第59話 相棒同士の秘密
「よし、隊列の変更だ。レインとナターシャがカレンにの前に出ろ……といいてぇところだがよ。カレン、そろそろステップアップだな。レインとナターシャの間だ。怪我する事は覚悟しとけよ。こういうのも、冒険だぜ」
前を向いていたミーシャがチラッと笑みを向けた。
「……分かりました。守ってもらってばかりも、そろそろ飽きていた頃です」
カレンが笑みを浮かべ、刀を抜いた。
「馬鹿野郎、気が早いぜ。なんか振り回してぇのは分かるが、まだしまっとけ」
俺がチラッと視線を送ると、ミーナがそっと動きそれとなくカレンをカバー出来る位置に移動した。
「……猫の俺じゃ届かねぇし、ミーシャの野郎が感知しやがるからな。ったく」
俺は呪文を唱え、ミーシャの頭スレスレに火球を飛ばした。
「……な、なに?」
「いいからいけよ。渋滞でイライラしてるんだよ」
「……こ、こぇぇ」
ミーシャがソロソロと進み始めた。
階段をゆっくり下りていくと、ミーナが杖をフルスイングした。
カンッいう音がしたあと、ミーナの杖の先がミーシャの頭にぶち当たった。
「……」
「ああ、なんか飛んできたらさ。勢い余って、ぶん殴っちゃった。ごめん!!」
ミーシャが頭を掻いた。
「い、いや、いいんだけど……さっきから、なんか妙に睨まれている気がするぞ」
「さて、どうかな」
俺は苦笑した。
「……わ、わかったよ。ちょっと落ち着くから待って」
俺はミーナに軽く視線を送った。
「……ちょっと待て、どっかの馬鹿野郎が変に弄ったな。魔物の気配が半端ないぞ」
階段の途中でミーシャが立ち止まった。
「おう、また食らいたいか。さっきから渋滞ばっか起こしやがってよ」
俺は苦笑した。
「うるせぇ、死にたくねぇだろ。黙ってろ!!」
ミーシャはなにか考え始めた。
「……ダメだ。これじゃどう考えても」
つぶやいて、ミーシャは俺をみた。
「……どれくらいだ?」
俺は苦笑して杖を構えた。
「まあ、40%ってところだろ!!」
「馬鹿野郎、こんなもん10%でも釣りがくるぜ」
俺は呪文を唱えた。
かざした杖の先に魔力光が弾けた。
「……まあ、こんなもんだろ。いくぞ!!」
ミーシャが背を向けた。
「……」
俺は、あえてミーナを見なかった。
「馬鹿野郎、チンタラやってるから、もうイライラして堪んねぇよ。ちとなんかぶっ壊してくる!!」
「……あれ、ブチキレてるぞ」
「……あれは、まずない」
「レイン、仲良くヒソヒソやってるんじゃねぇ!!」
「……うわ、すげ」
「……な、なんだ?」
「この猫野郎。なんかもう、うるせぇからこっちこいや。ぶっ殺すぞ。ミーシャ、ちょっと止めといて。黙らせてくる!!」
ミーナが俺の俺の首根っこ引っつかみ、隊列の後方にいった。
「……とまあ、あんな魔法も使えるわけだ。いいから軽蔑しとけ」
俺は苦笑した。
「……軽蔑する要素ありますか。魔法は魔法ですよ。使い方によっては、軽蔑どころではないですけどね」
ミーナがそっと笑った。
ミーナの影に隠れ立ち話しているように装い、俺は杖の破損を直していた。
「まいったぜ。あれ使うと、大体酷くぶっ壊れるからな。それだけ重い魔法なんだけどよ」
「それが分かっている術者なら、軽蔑される事は絶対にやらないはずです。あえて使った意味もあるんでしょ?」
おれは苦笑した。
「お前にみせておきたかたんだよ。お前はどうかしらんが、俺はお前の事を相棒だと思ってるぜ。いざってときには、こんな切り札があるってのを知っておいて欲しかったんだ。今の事ミーシャとお前しか知らねぇな。こんなこと、特にお堅いナターシャなんか知っちまったら大事だからな」
「あれ、相棒ですか。私も出世しましたね。弟子ですらおこがましいのに対等ですか」
ミーナが小さく笑った。
「馬鹿野郎、よせや。今のところは対等だな。そのうち機会をみて、ここを抜ける……っていったらどうする?」
俺はミーシャの背中をみた。
「私がさせると思いますか。私に全部押し付けないで下さいよ。とても支えきれませんからね。あくまでも、対等の相棒です。私もそう思います」
ミーナが微かに笑った。
「まあ、いいんじゃねぇの。お前がそうしたいなら、俺は応えるだけだ。久々に、やる事一個増えたな。お互いに相棒ってからにはよ、それなりに俺に求めろよ。変に遠慮なんかすんな。いっつもお前に要求してばかりだからな」
ミーナは小さく笑った。
「もうとっくにやって応えてもらっていますよ。私を有効に使ってくれ、存分に。これが要求です。もうなんかの機械みたいに、遠慮なくバリバリ使って下さい。ぶっ壊れたら勝手に直しますので」
「馬鹿野郎、それは俺の仕事だろうが。ったく、横取りしやがってよ。俺はなにすりゃいいんだよ」
俺は笑った。
「二台揃って一つの機械なんじゃないですか。妙にバランスが取れていて笑えますが。ちなみに、私はタンナケット代行だけは出来ません。つまり、抜けたらこの馬鹿野郎どもはバラバラです。いいんですか?」
「それが分かってるから、抜けられねぇんじゃねぇか。まあ、抜けたくはねぇがな」
俺はそっと笑った。
「だったらいてください。面倒なことおこさないで」
ミーナがそっと杖を構えた。
俺も苦笑して杖を構えた。
二人同時に呪文を詠唱し、杖を前方に突き出した。
ど派手な光りの濁流がそこら中のものをぶっ壊しながら通路を進み、壁にぶち当たって大穴を開けた。
「んだお前、そんな程度かよ!!」
「なんだと!!」
俺とミーナは杖を構え、さっきより魔力を叩き込んだ攻撃魔法を放った。
通路の壁という壁をぶっ壊し、そこら中を崩落させながら突き進んだ光りの濁流は、さっき空いた大穴の向こうに消え、ど派手な爆音が聞こえてきた。
「やるじゃねぇか、その調子だ」
「いいねぇ!!」
「馬鹿野郎!!」
ナターシャがミーナにゲンコツを落とし、俺に鼻ピンをした。
「……」
「……」
「なに考えているんですか。なんで混ぜてくれないの!!」
「……お前、攻撃魔法使えたっけ?」
「……はて?」
「馬鹿野郎、回復魔法で直すんです。ぶっ壊したものを!!」
「……お前、正気か?」
「……あ、あれ、まだダメだった?」
「なにかみてたら、思い切り直したくなりまして。ちょっと思い付いたので、試してみます!!」
ナターシャはぶっ壊れた壁に回復魔法を使った。
「……ダメか。少し変えてみよう」
「……回復魔法の基本ってよ、自己治癒能力を加速させるだけだろ。あれ、自己治癒能力あるのか?」
「……あったら怖い。それこそ、勝手に直るって事だからね」
ナターシャは延々と無駄な作業を繰り返した。
「……誰か止めてやれ。論理的に無理だからよ」
「……あれ止められますか。私は嫌です」
「あ、あのさ、なにやってんの。なにがしたいんだよ!!」
ミーシャが怒鳴って床に胡座をかいた。
「……あれ、やべ。ブチキレちまったぞ」
「……ファイト」
俺はそっとミーシャに近づいた。
そのまま脇に丸くなると、ミーシャは無言で俺を胡座の中にブチ込んだ。
「……わかってるよ。今の状態じゃとても進めないって。戻るから許してよ」
「……分かってるなら、やるなっての。ナターシャがつられて分けの分からんこと始めちまったぞ。あれ、どうしようか?」
ミーシャがそっと立ち上がった。
「この馬鹿野郎。笑い死にしそうだからやめろ!!」
ミーシャが怒鳴ってナターシャにゲンコツを落とした。
「あ、あれ、私はなにを?」
キョトンとしたナターシャに、ミーシャはもう一発ゲンコツを落とした。
「馬鹿野郎、帰るぞ。超絶腹が痛ぇ!!」
「おいおい……あとが怖いぞ。俺は知らねぇぞ」
「はい、超絶お腹が痛いということでしたので、超絶苦く調整した薬です。すぐに治りますよ」
「……」
「……飲めよ。自分でいったんだからよ」
再びベースキャンプまで戻り、俺たちはそれなりの時間を過ごしていた。
「はい、どうぞ」
笑みを浮かべるナターシャに微かに頷き、薬瓶を受け取ると一気に飲み干した。
「!?」
ミーシャは声すら上げずに床をのたうち回った。
「おい、あれ本当に薬なのか?」
「はい、薬ですよ。仮病の。どうも治らないですね。すぐにサボるんだから」
ナターシャは笑って俺に鼻ピンをしていった。
「……まあ、理由ある仮病だからな。いえねぇけど」
「あーあ、またお仕置きですか。理由知ったらナターシャはどんな顔するかな」
ミーナが笑った。
「まあ、可哀想っちゃ可哀想だけどな、ある意味コイツのせいだからな」
俺は苦笑した。
「いいじゃないですか。これも楽しみって事で」
「まぁな、生きてるから出来ることだ」
俺とミーナは笑った。
「さて、出発できるのはいつかね。もし、これで地上に戻っちまったら、もう次はねぇと思うぜ。だから、意地で粘るしかねぇな」
「またギリギリですね」
ミーナが苦笑した。
「それにしても、両極端な魔法を開発しましたね。どちらも最上級クラスに高難度だと思いますよ」
「それでいいんだ。簡単にできていい魔法じゃねぇよ。どっちも、一番重てぇものを扱うからな」
ミーナが頷いた。
「まだあったらみせて下さいね。軽蔑しませんから」
「もうねぇよ。切り札がそんなボコボコあってたまるか」
俺は苦笑した。
「な、なに、あの薬。なんか妙な毒素とか入ってない!?」
「ナターシャに聞いてくれよ。俺が分かるわけねぇだろ」
なんとか復活したミーシャが、俺を胡座の中にブチ込んだ。
「もう、地上戻ろうぜ。やってらんねぇよ!!」
「いいのか。二度とここにはこれねぇぞ」
ミーシャはため息を吐いた。
「分かったよ。頑張る……もうちょっと待って。なんとかする」
「お前がそういうなら、いつまでも待つぜ。お前がいなきゃ、あとにも先にも進めねぇんだぞ。よりによって、こんなとこで故障しやがってよ」
ミーシャがそっと背を撫でた。
「ダメだ、楽はさせねぇぞ。自分の足で歩け」
「……はいはい。相変わらず、厳しい事」
ミーシャは苦笑した。
「俺がなんで無闇に転移しないかっていったら、そういうことだからな。あくまでも非常事態だぜ。今は非常じゃねぇ。いつもの事だ」
「この迷宮ってなんだろうね。まあ、私たちの使い方がまともじゃないのは確かだ!!」
「元々まともなヤツなんていねぇよ。こんなヤバいところによ。だったら、勝手に使っていいだろ。なにぶっ壊そうが知ったこっちゃねぇよ。どうせ、勝手に直っちまうんだからよ」
俺は苦笑した。
「その謎を探求しようとかなんかないのかねぇ。ただここで遊んでるだけって、馬鹿野郎だぜ!!」
「んな面倒なのよそにやらせとけ、興味もロマンもねぇよ。なにが楽しいんだっての」
ミーシャがそっと俺の背に手を置いた。
「妙な動きに何となく気がついているぞ、逃がさないからな。タンナケット代行はいねぇんだよ。この馬鹿野郎。飽きちまったか?」
「馬鹿野郎、楽しくてしょうがねぇよ。なんか理屈じゃねぇわけわかんねぇのが、ボコボコ生えやがってよ。これ以上はねぇって思ってた、あのイカレジジイよりかなりイカレてるぜ。大丈夫かって感じだぞ」
俺は苦笑した。
「まあ、なんだかんだいっても、そのイカレジジイが飼い主だもんね。なにが野良猫だ」
「馬鹿野郎、こんな野良猫いてみろ。野良猫界がぶっ壊れちまうぜ」
「……なんだ、野良猫界って?」
俺は小さく笑った。
「俺は野良猫になりたくて出てきたのによ、よりにもよってコイツに拾われてまた飼い猫だぜ。ジジイの方がマシだったぜ」
「馬鹿野郎、もう遅いわ!!」
ミーシャが鼻ピンした。
「ったく、あのジジイもいい加減イカレてるぜ。使い魔探すのが面倒だからって、一から俺を作っちまった馬鹿野郎だからな。おかげで、猫なんだかなんだか……まあ、猫なんだろうな。ひでぇ事に土台にしたのが、膝の上に寝てた自分の飼い猫だったんだからよ。どう考えたって、探した方が早いだろうが。なに考えてやがるんだか……」
「おまけに気合い入れすぎて、自分より遙かにハイスペックにしちゃったんでしょ。使い魔の猫もどきが主より超絶ハイスペックって、イカレてて好きだぜ!!」
ミーシャが笑った。
「これさ、世間に発表したらエラい騒ぎだぞ。弟子どころじゃねぇもん!!」
「馬鹿野郎、どっかで解剖されちまうぜ。やめてくれ」
ミーシャがそっと俺を抱きかかえた。
「まあ、お陰でここで暴れてるわけだし、膝の上で寝てるよりいいんじゃないの」
「膝が胡座に変わっただけって感じだが、まあ好き放題ぶっ壊してロマンに浸れるからな。もし、ジジイの家ぶっ壊したら魔法戦になっちまうぜ。ロマンもねぇしな」
「……すげぇ喧嘩だぜ。街一個ぶっ飛ぶぞ」
「馬鹿野郎、最低でも国の半分は焦土になっちまうぜ。俺とジジイがガチでやりあったらよ。甘くみるなよ」
「……もはや、ただの危険物だぜ。おっかねぇ」
俺は小さく息を吐いた。
「まあ、緩くていいぜ。もう、あの神経張った生活は勘弁だぜ。息苦しいって」
「ここで緩いって、どっかおかしいぞ!!」
「フフフ、聞いちゃった!!」
「のわっ!?」
「い、いつの間に!?」
どこにいたのか、ミーナがいきなり隣にいた。
「なんだ、喋る猫ってどう考えてもおかしいって思ってたら、そういう事だったか。確かにまともな思考じゃない!!」
「馬鹿野郎、お前もまともじゃねぇよ。どっから生えた!?」
「わ、私が気がつかないって、どんな高性能なの……」
ミーナは小さく笑った。
「最初から冒険者なわけではありませんよ。嫌になって逃げたけです。タンナケットも似たようなものですかね。神経使うって意味では一緒ですね。間違っても、私に刃物は持たせない方がいいですよ。忠告しておきます。イカレていますので!!」
「……お、おい、お前まさか!?」
「……私と微妙に似た感じ?」
「タンナケットがイカレた魔法野郎なら、私はイカレたぶっ殺し野郎ですかね。内緒ですよ。これいったら、誰もこないので!!」
「……うわ、出たよ。こういうの」
「……結構いるからねぇ、冒険者ってさ」
ミーナが笑みを浮かべた。
「なので、完全に気配と殺気を消すなんて呼吸するようなものなんです。猫のタンナケットすら分からないとは、私の腕もまだ鈍っていませんね」
「気配はいいが、ヤル時はせめて殺気は出せ。怖いから!!」
「わ、私なんて全然可愛いじゃん!?」
「だから道具なんですよ。ガンガン使って下さい。わりと器用に出来ていますし、誰かからなにか仕事をもらっていないと、どうにも気持ち悪いのです。ちなみに、勝手に決めた今のクライアントは秘密にしておきますね。なんか、その辺りに転がってはいますが」
ミーナは俺をチラッとみた。
「……おい、マジかよ」
「な、なに、どうしたの!?」
「もう嫌ですからね、仕事ととはいえ……だから、ここでもらう仕事がいいんです。全くお金にはなりませんが、そんなもんどうでもいい。金では買えないものがあるってね!!」
ミーナはさりげな俺の背を撫でた。
「……」
「な、なに、タンナケットが固まったぞ!?」
「さあ、なんですかね。妙な毒気に当たったのかも」
ミーナが小さく笑った。
「……やっぱり、ただ者じゃなかったぜ。こいつは、今までいそうでいなかったタイプの馬鹿野郎だ」
「な、なに、なんか妙なもんでも勝手に食っちまったか!?」
「やっぱりここ、最高に面白いです。変なのばっかで!!」
「馬鹿野郎、お前が極めつき変な野郎だ。しかも、危ねぇ!?」
「ま、まあ、変な野郎ではあるな……」
「馬鹿野郎、お前も変な野郎だ。なんなんだ、ここ……」
俺はもう苦笑するしかなかった。
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