第63話 一時撤退からの安息
「さて、馬鹿野郎が血路を開いたことだし、先に進むよ!!」
ミーシャが息を吐いた。
「おう、いくぜ」
俺はミーナをみた。
ミーナは小さく笑みを浮かべた。
「……相棒どころか戦友になっちまったぜ。挙げ句に弟子だと、わけわからねぇ」
俺は苦笑した。
ミーシャがゆっくり歩き始めた。
「さてと……」
俺は杖を構えて神経を張った。
「……このフロア。罠がないんだよね」
小さく呟き、ミーシャがチラッと俺をみた。
「おい、先生がなんか気がついたぞ。俺の直感だとよ、レインとカレンの出番だぜ。そんな後ろにいないで、ミーシャの後ろにつけ。俺とミーナはバックアップだ。ナターシャは回復魔法の用意しとけ。楽しくなるぜ」
「……えっ?」
「うん、前にいこう」
ミーシャの後ろにレインとカレンがつき、その後ろに俺とミーナが並んだ。
「つまり、ぶん殴るの禁止って事ですね」
ナターシャがさらに俺の横にならんだ。
「おい、いいぞ。進め」
「了解……」
ミーシャがそっと進み始めた。
俺の感覚に何かが引っかかった。
「戦闘態勢、くるぞ!!」
レインとカレンがそれぞれの武器を抜き、軽く身構えた。
ミーシャが後方に待避した時、よく分からない人形の魔物が三体通路の向こうから現れた。
「なんだあれ、またみた事ねぇぞ」
「リビングデット、あれはそれほどの脅威ではありません。毒爪に気を付けて!!」
レインとカレンが頷き、魔物に向かって突進していった。
俺とミーナは杖を構えて様子を伺い、ナターシャは杖をもって静かに立っていた。
「はじまったぜ!!」
レインとカレンが、魔物相手に斬りかかった。
「……問題ねぇか。ん?」
俺の感覚にまた引っかかった。
「右、なんか飛んでやがった!!」
ミーナが呪文を唱え、レインとカレンを背後から狙っていた魔物二体を粉砕した。
「お前、派手なの使うな。おもしれぇ」
「まあ、こういうの嫌いじゃないんで!!」
ミーナが笑った。
「いい感じに乗ってきたぜ。たまには撃たせろよ」
「タンナケットは警戒に集中して下さい。私ではダメな時は、遠慮なく!!」
「ったく、楽しみが減っちまったぜ!!」
俺は苦笑した。
「なんだここ、今までみた事ねぇのばっかりだぞ。また、迷宮の野郎が癇癪起こしやがったな」
「これもロマンです!!」
俺とミーナは同時に攻撃魔法を放った。
球状のデカい野郎に突き刺さった光線は、それに大穴を開けた。
「いけ!!」
前方にいたレインとカレンが滅多切りにした瞬間、その全身から無数の触手が生まれ、レインとカレンを弾き飛ばした。
「おっと、これはいけねぇ」
俺は呪文を唱えた。
撒き散らかされた真空の刃が触手を切り飛ばし、ミーナの攻撃魔法が球状の体に大穴を開けた。
「んだよ、キリがねぇぜ」
「一発ブチ込んだらどうです?」
ミーナが杖を構えていった。
「ダメだ、レインとカレンをモロに巻き込むぜ。魔法でチマチマ牽制するぞ。アイツらに任せろ」
「了解」
俺とミーナは再び攻撃魔法を放った。
何度か繰り返しているうちに、ぶっ飛んでいたレインとカレンが再び戦い始めた。
「ここからだとギリギリですが、念のため」
ナターシャが回復魔法を使った。
レインとカレンを青い光が包んだ。
「よし、あとは様子見だ。あいつらなら何とかするだろ」
「斬られるそばから傷が治癒していますね。これでは、倒せません」
ミーナがいった。
「魔法も大して効いてねぇもんな。あれ使うか、見た目気持ち悪いから嫌なんだが……」
俺は呪文を唱えた。
杖の先で魔力光が光り、球状の体がボロボロに崩壊しはじめた。
「うげっ、なんです。あれ」
「生物ならなんだって効くぜ。体内に悪性の細菌をウヨウヨ発生させて腐らせるんだ。最悪だぜ」
俺は苦笑した。
「また、悪趣味な魔法を……嫌いじゃないですけどね」
ミーナが笑った。
「タンナケット、これは使うなって……気持ち悪い」
ナターシャが露骨に嫌な顔をした。
「これが普通だぞ。ったく……」
レインとカレンがダッシュで戻って来た。
「馬鹿野郎、間近でみたぞ!!」
「……おぇ」
「だって、これしかなかったんだもん。お前ら巻き込んでぶっ飛ばすわけにはいかねぇだろ。悪気はねぇよ」
「油断しない!!」
ミーナが声を上げた瞬間、ナターシャが防御結界を展開した。
青白い壁に、球状の野郎が放った光線が跳ねた。
「……えっ?」
「馬鹿野郎、油断なんかしてねぇよ」
「そういうことです。楽しみましょう」
ナターシャが笑みを浮かべた。
「……うわ、ここマジですげぇ」
「よし、仕上げだ。いくぞ」
俺とミーナが同時に攻撃魔法を放ち、崩壊しかかってた球状の体を消し飛ばした。
「よし、いこうぜ」
「やっと出番だぜ。まったくよ!!」
ミーシャが前に立った。
「よし、もういいだろ、ちと休むぞ。変なのばっかで疲れちまったぜ」
通路にそれぞれ座り休憩を取る中で、俺はミーシャに近寄った。
「これどうするよ。もう全然読めねぇぞ」
「うーん、私もこんなの初めてだぞ。冒険心は燃えるけどさ、このパーティーじゃ危険だね。なにが待ってるか分からないからさ」
ミーナがそっと近寄ってきた。
「ここで撤退をお勧めします。このアンバランスなパーティで進むのは困難でしょう。また掃除すればいいじゃないですか。今度は私も手伝いますよ」
ミーナが笑みを浮かべた。
「よし、決まりだな。全く、面倒な迷宮だぜ」
俺は苦笑した。
「はぁ、これだからやめられないんだよね。また歩きで帰るの?」
ミーシャが笑った。
「馬鹿野郎、人に仕事押し付けるな。お前の領分だろ」
「ったく、しょうがねぇな!!」
ミーナが息を吸い込んだ。
「野郎ども、理由が思い付かねぇけど帰るぞ!!」
「……お、お前な」
「……まあ、正直だね」
俺は苦笑した。
「で、俺はどうするな。こんな気持ち悪いところ歩いて帰るのは嫌だぜ」
「ったくよ、一発ぶちかませ。楽させろ!!」
俺は杖を構えた。
「おい、ちょっと集まれ。久々の地上だぞ」
「……理由が思い付かないけど、地上だって」
「うん、もう分からないけどそうなんじゃない」
レインが笑った。
「……うぉ、眩しい」
カレンが顔をしかめた。
「これが日常だ。まあ、街でゆっくりしようぜ。今回は妙に疲れちまった」
俺たちは馬車に乗り、久々の街に戻った。
「まずは、ここだぜ。忘れちゃなんねぇ」
「だよね!!」
俺たちは「火吹きトカゲ亭」に雪崩込んだ。
「よし、帰ってきたね。今日はうちの奢りだ」
オバチャンが笑った。
「……お、奢り!?」
「いつもの事だぜ。これが楽しみなんだよ」
「そういうこと。帰ってきたぜって感じでさ!!」
ミーシャが笑った。
「よし、ガンガン食え。ああ、面倒だ。もう、ありったけ全部持ってこい!!」
「……うわ」
「あいよ、ありったけ全部ね!!」
オバチャンが笑みを残して去っていった。
「おい、気合い入れろ。ここはマジになっていいぞ。死ぬ気で食え!!」
「……おいおい」
全員が笑みを浮かべ、目を光らせた。
「これだぜ、これもロマンだな」
「……どこが?」
カレンが笑った。
「まだ、甘いな」
「あいよ、とにかく出来た順にいくよ。モタモタしてると追いつかないよ!!」
テーブルにガンガンメシが置かれ、全員が一斉に飛びかかった。
「なにやってんだ、カレン。気合いが足りねぇ。そんなんじゃ負けちまうぞ」
「……な、なにに負けるの!?」
「おら、どんどんいくよ。遅い!!」
オバチャンがさらにメシを置いた。
「おい、オバチャンの気合いが半端じゃねぇぞ。馬鹿野郎ども、負けるんじゃねぇ!!」
「……も、もはや、メシじゃない」
「さすがにやるね。うちの食材の在庫全部食っちゃったよ。だから、あんたらがお気に入りなんだよ!!」
「……こ、ここ、変だぞ」
「あー、なんかスッキリしたぜ。これやらないと、帰ってきた気がしねぇ!!」
ミーシャが笑った。
「こ、これが伝説の大食らい。街で勝てるのがいない……」
テーブルに伏せたミーナがボソっといった。
「馬鹿野郎、なんでも伝説にすんな。こんなのどうでもいいだろ」
俺は苦笑した。
「よし、愛すべきボロ宿に帰るぞ。ぶっ飛んでなきゃいいけどな!!」
ミーシャが笑みを浮かべた。
「ふぅ、迷宮もいいがここも捨てたもんじゃねぇぜ。ちと休もうぜ」
ボロ宿の部屋に帰ると、俺はベッドの上で杖の手入れを始めた。
「おう、やってるな!!」
ミーシャが隣に座った。
「これやらねえと落ち着かねぇぜ。なんだかんだで、これしかねぇからな」
「もう一本、ここに杖がありますけどね!!」
ミーナがミーシャの反対隣に座った。
「馬鹿野郎、そんなチンケなもんじゃねぇよ」
俺は苦笑した。
「この野郎、飼い主二人だぞ。贅沢な野郎だぜ!!」
「馬鹿野郎、いわなかったか。最低でも対等だってな。飼い主なんていらねぇよ。面倒くさいぜ」
俺は杖を見つめた。
「ダメ、杖と語るな。どっちかにしろ!!」
「そういうことです。そのくらいの役には立ちますよ」
俺は笑った。
「馬鹿野郎、もうちょっとマシな事に使わせろ。ったく、俺もどうしょうもねぇな」
「んじゃ、どっか行くか!!」
「ってか、連れてく!!」
ミーシャが俺を抱きかかえ、ミーナと一緒に部屋を出た。
「この街ってよ、広いくせにここしかねぇんだよな。このショボい公園」
「いいじゃん、どこだって!!」
「まあ、誰もいないから気楽かな」
ベンチに俺を真ん中にミーシャとミーナが座った。
「ったく、お前らも大した神経だぜ。これバレたら大騒ぎだぞ。つまり、禁術中の禁術の蘇生魔法が存在するって事だぜ。これ、魔法使いが一番やっちゃいけねぇ事だぞ」
「それを知りつつ、タンナケットも使えるじゃないですか」
ミーナが笑みを浮かべた。
「……あのジジイ、一回死んでるって聞いたら、お前ら信じるか?」
「えっ!?」
「お、おい!?」
俺は苦笑した。
「まあ、普通に病死だったんだがな。こんなことされたのに、どうにもならなくてうっかり作っちまったんだ。……まあ、不満はねぇけどな。飼い猫は飼い猫だもんな」
ミーシャがそっと俺を抱きかかえた。
「いいからもう忘れろ。その感情を私にぶつけてよ。可愛がってやるからよ。んなイカレたことしたくても出来ねぇもん!!」
「はぁ、そういうことか。あんなの興味本位の勢い任せで作るとは思えなかったから。これで安心しましたよ。まともじゃないですか」
ミーナが笑みを浮かべた。
「これがまともかよ。もうメチャメチャだぜ。なに考えてるんだか、自分でもわからねぇよ」
俺はため息を吐いた。
「簡単じゃねぇっていったろ。ここまで大好きだったんだぞ。忘れろったって、そりゃ無茶だぜ」
ミーシャが俺の背を撫でた。
「お前の居場所はここだぞ。いい加減覚えろ。ジジイなんざ消し飛ばせ!!」
「しっかし、酷いことするもんだねぇ。ムカついてきたから、これにモノいわせてやろうかな」
ミーナが苦笑しながら、チラッと短刀を見せた。
「やめとけ、みてたけどよ、とても勝てねぇぜ。返り討ちにされたら堪ったもんじゃねぇ。もうほっとけ!!」
俺は苦笑した。
「全く、自分の事なんかどうでもよくなったぞ。強烈な蹴りかましやがって!!」
ミーナが苦笑した。
「そんなつもりじゃなかったんだがな。結果的には良かったか。なんか、俺の仕事なくなっちまったぜ。どうすっかな」
「馬鹿野郎、どうするもこうするもねぇ。ここにいろ!!」
「逃げようとしたら、分かってますね」
ミーナが笑みを浮かべ、また短刀を見せた。
「……そりゃねぇよ。反則だろ」
ミーナが笑った。
「馬鹿野郎、んなわけねぇだろ。動物虐待なんて悪趣味はねぇ!!」
「……ど、動物ね。間違ってねぇけどよ」
「まあ、こうしてるのも悪くねぇだろ。そのうち、好きになるんじゃねぇの?」
ミーシャが笑った。
「……好きだから困ってるんだろ。馬鹿野郎」
「い、今なんていった?」
「よく聞こえなかったぞ」
「空耳だろ。疲れてるからよ」
俺は苦笑した。
「飼い猫ね。それも悪くねぇか。一人じゃ猫缶も開けられねぇようじゃ、生意気な事いえねぇぜ」
「ちょ、ちょっと、どうしたの!?」
「あ、あれ、なんか目つきが優しいぞ。ど、どうした!?」
「ちゃんと可愛がれよ。ムカついたら一発ブチ込むからな」
俺はミーシャをみた・
「ちょ、マジでいってるの。ど、どっかぶっ壊れた!?」
「ええ!?」
ミーシャとミーナが固まった。
「だって、そうしてぇみたいだからよ。二人でやるんだっけ。つまり、ムカついたらミーナにも一発いくぞ。手加減するかどうかはしらん!!」
「……凶悪な飼い猫だぜ」
「……ま、まさか、心変わりするとは」
「なんだよ、根性ねぇな。こんな猫一匹黙らせられないのかよ」
俺は笑った。
「……さ、最強の飼い猫だぞ」
「……しかも、すぐブチキレるよ」
「んなビビるな。飼い主に手を上げるような馬鹿野郎じゃねぇよ。ジジイみてりゃ分かるだろ。根性ねぇのは俺の方だよ」
俺は息を吐いた。
「今度はまともな居場所なのを願うぜ。二度目はごめんだ」
ミーシャが笑った。
「まともかどうかは知らないけど、ジジイよりはマシだと思うぞ」
「間違っても、超絶可愛がっていた飼い猫を妙な物体に換えるなんて事はしないぞ。そっちの神経の方が理解不能だよ」
ミーナが笑った。
「まあ、妙な物体だよな。俺もそう思うぜ」
俺は苦笑した。
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