第68話 国王全開

「よし、ちょっと待ってろ!!」

 地下一階の入り口で、国王が弓を構えた。

「な、なに!?」

 ミーシャが声を上げた。

「まあ、地ならしだな。いきなりかよ」

 俺は苦笑した。

「まあ、実力見せておこうと思ってな。じゃなきゃ、俺を使えねぇだろ!!」

「こ、国王を使う!?」

 ミーシャの顔色が青ざめた。

「なんだよ、お前肩書きなんか気にする野郎だったのかよ。ここに立てば、ただの馬鹿野郎だぜ」

「た、タンナケット、これ無理。濃すぎて私じゃ扱えない。いつも通りやって!!」

「ったく、しょうがねぇな。おい、ぶちかませ!!」

「おらよ!!」

 国王は矢をつがえ、まずは第一射を放った。

「おらおらおらおら!!」

 国王はガンガン矢を放ち、最後にニヤッとした。

「完璧だ!!」

「……すげぇぞ」

「……こ、国王、半端ねぇ」

「どれ、いこうぜ。戦果を確認しようか」

 俺は苦笑した。


「う、うわ、串刺しがゴロゴロだぜ」

「……あの勢いでこの精度かよ」

 ミーシャとミーナの顔が引きつった。

「だからいったろ、半端ねぇってよ。バカ力がいるロングボウをショートボウみてぇにバリバリやりやがってよ」

「馬鹿野郎、これはロングボウでも、とりわけ破壊力があるコンポジットボウだ。確かに力はいるがコツだよコツ!!」

 国王は笑った。

「……今までいなかったな、弓使い」

「……珍しいからね。確かに」

「まあ、ここじゃ魔法が主力だからな。弓なんて廃れて久しいが、コイツはもその弓に拘り抜いてここまできちまった馬鹿野郎だぜ」

 俺は笑った。

「弓はいいぜ。狙い澄まして、目標をぶち抜いた瞬間はよ。もうたまらねぇぜ。魔法じゃ味わえねぇだろ」

「馬鹿野郎、魔法だって出来るぜ。俺がよく狙撃やってただろ。最高記録は二千五百メートルくらいか?」

「なに!?」

 ミーナが声を上げた。

 俺は苦笑した。

「なに、凄さ分かっちゃったの。お前、魔法使って仕事したことあるだろ。馬鹿野郎だな、そんな魔法じゃまともに狙撃には使えねぇよ」

「……」

「こ、こら待て、落ち着け。黒い話になるな!!」

 ミーシャが慌てて割り込んだ。

「おっと、いけねぇ。ついやっちまったぜ。お前のせいだからな、国王」

「おう、悪いな。昔世話になったもんでよ!!」

「……た、タンナケットって」

「……案外、ヤバい野郎だぜ。二千五百って化け物だぞ」

 国王が笑みを浮かべた。

「そういや気になってたんだが、タンナケットか。前のレオーネは捨てちまったんだな!!」

「知らねぇよ、誰だそれ。俺はタンナケットだぜ」

 俺は笑った。

「れ、レオーネ!?」

「な、名前あったぞ!?」

 ミーシャとミーナが声を上げた。

「知らねぇよ、どっかの猫と間違えたんだろ。おい、いくぞ」

「わ、分かった……マジで飼い猫だったぜ」

「……ま、まあ、そういってたしねぇ」

 ミーシャを先頭に、俺たちは地下一階に下りた。


「よし、改めていっておくぞ。この時点から俺はただの馬鹿野郎だ。間違っても国王とかいう、威張り散らしてるクソッタレ野郎だと思うなよ。まあ、呼び名がなんでか国王だがよ!!」

「しょうがねぇだろ、愛称なんだからよ」

「馬鹿野郎、愛称じゃねぇ!!」

 ミーシャが叫んだ。

「おう、元気いいな。いい感じだぜ。その調子でいこうぜ。楽しくな!!」

「……すげぇエネルギーだぜ」

「……こ、これが国王の国だぜ」

「馬鹿野郎、国王なんてもんはよ。このくらいパワーがねぇとやれねぇぞ。誰もいうこと聞かねぇぜ。今は弾け飛んじまって、さらに爆発してやがるがな」

 ミーシャが変な笑みを浮かべた。

「あ、あのさ、マジになれないんだけど……」

「馬鹿野郎、勢いでいけ、勢いで!!」

 国王が叫んだ。

「馬鹿野郎、死にてぇのか!!」

 俺が睨むと、国王は大人しくなった。

「よし、いいぞ。ったく、この野郎は……」

「た、タンナケット、一睨みで国王を黙らせるな!!」

「やっぱ、ただ者じゃなかったぜ」

 ミーシャは息を吐き、顔を引き締めた。

「……いくよ、気を付けてね」

「おい、先生のいうことは絶対にきけ。分かったな」

「分かったぜ。任せろ!!」

 国王は小さく笑みを浮かべた。


「ここは、変異がないか……。罠しかないね」

 ミーシャがクリップボードに書きながら通路を進んだ。

「おい、近すぎる。少し離れろ」

 ミーシャにくっついていた国王にいった。

「おいおい、ノーガードかよ」

「それがアイツのスタイルだぜ。いざとなったら、巻き込まねぇようにってな」

 国王が鼻を鳴らした。

「やるじゃねぇか。気に入ったぜ!!」

「そのくらいのヤツじゃなぇと、俺が認めるわけねぇだろ」

 ミーナが苦笑した。

「はぁ、これか。まだ、任せてくれないもんな」

「お前は違う仕事があるぜ。あれは、ミーシャだけでいいな」

 国王が笑みを浮かべた。

「相変わらず、そういう采配は上手いよな。コイツ、昔は千五百人くらいだったか、纏めて指揮して戦ったんだぜ!!」

「なに!?」

 ミーナがポカンとした。

「あんなもん、ここに比べりゃ簡単だぜ。ただ、効果的かつ効率的にぶっ殺せばいいんだからよ」

「……タンナケット」

 ミーナが苦笑した。

「猫に歴史ありってか。私もだけどね」

「まっ、そういうこった。今は忘れたがな」

 ミーシャが止まった。

「足下!!」

「あいよ!!」

 国王は素早く矢を放ち、ミーシャの足下の床を射貫いた。

 ミーシャが凄い顔でこっちを振り向いた。

「な、なんで分かったの?」

「馬鹿野郎、お前の背中をどれだけ見てきたと思ってる。そのくらい分かるぜ」

「なんだ、いい仲間じゃねぇかよ!!」

 国王が笑みを浮かべた。

「うわ、このコンビすげぇな」

 ミーナが笑った。


「よし、まずはこんなもんで休憩にしようぜ。整理してぇだろうしな」

「よく分かったな。そろそろ、片付けておかないとさ!!」

 ミーシャがクリップボードの紙を捲りながら、真顔で書き込みをはじめた。

「いっておくぜ、今は話しかけるな。邪魔するとブチキレやがるからな」

 俺は苦笑した。

「へぇ、あれがマジなミーシャか。格好いいぜ!!」

 ミーナが笑った。

「んじゃ、こっちで適当に息抜きすっか。いや、この迷宮は久々だぜ。最近はなにかと忙しくてな!!」

 国王が笑みを浮かべた。

「いやー、まさかの登場だったよ!!」

 ミーナが笑った。

「まあ、俺も驚いたぜ。もう会わねぇかと思ったくらいだからな」

「まあ、実のところよ、お前たちの噂は王都にまで聞こえてるんだぜ。変な猫が威張ってるパーティーがあるって聞いてよ、そんなの他にねぇだろって思ってな。顔が見られてよかったぜ!!」

 国王が笑った。

「あの、どんな関係で?」

 ミーナが聞いた。

「ああ、コイツの師匠は知ってると思うがよ、あのクラスになるとなにかと国の事にも関わるようになるんだ。それでな、ある日いきなりあのジジイが泣いて城に飛び込んできてよ、欲求に負けて取り返しの付かない事したって、コイツ抱えてきてよ。俺だってどうしていいか分からねぇから、まあ手当たり次第に働いてもらえそうな所に押し込んでよ、色々助けてもらったぜ。コイツは、いってみりゃ恩人ってところだな!!」

「馬鹿野郎、気持ち悪い事いうな!!」

 俺は苦笑した。

「へぇ……そんなにひでぇジジイでもないのか」

 ミーナが苦笑した。

「ひでぇジジイだよ。魔法使いってのは、常に欲求との戦いなんだよ。それに負けちまったら、ただのロクデナシだぜ」

 俺は笑った。

「まあ、そういうなって言い聞かせてたんだがよ、いきなりどっかいっちまってな。まあ、会えたからいいぜ。なんか、よさそうな居場所も見つけてるみてぇだしよ。一安心ってところだぜ」

 国王は笑った。

「なんだよ、心配してたのかよ。手紙でも書いてやりゃよかったな」

「ったく、いきなり消えるなっての。ビックリしたぜ!!」

 ミーナが笑った。

「あれま、男の友情ってところですかね」

「もっと深いかもしれねぇぜ。戦場で死線を潜り抜けた仲だもんな。コイツいなかったら、俺は今ここにはいねぇぞ。何回死んだかな!!」

 国王は笑った

「……うわ、ガチで相棒だぜ。いや、戦友?」

 国王がミーナをみた。

「みりゃ分かるぜ、どうもお前さんに絶大な信頼をおいてるみたいだな。じゃなきゃ、コイツが杖を下ろすなんかないぜ!!」

「ええ!?」

 俺はミーナをみた。

「休憩だっていったろ、相棒」

「のえ!?」

 ミーナは慌てて杖を構えた。

「おいおい、なにをぶっ殺すんだよ。なにもいねぇよ。固くなるな!!」

 国王が笑った。

「な、なんだ……」

 ミーナが息を吐いた。

「まあ、それでも警戒するのがコイツだ。真似はしねぇ方がいいぜ。まあ、杖を持ってるだけでいいだろ。形だけな!!」

 国王が笑みを浮かべた。


「よし、大体纏まったぞ。」

 ミーシャがクリップボードから顔を上げた。

「先生の処理が終わったぞ。ミーシャ、どうだ?」

「うん、このフロアは大丈夫だね。魔物もいな……」

 俺が杖を構え、国王が弓に矢をつがえた。

「オラ!!」

「ファイア!!」

 火球と矢がミーシャを掠めて飛び、遠くで爆音が聞こえた。

「……昔を思い出すな」

「……おう、懐かしいぜ」

 俺と国王は笑った。

「……な、なんかいた?」

 ミーシャが唖然とした。

「いや、小物だ。大した事ねぇ」

「まあ、二人でやる事もねぇと思うがな!!」

「……い、今のすげぇぞ。なんだ!?」

 ミーナがポカンとした。

「なに、敵がいたから主砲が火を吹いただけだ」

「まあ、俺はオマケだな!!」

 俺と国王は笑みを浮かべた。

「……な、なんだこの二人!?」

「……な、なにやってたんだ、昔」

 俺は息を吐いた。

「よし、いこうぜ。どうも、微妙に変異してるな。小物でも魔物がいやがったからな」

 ミーシャが頷いた。

「今回の掃除は大変だね。調査しながらだぞ」

「……私、出番あるかな。国王が濃すぎ」

 俺は笑った。

「大丈夫だ。まだ地下一階だぞ。これから何があるか分からないし、回復できるのはお前だけだ。間違っても、杖でぶん殴るなよ」

 ミーナが頷いた。

「心得ています。こりゃ怖いな。久々に迷宮らしいかな」

 ミーナが苦笑した。

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