、細かい事考えねぇで楽しもうぜってな。これはこれで面白いぜ」

 俺が笑うと、国王が笑みを浮かべた。

「そりゃいい。そういうの好きだぜ。ただ進んだんじゃ面白くねぇもんな!!」

「……こ、ここにもいた」

 ミーナが苦笑した。

「おい、俺も仲間に加えろ。国王なんかやってられっかよ!!」

「馬鹿野郎、お前は自分の仕事しろ。サボってるんじゃねぇ!!」

「……こ、これが加わったら、ある意味面白いぞ」

 ミーナが笑った。

「ほら、いってるぜ?」

「馬鹿野郎、面白過ぎて死んじまうわ。頼むから、自分の仕事しろ!!」

 俺は笑った。

「ったく、しょうがねぇな。まあ、今は遊ばせろ。久々だから堪らねぇぜ!!」

「馬鹿野郎、真面目にやらねぇと死ぬぞ」

 俺は笑った。

「よし、いいぞ。もうちょっと、進むぞ。結構、面倒だぞ」

「おい、国王。出撃だぜ」

「おうよ!!」

「……出撃って」


「よし、地下一階は大体把握したぞ。大した魔物じゃないから、支障はないかな。罠が減ったから、むしろ楽になったかもしれないね。肩慣らしにはいいんじゃない」

 ミーナが笑みを向けた。

「よし、なら問題ねぇな。むしろ、暇してたレインとカレンが遊べるぜ。好都合だ」

「……絶対、迷宮の使い方間違えてるぜ」

 ミーナが苦笑した。

「まあ、そういうなよ。それより、ちっとばっか食らったミーシャの回復してくれ。想定外で間に合わなかったからな」

「まあ、こういうこともあるな!!」

「分かりました」

 ミーナはミーシャの怪我を治療した。

「これいいいね、怪我しても直してもらえるってさ!!」

 ミーシャが笑った。

「過信はするな。もしミーナになんかあったら、替えはいねぇからな」

「こりゃ、責任重大だな」

 ミーナが笑った。

「当たり前だろ。俺がくたばったってタンナケットがぶちのめすけどよ、タンナケットじゃ怪我は治せねぇからな!!」

 国王が笑みを浮かべた。

「……い、いや、国王はヤバいでしょ」

 ミーナが苦笑した。

「国王んなんてどこにいるんだよ。今はお前らと同じだぜ。必要なら俺のケツでも蹴飛ばして命令しろ!!」

「……うわ、キツい」

「いいからそうしてやれ。そうしたくて、わざわざ弓抱えてきてるんだからよ。せいぜい、こき使ってやろうぜ」

「おう、そうしろ!!」

「……が、頑張る」

 ミーナが苦笑した。


「さて、階段だな。この辺りの配置は変わってないね」

 クリップボードに視線を落とすミーシャの背後で、俺は杖を構えた。

 国王も弓に矢をつがえ、前方を見つめた。

「……ミーナ、後ろに下がれ」

 俺の言葉に、ミーナは最後列に下がった。

「……なんか、いやがるな」

「……ああ、ちっと面倒そうだぜ」

 俺がそっと杖構えた時、通路の向こうから無数の光球が飛んできた。

「攻撃魔法じゃねぇ、撃ち落とせ!!」

 俺は素早く呪文を唱えた。

 その間に国王は素早く矢を放ち、迫ってきた光球の群れを爆発させた。

「この野郎!!」

 俺が放った無数の光の針が、光球を次々に爆発させた。

「ミーナ、ブチ込め!!」

 ミーナが呪文を唱え、振りかざした杖から光の槍が通路の向こうに飛んだ。

「……捕捉、いくぞ」

 国王は弓を引き、矢を放った。

 通路の奥で悲鳴が聞こえ、また無数の光球が飛んできた。

「しつけぇんだよ!!」

 俺は呪文を唱え、極細の光の矢を放った。

「そ、狙撃した!?」

 ミーナの声が聞こえた。

「……いけねぇ、熱くなっちまったぜ」

「馬鹿野郎、遊んでねぇでこの気持ち悪いの撃ち落とせ。間に合わねぇよ!!」

「うるせぇ、いまやるよ!!」

 俺は呪文を唱えた。

 放たれた光の針が無数の光球を爆発させた。

「ほら、とっととやれ!!」

「……黙ってろ、いくぞ」

 目を細めた国王が、矢を放った。

 再び悲鳴が聞こえ、通路は静かになった。

「……ん、今なんかやってたの?」

 ミーナが不思議そうに振り返った。

「ほらな、これだから一人じゃ危ねぇんだよ」

「あれだけ派手にやって気がつかねぇなんて、おもしれぇヤツだぜ!!」

「……もう、色々すげぇぞ。この面子」

 ミーナが笑った。

「タンナケットがここまで熱くなるなんて、初めてみたぞ!!」

「まあ、今回は遊びじゃねぇからな。つい、こうなっちまうんだ」

 俺は苦笑した。


「しっかし、なんだよ。妙なもんが出やがったな。これ、アイツらじゃきついぜ」

 俺はため息をついた。

「地下一階でこれか。でも、やるからな。ここを捨てたら、タンナケットが泣いちまうぜ!!」

 ミーナが俺の背を撫でた。

「ったく、お前の趣味だったか。いいだろう、協力するぜ。恩はちょっとでも返さねぇとな!!」

 国王が小さく笑った。

「そういうことか、じゃあ頑張るか。こういうの嫌いじゃないし!!」

 ミーナが杖を構えた。

「……無理はすんなよ。こんな事でなんかあったら困るからな」

 俺は息を吐いて杖を手にした。

「まあ、やるだけやってみようぜ。ダメなら諦めるからよ。頼んだぜ」

「よし、いくぞ!!」

 ミーシャがクリップボードを手にした。


「さて、階段様か。ここ、絶好の罠ポイントなんだよね……」

 ミーシャが地下二階への階段を覗き込んだ。

「……待ってね。ミーナに手伝ってもらおうと思ったけど、これはヤバいな」

 呟きながら、ミーシャは階段の様子を探りはじめた。

「……」

 俺は呪文を唱えた。

 ミーシャの周囲を結界の壁が覆った。

「安全策だ。大抵のものなら弾き飛ばすはずだぜ」

「……タンナケットが結界を張るほどか」

 ミーナが杖を構えた。

「さてと……」

 国王はそっと弓に矢をつがえた。

 カチッという微かな音と共に、ミーシャに大量の矢が降り注いだ。

 その全てが結界に弾かれて飛んだ。

「……危ね」

 ミーシャが小さく呟いた。

「……聞こえたか?」

 国王が頷いた。

「……アラームだぞ。来るぜ」

 俺はミーナをみた。

「お前は戦闘には参加するな。全力でガードしてろ!!」

 ミーナが頷き、自分の周りに結界を張った。

「よし、いくぜ!!」

「あいよ!!」

 俺は杖を構えた。

 階段の向こうから、デカい人形の何かが上がってきた。

「クレイ・ゴーレムだ、ぶちかませ!!」

「おらよ!!」

 国王が矢を放った。

 同時に俺は呪文を唱えた。

 上がって来たクレイ・ゴーレムは、国王の矢を受けても動じずに動き、床で作業中のミーシャをぶん殴ろうとした。

 しかし、結界に阻まれてその手が粉々になった。

「どっかにある核を狙わねぇとダメだが、そんな暇はねぇ!!」

 俺が振りかざした杖から放たれた無数の氷の矢が、クレイ・ゴーレムの体を貫いた。

 その形が一瞬で崩れ、ただの土塊に戻ったあとに、次のクレイ・ゴーレムが上がってきた。

「んだよ、まだいやがるのかよ」

「それだけじゃねぇ!!」

 国王が矢を放った。

 宙を飛んできた翼が生えたトカゲのような魔物の群れが、一斉に襲いかかってきた。

 俺たちを取り囲んだトカゲが炎を吐き、国王と俺に降り注いだ。

「こりゃヤベぇぞ。数が多すぎるぜ!!」

「いいからやれ、熱いんだよ!!」

 炎に炙られながら、俺は立て続けに魔法を放った。

 飛び交う光の槍が魔物を叩き落としていったが、炎による攻撃の激しさはあまり変わらなかった。

「馬鹿野郎、一気に出てきすぎだってんだよ!!」

「全くだぜ、少しは遠慮しやがれ!!」

 ひたすら魔物を叩き落とし、ゴーレムをぶっ壊し、ようやく魔物を全部片付けた時、俺は床にひっくり返った。

「よう、戦友。また、くたばらなかったな!!」

 全身傷だらけの国王が笑みを浮かべた。

「ったく、痛ぇっての。ナメやがって」

 俺は転がったまま苦笑した。

「うわ、これ!?」

 結界を解いたミーナが慌てて杖を構えた。

「国王が先だ、俺を先にやったらぶっ殺すぞ!!」

「い、いや、これタンナケットの方が……

「おう、こいつが納得しねぇよ。俺からだってさ!!」

 ミーナは慌てて国王を治療した。

「いい腕してるじゃねぇか、とっとやってやれ!!」

 ミーナが俺の傷の治療に入った。

「で、先生の様子は?」

「そ、それどころじゃ!?」

 俺は笑った。

「馬鹿野郎、落ち着け。アイツになんかあったら事だぜ」

 ミーナがミーシャをみた。

「大丈夫、結界が全部防いでる!!」

「よし、それなら問題ねぇ」

 ミーシャが振り向いた。

「な、なんじゃ!?」

 慌てて俺の側にすっ飛んできた。

「な、なんで、いきなりこんな大怪我してるの!?」

「……い、いきなりって」

 国王が笑った。

「こ、コイツ、マジでおもしれぇな。すげぇ集中力だぜ!!」

「だから、任せられるんだよ。ゴチャゴチャしたことは周りがやればいいんだ」

 ミーシャがミーナにしがみついた。

「な、なんとかして!!」

「馬鹿野郎、今やってるだろ。邪魔すんな!!」

「お前らおもしれぇな。ますます気に入ったぜ!!」

 国王が笑った。

「今は連れてきてねぇが、他の連中もおもしれぇぞ。だから、やめられねぇんだ」

 俺は小さく笑みを浮かべた。


「……ダメだ、火傷が酷すぎて痕が消せない。ってか、これで普通に喋れて生きていたのがマジ奇跡だぜ。ごめん」

「……」

「なんだよ、これなんか歴戦の勇者っぽくて格好いいじゃねぇかよ。これも、ロマンだぜ」

「相変わらずロマン好きだなぁ。まあ、俺もだがよ!!」

 国王が笑った。

「……か、帰ろう。これはダメだ」

 ミーシャが呟いた。

「お前の判断なら従うぜ。落ち着いて考えてくれ。その結果、どうなるかをな」

 俺は静かにミーシャを見つめた。

「……分かったよ、なんとかするよ。勘弁してよ」

 ミーシャはため息を付き、再び階段に向かった。

「……気に入ったぜ。お前、いい相棒見つけたじゃねぇか」

 国王が笑みを浮かべた。

「こっちもな。どっちもいなきゃ回らねぇよ」

 俺はミーナをみた。

「えっ、私?」

 ミーナがキョトンとした。

「馬鹿野郎、誰が怪我治したんだよ。俺や国王でもなきゃ、ミーシャでもねぇぞ。なかなか、いいバランスだぜ。ガチの掃除にはな」

「掃除かよ。ったく、ロクなことしねぇな!!」

 国王が笑った。

「いや、まいったな。こんな魔法しか使えないのにさ」

 ミーナが息を吐いた。

「いいじゃねぇか、役に立ってるぜ。これで、十分だ」

「おう、いい筋だぜ。悪くねぇよ!!」

 国王が笑みを浮かべた。

「まあ、やるだけやるよ。どうも、頼りにされてるらしいから」

 ミーナが笑みを浮かべた。

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