第64話 魔法使いの杖

 宿に戻った俺は、いつも通り杖を手入れしていた

「……やっぱりか、可哀想なことしちまったな。セーブできる状況じゃなかったからな」 俺は苦笑してミーシャをみた。

「ほら、あんな事するからだぞ。また、ぶっ壊しやがって!!」

 ミーシャが俺を抱きかかえた。

「ったく、オヤジに怒られるぞ!!」

「お前ほどじゃねぇよ。一応、まともな使い方してるんだからよ」

 ミーシャは俺を抱きかかえて部屋を出た。


 市場の武器屋にいくと、オヤジが苦笑していた。

「その顔で分かるぜ。また無茶しやがってよ。暴発してたらどうする気だったんだよ!!」「俺がそんなヘマするかよ。ってことで、また頼むぜ」

 オヤジが頭を掻いた。

「それでダメってどうすっかな。魔力がデカ過ぎるんだよ、もうどんな素材使っていいかわからねぇよ……」

 ブチブチいいながら、オヤジは作業に入った。

「ミーシャ、そういう使い方するなっていっただろ。いい加減、ブチ殺すぞ!!」

「……ごめんなさい」

「……なんでか、見てねぇのに分かるんだよな。コイツも、わけ分からねぇぜ」

 武器屋の扉が開いた。

「ああ、やっぱり。誘ってくださいよ」

 ミーナが入ってきた。

「ん、なんか用事でもあったのか?」

 俺が聞くと、ミーナは腰の短刀を鞘ごと抜いてカウンターに置いた。

「……なんだ、廃業宣言か。だがな、うちは武器屋だぜ。廃業するなら、もっとマシなもん作ってやるよ。ちょっと待ってろ」

「……は、廃業宣言だってさ」

「……ってか、知ってるのかよ。このオヤジ」

 ミーナが笑った。

「ここの常連なんですよ。実は!!」

「武器に罪はねぇからな。頼まれりゃ作るぜ。それが、仕事だからな」

 オヤジがミーナを見て苦笑した。

「どんな心変わりだか知らねぇがよ、そいつを捨てる気になったって事は、なんか見つけたんだろ。どうせ、またどっかの馬鹿野郎みたいに、罠をぶっ壊すためとかよ!!」

「……な、なんで分かったの?」

 ミーナが唖然とした。

「ええ!?」

「お、お前もかよ。馬鹿野郎!!」

 ミーナが苦笑した。

「いいじゃん、こっちぶっ壊してる方が楽しいもん!!」

「……ヤバい、感染させちゃったぜ」

「……お前のせいだからな」

 オヤジはため息を吐いた。

「どうしてこう、うちの顧客は妙な連中ばっかりかねぇ。杖はともかく、罠をぶっ壊すための武器なんてどうしろってんだよ。そもそも、武器じゃねぇよ。道具だ道具!!」

「……ブチキレてるっぽいね」

「……うん」

「……当たり前だろ。あんな情熱武器野郎にそんなもん作らせたら、ブチキレねぇ方がおかしいぜ」

 オヤジが息を吐いた。

「まあ、いい。妙な武器はすぐ出来る。適当でいいからよ。杖は待ってくれ、こっちでストレス発散するからよ!!」

 オヤジは壁に掛かっていた短刀を二本カウンターに叩き付けた。

「おらよ、すぐぶっ壊すから予備もつけてやる。とっとと持ってけ!!」

「……うわ、ブチキレてるよ」

「……とうとう、限界だったみたいね」

「……だからいったろ。武器は大事に使わねぇと、いざって時にヘソ曲げちまうぜ」

 俺は苦笑した。

「……これ、出た方がいいね」

「……絶対ヤバい」

「……俺もそう思うぜ」

 俺たちはそっと武器屋を出た。


「ま、マジで怖かったぞ……」

 ミーシャが冷や汗を拭いた。

「あ、あんなの初めてみたぞ……」

 ミーナが息を吐いた。

「プライドがあるんだぜ、あのオヤジにも。例えば、俺が魔法をなんか適当にやられれてみろ。そりゃ、多分ブチキレるぜ。半端なくな」

 俺は苦笑した。

「その短刀みてみろ。オヤジからのメッセージだよ。今度はちゃんと使ってやれよ。ちなみに、もう一本は予備じゃねぇ。ミーシャ用だ、どっかに名前でも彫ってあったりしてな」

 俺は笑った。

「なに!?」

「マジ!?」

 二人が慌てて短刀を確認した。

「な、なんだこれ、材質すら分からないけど、まともどころかすげぇぞ」

「……な、名前も彫ってあるぜ。刃の部分に」

「ほらな、そんなの雑に扱えるか。お前ら専用だぜ、あのオヤジ渾身のな。これを見越して作っておいたんだろ。やりそうなことだ」

 俺は苦笑した。

「こ、これ、どうしよう。罠ぶっ壊せないぜ」

「な、なんか考えよう。他に手があるはず」

「まあ、そこは任せるぜ。俺の専門じゃねぇから分からねぇしよ」

 ミーシャが俺を抱きかかえた。

「こんなの渡されても戦えないぜ。なんかあったらヤバいもん!!」

「持ってりゃいいんじゃねぇの。端から期待してねぇし、いざってときのお守りくらいにはなるだろ」

 ミーナが短刀を腰に帯び、息を吐いた。

「廃業しちゃいましたからね。これからはこれ一筋です」

 ミーナが杖をみせた。

「魔法使いか。いっておくが、大変だぜ。面倒な事ばっかでよ」

「分かってますよ。だからいいんじゃないですか!!」

 ミーナが笑った。


「ったく、杖なしじゃ掃除にもいけねぇよ……」

 俺はベッドの上に丸くなり、ポソッと呟いた。

「はいはい、腐らないの」

 脇にミーナが座り、ちゅ~るを差し出した。

「……おい、餌付けかよ」

「はい、ミーナが猫缶なら私はこれです。悪くないでしょ?」

 俺は苦笑した。

「それ、半端なく美味いからな。気を付けろよ」

「それはそれで……はいどうぞ」

 俺はちゅ~るを食って、苦笑した。

「まあ、ちゅ~るは美味いがおやつだ。主食にはならねぇから、猫缶がねぇとな」

「そのつもりで、あえてこれです。これで猫缶を出したら、ミーシャにぶん殴られますよ」

 ミーナが笑った。

「こら、勝手になんか食わせるな。私のみてるところにしろ!!」

 どこにいたのか、ミーシャがすっ飛んできた。

「……ほらな」

「……分かってますって」

 ミーシャがミーナにゲンコツを落とした。

「こら!!」

「……結局、ぶん殴られたぜ」

「……あーあ」

 俺は苦笑した。

「いいじゃねぇか、どっかで変なモン食っちまうよりはよ」

「そ、それは、そうだけど……」

 ミーシャが苦笑した。

「しょうがねぇな、なんか食わせとけ。うるせぇからよ!!」

 ミーシャが部屋から出ていった。

「あれ、許可されちゃったよ」

 ミーナが笑った。

「こりゃ明日なんか妙なもん降るんじゃねぇか」

 俺は苦笑した。


「……あ、あの」

 ミーナの膝の上に丸くなっていたら、カレンが隣に腰を下ろした。

「おう、どうした?」

「……は、はい、魔法を撃ちながら刀を振り回すわけの分からない野郎になりたいので、どうすればいいか教えて下さい」

 カレンが笑みを浮かべた。

「うわ、きた……」

「おいおい、魔法使うには杖が必要なんだぜ。お前、刀と杖の二刀流になっちまうぞ。なんかもう、なにしてぇかわからねぇ野郎になっちまうぞ」

 俺は笑った。

「……いいじゃないですか、こんなの他にいませんよ。いたら怖いです」

 カレンが笑った。

「よし、気にいった。ちょっと待ってろ、杖の設計図考えるからよ。どうせなら、思い切りぶん殴れるようにもしようぜ。なにかと便利だしな」

 俺はミーナの膝から飛び降りた。

「あわわ、見てないとなにするか分からない。ちょっと、待て!!」

 書物を引っ張り出して考えていると、レインがやってきた。

「カレン、なにやってるの?」

「……はい、刀と杖の二刀流をやりたくて、考えてもらってます」

 レインがキョトンとした。

「えっ、魔法までやるの。斬りながら?」

「……はい、なかなか面白いと思いますが?」

 カレンが笑った。

「ついでに、ムカついたら杖でぶん殴るんだぜ。こんな馬鹿野郎みたことねぇよ。やりたいっていわれたらやるぜ。そういうの、好きだからよ」

「……ああ、ぶっ壊れちゃった。まあ、おもしろいね。楽しみだよ」

 レインが笑った。


「よし、こんなもんだろ。お前の魔力特性を考えて完全に攻撃型だ。こっちに関しては、ミーナよりスゲぇぞ」

「な、なんだと!?」

 ミーナがカレンにゲンコツを落とした。

「……ヤバい、破壊野郎だぞ」

 カレンが小さく笑みを浮かべた。

「……おいおい、なんだこの笑みは」

「いいじゃねぇか、どうあっても攻撃か破壊しかできねぇぜ。これは、最高にロマンだぜ」

 ミーナがため息を吐いた。

「こ、これに負けるの……」

「攻撃魔法だけだぞ。まだなにも教えてねぇし、モノになるまでかなりかかるからな。それに、お前はそれだけじゃねぇだろ。忘れたか、相棒」

 ミーナが笑み浮かべた。

「相棒だったね、いいや。ぶっ壊すのは他に任せよう。私は私の仕事がある!!」

「そういうこった。よし、武器屋にいくぞ」


「な、なんじゃこりゃ、完全に攻撃しか出来ねぇぞ。こんなの、誰が使うんだよ!?」

「……はい」

 カレンが笑みを浮かべた。

「お、お前かよ、刀どうしたんだよ!?」

「……両方です。面白いでしょ?」

 カレンが笑った。

「お、お前もイカレてやがるな。気に入ったぜ。これじゃ、まだ甘いな。もっと詰めるぞ!!」

 オヤジが奥の工房に引っ込んだ。

「あーあ、火が付いちゃったぜ。こりゃ、すげぇの出来るぞ」

「……楽しみです。師匠」

 カレンが笑った。

「お、俺に責任取らせる気かよ。おいおい、勘弁してくれ!?」

「だって、自分で教えるっていったぞ。ちゃんとやれよ!!」

 ミーナが笑った。

「ったく、ちゃんということ聞かねぇと教えねぇぞ!!」

「……」

 カレンが真顔になり、俺の前に正座して頭を下げた。

「そ、そういうんじゃない。どこの師匠だよ。馬鹿野郎!?」

「……前から思ってたけど、こいつ面白いな。なにするか、分からん」

 ミーナが笑った。


「……こ、これが、杖」

 出来上がった杖を見て、カレンがポツリと呟いた。

「ああ、さすがにぶん殴るのは無理だ。技術の限界だな。中の魔硝石がぶっ壊れまうぜ!!」「それが、魔法使いの証だぞ。なんか楽しいだろ!!」

 ミーナが笑った。

「まあ、まだなにも出来ねぇがな。さて、どう教えかな。ああ、最初に大事な事だからおしえておくぜ。大事な魔法を裏切る事だけは絶対するな。自分の分身ってよりは、子供みたいなもんだからな。自ずと扱い方が分かるはずだぜ。忘れるな」

「……はい!!」

 カレンが頷いた。

「子供か……そう思うと、私ももう一度ちゃんとやって可愛がろうかな。もう、これしかないしね。師匠!!」

 ミーナが笑った。

「お、お前もかよ。そんなに面倒みきれねぇよ。どうすっかな……まあ、お前回復に向いてるんだ。それに関しては、俺もナターシャには勝てねぇ。そして、カレン。俺は杖以外持った事がねぇ。そっちを疎かにするな。あくまでも、こっちはオマケくらいに考えろ」

「……はい、師匠!!」

 カレンが表情を引き締めていった。

「……うわ、ガチで師匠だと思ってるぞ」

「……ど、どうしよう。俺、怖い」

「おい、猫の旦那。こっちも出来たぞ。もうぶっ壊れねぇ材質なんてねぇよ。やっちまったら持ってこい!!」

 俺はオヤジから杖を受け取り、苦笑した。

「ったく、俺にはこれしかねぇのによ。お前らいいよな。遊べる分野が多くてよ!!」

「……いっそ、刀持ってみますか。教えますよ?」

 カレンが笑った。

「馬鹿野郎、猫がどうやって刀振るんだよ。限界ってのがあるの!!」

「……見たいな。面白い」

 ミーナが笑った。


「……な、なんで、カレンが杖持ってるの?」

「よく分からんが、斬ってブチ込みたいんだと。なんか、イライラしてるんじゃね」

 ボロ宿の部屋で唖然としたミーシャに俺は笑った。

「ま、また変なことして!!」

「だって、やりたいっていうんだもん。資質はあるし、勿体ないじゃん。しかも、攻撃と破壊しかできねぇ殺戮マシンだぜ。堪んねぇよ」

 俺は笑った。

「馬鹿野郎、どうすんだそんなもん!!」

「……安心して下さい。師匠の教えは絶対です。教わった以外の事はしません」

 カレンが笑みを浮かべた。

「……し、師匠?」

「……うん、勝手にロックオンされちまったぜ。しょうがないじゃん、教えて欲しいっていわれたらさ」

 ミーシャが鼻ピンした。

「馬鹿野郎、いない間になにしてた!!」

「別に杖の設計図書いてオヤジに作ってもらっただけだぜ。そしたら、マジで師匠にされちまったぜ」

 ミーシャが俺を抱きかかえた。

「こ、こいつは、見てねぇとなにするかわからん!!」

「だって、猫だもん。気ままなもんさ」

 俺は笑った。

「だぁぁ、もうこれ以上弟子増やすなよ!!」

「ああ、ミーナも弟子っぽいぜ。攻撃方面はな。まずは、ナターシャにみっちり回復やらなにやらを教わるようにいってあるぜ」

 ミーシャがため息をついた。

「ったく、いっそ私も弟子にしろ!!」

「お前は飼い主だろ。弟子に出来るかよ

 俺は苦笑した。

「あ、あれ……」

「なんだよ、どっかいっちまうぞ!!」

 ミーシャが俺を抱きしめた。

「……ありがとう」

「おう、頼んだぜ!!」

 俺は笑った。

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