第60話 タンナケットの本業?
ベースキャンプ内をウロウロしていた俺は、苦笑を浮かべて立っていたカレンに会った。
「んだよ、我慢しろって。レインのアレだろ、剣を見つめてなんか遠いところいっちまったやつ。このパーティーってよ、隙があれば何かと会話するヤツが多くてよ。俺もいえねぇけどよ。なんだろうな、これ」
俺が笑うとカレンが笑った。
「……こ、これだけは、真似出来ない」
「するな、妙な病気になっちまうぞ。お前は少しまともでいてくれ」
「……頑張りますが、負けそうです。さっきまで、刀と向き合ってため息ついていましたから」
カレンが苦笑した。
「馬鹿野郎、見つめるならせめて俺にしとけ。なんか適当に喋るぶんだけマシだ。口は悪いがな」
俺は苦笑した。
「……では、魔法を教えて下さい。思い切りなんかぶっ壊したいので」
カレンが笑みを浮かべた。
「そういうノリは好きだがよ、お前の魔力じゃいくら知識をブチ込んでも風も起きねぇよ。無駄なことはしねぇぞ。その代わり、腰に立派な破壊道具持ってるじゃねぇかよ。それでぶっ壊せるを思い切りぶっ壊せ。なんならいくか。ぶっ壊しによ!!」
「……えっ?」
カレンの目が丸くなった。
「溜め込んでるのはよくねぇぜ。語りかけて誤魔化せねぇなら、もうぶっ壊すしかねぇだろうが。おい、いくぞ」
「……ちょ、ちょっと!?」
苦笑して歩いていくと、不思議そうな顔のミーシャが近寄ってきた。
「な、なに、その顔はマジだぞ。どこいくの」
「……コイツがなんかぶっ壊したくてたまらねぇんだとよ。すぐ帰る、ちっといってくるぜ」
「ば、馬鹿野郎、二人でいったらヤバいって!?」
「だって、猛烈にぶっ壊してぇんだもん。ブチキレて余計なもんぶっ壊されたら困るしよ」
「……そ、そこまでいってない!?」
俺はカレンをみた。
「お前、なんかぶっ壊してぇから魔法教えろっていったよな。魔法ってどれだけ大変か知ってるか。基礎だけで何年もかかるんだぞ。ただぶっ壊すためだけにそこまでの覚悟みせられたらよ、俺は死ぬ気で何だってやるぜ。そういうの、大好きだからよ」
「……そ、そうなの、ご、ごめんなさい!?」
カレンが慌てて頭を下げた。
「わかったよ。ちょっとイジメただけだ。みんな、そうやって今の状態なんだぜ。最初からぶっ壊せるやつなんかいねぇよ。ぶっ壊したかったら、ぶっ壊せるように努力しろ。語りかけるのは、それからだな。じゃなきゃただの危ねぇ野郎だからやめとけ」
「……いや、どっちみちヤバいぜ」
ミーシャが苦笑した。
「ったく、しょうがねぇな。ご要望通り思い切りぶっ壊しに連れていってやるよ。その刀だろ。最高に暴れられる場所知ってるぞ!!」
ミーシャがカレンの手を取った。
ミーシャがそっと視線を送ってきた。
「おいおい、待てよ。俺もぶっ壊してぇんだからよ。仲間はずれはねぇだろ!?」
俺はそっと杖を持ち、呪文を唱えた。
「まあ、危ねぇからこのフロアのアレだな。アソコならウジャウジャいるぜ!!」
「……な、なにが、ウジャウジャ!?」
カレンの顔が引きつった。
「ああ、あそこか。アレはなかなか楽しいぜ。いこうか」
俺は近くにいたミーナに視線を送り、笑みを浮かべた。
「なんです、暴れにいくんですか。ズルいですよ。誘って下さい」
ミーナは苦笑して、杖を手にした。
「な、なんじゃこりゃ!?」
「……うげぇ」
「なんだよ、ただの馬鹿野郎なスライムのたまり場じゃねぇか。しっかし、スゲぇ数だな。どっから出てきやがったんだかな」
ベースキャンプから出てすぐに、いきなり通路がぐっちゃぐちゃとスライムで埋まっていた。
「ば、馬鹿野郎、これどうすんだよ!?」
「なんで俺に怒るんだよ。出ちまったもんは出ちまったんだからよ。ほれ、好きなだけぶっ壊せ」
カレンが引きつった顔で刀を抜いた。
「……こ、このグチャグチャを斬るの?」
「馬鹿野郎、そんな知識もねぇのかよ。スライムにはほとんど物理攻撃は効かねぇぞ。魔法で焼き払うのが手っ取り早いんだが、お前魔法はダメだもんな。気合いと根性でぶっ壊せ。サンドバッグにはちょうどいいぜ。なんせこんだけいたら、もう好きなだけぶっ壊せるぞ。まあ、ぶっ壊せればだがな」
「……な、なんか、頭にきた。この野郎、意地でもぶっ壊す!!」
カレンは刀を抜き、スライム相手にもうメチャメチャに暴れ始めた。
「……うわ、あのカレンがここまで暴れるって。かなり溜まってたな」
ミーシャが頭を掻いた。
「ったく気がつけ。それこそ、ぶっ壊れちまうぞ」
「はぁ……また妙な魔法を。馬鹿野郎」
ミーナが苦笑した。
「この野郎!!」
「……燃え上がってやがる」
狂ったように暴れるカレンを、ミーシャが唖然と見つめていた。
「……なにやってるの。あんなのぶちまけて」
ミーナがこそっと呟いた。
「……毒抜きってヤツだ。どっちもちっとはマシだろ。ミーシャもカリカリしてるからよ。信じてはいるが、危険は未然に防ぐってな」
俺は小さく息を吐いた。
天井から大量のスライムが降り注ぎ、カレンとミーシャに降り注いだ。
「……じゅ、呪文すらない」
「……馬鹿野郎、スライムってのは魔法生物だ。つまり、魔法で生み出す妙な物体だぜ。こんなもん呼吸だけで出来るぜ」
俺はさらに息を吐いた。
さらに滝のようにスライムが降り注ぎ、一言で言えば大惨事だった。
「……む、ムカついた!!」
「わ、私もブチキレた!!」
カレンに加わりミーシャも色々暴れ始めた。
「馬鹿だねぇ。いっくら斬ろうがぶん殴ろうが、そいつは絶対倒せねぇぜ。まあ、気持ち悪い以外なんの害もないけどな。ちょっと細工してあるぜ」
「……うわ、ひでぇ」
ミーナが苦笑した。
「えっと、これもやれって事ですか?」
「出来るもんならやってみやがれ、これが大変んなんだぜ。暴れさせるだけでいいなら楽なもんだぜ」
俺は息をはいた。
とどめのスライムの山が一気に降り注いだ。
「な、なんなのここ、この野郎。堪らねぇぜ!!」
「こんな場所知らねぇよ、やっぱここ最高だぜ!!」
結局の所、楽しそうにスライムと戯れる二人になった。
「……以上、修理完了。まあ、今回は楽だったな」
「……おいおい、馬鹿野郎か?」
ミーナが苦笑した。
「あ、あの、なんです?」
「よくいうだろ、馬鹿と魔法は使いようってな!!」
「……ジジイに怒られるぞ!!」
ミーナが笑った。
「……も、燃えたぜ」
「……もうダメ」
暴れ倒してスライムの中にぶっ倒れた俺は、思わず笑った。
「馬鹿野郎、んなこといると消化されちまうぞ!!」
「ああ、そうだった。カレン、寝たら死ぬぞ!?」
いきなり飛び起きたミーシャが、グッタリしているカレンを引きずってきた。
「な、なに、このスライム祭り!?」
「知らねぇよ、なんかムカついて迷宮がブチキレちまったんじゃねぇか。ここって、変な事ばっかり起こるからよ!!」
俺はそっと息を吐いた。
びっちりスライムで埋まっていた通路が、元通り綺麗になった。
「……な、なに!?」
「馬鹿野郎、なにが起きた!?」
俺は笑った。
「迷宮に聞けよ。俺が分かるわけねぇだろ。んなことより、ひでぇ有様だからよ。なんか臭ってくる前に、とっとと着替えなりなんなりしてこい」
「……に、臭う!?」
「そ、そうだったっけ。と、とにかく急ぐぞ!!」
ミーシャがカレンを引っ張って、慌ててベースキャンプに戻った。
「よし、こっちもよくなったか。微妙だが、どうもうまくいってない感じだったからな。こんなんばっやりながら、冒険野郎してるんだぜ。ったく、物好きだよな」
俺が苦笑すると、ミーナが小さく笑った。
「私は出来ません。大雑把なので!!」
ミーナが俺をみた。
「まさか、この迷宮ってタンナケットが作ったとかいわないですよね?」
「馬鹿野郎、俺にこんなもん作れるか。せいぜい、スライムぶっかけて遊ぶくらいだぜ。考えてもみろよ、自分で作った迷宮にこんなマジになるかよ。なにも分からねぇから、楽しいんだよ」
ミーナが笑った。
「これも、ロマンですか?」
「分かってるじゃねぇか。未知への探求は冒険の基本だぜ。これこそ、ロマンだ。まあ、ほったらかしで遊んでるがな」
ミーナが笑った。
「なにしたいんですか。馬鹿野郎!!」
「俺もそう思うぜ。なにしてぇんだろうな!!」
俺は苦笑した。
なんとなく落ち着き、ベースキャンプでミーシャの胡座の中にブチ込まれ、俺はそっと背中を撫でられていた。
「あのさ、気のせいかもしれないけど、私の保護者的な馬鹿野郎がなんか二人になってない!?」
「馬鹿野郎、誰がお前の面倒なんてみるかよ。俺ぐらいじゃねぇの」
俺はそっと苦笑して、さりげなくこっちが見える位置でナターシャと喋っているミーナをみた。
「おっかしいな、なんか変な感じなんだよねぇ。なんか、不気味だぜ!!」
「背後霊でもなんでも、憑いてりゃいいんじゃねぇの。俺一個のお守りよりはよ」
「馬鹿野郎、気持ち悪い。憑いてるとかいうな!!」
ミーシャが鼻ピンをした。
「ったく、手間掛かる野郎ばかりだぜ。楽しくて仕方ねぇよ」
「タンナケットも大変だよな。まあ、頑張れ!!」
ミーシャが笑った。
「よし、先生の腹痛も治ったようだしよ。キリよく大休止してからいくぞ。準備しとけよ」
俺の声で、全員が寝袋を広げ始めた。
「おーい、ミーシャ。隣寝ていいか!!」
寝袋を抱えてミーナがきた。
「おう、いいぞ!!」
胡座をかいたミーシャの隣にミーナが寝袋を広げた。
「ほれ、ミーシャもちゃんと寝ろ!!」
「い、いいって!?」
ミーナは、一応持っているだけで普段は使わないミーシャの寝袋を広げた。
「お、落ち着かないから!?」
「いいから、早く!!」
バタバタするミーシャを無理矢理寝袋に押し込んだ。
「こ、これダメ。なんか怖い!?」
「怖くないから、そこのお守りが面倒なことやってくれるから、全部押し付けてやりなよ。なんか好きそうだしさ!!」
ジタバタするミーシャを押さえつけ、俺をチラッとみたミーナが笑みを浮かべた。
「おい、ミーシャ。俺にも仕事くれよ。お前がガードしてたらよ、面白くねぇんだよ。なんかあっても横のミーナが何とかするだろうし、その前に俺が気合いでなにもさせねぇよ。お前はしっかり休んでくれ。他にやらなきゃならん事があるはずだぜ」
俺が笑みを浮かべると、寝袋に入ったミーシャはため息を吐いた。
「……知ってるだろ。この状態で、根こそぎやられたんだぞ。それでも、やれっていうか?」
ミーナの顔色がやや変わった。
「……悪かった。ごめんね」
ミーナはそっとミーシャを寝袋から出した。
「なんか気を遣わせてるのは分かってるんだけどね。もうちょっと、時間をちょうだい。大丈夫だからさ」
「む、無理はしないでいいから。落ち着く状態にして」
「じゃあ、せめて寝袋の上かな。隣に誰かいれば、多分大丈夫だから」
ミーシャは寝袋の上に転がった。
「それが出来るようになっただけでも、かなりマシになったな。安心しろなんて無茶はいわねぇけどよ、こっちは勝手にやってるぜ。好きに休んでくれ」
「はぁ、二人目保護者はこれだったか。やっと分かったよ。それだけでも、安心だぜ!!」
ミーシャは苦笑した。
「タンナケット、なんでいわないの!!」
「いうよりやった方が早いだろ。俺がいって、これ通じたか?」
怒鳴ったミーナに俺は苦笑した。
「はぁ、全く。本気で焦ったよ!!」
「焦ってくれねぇと困るんだよ。なかなか難しくてな。これ言葉で伝えるほど、俺は賢くねぇぞ」
ミーナが苦笑した。
「なるほど、出来る事だけやりますよ。全部は無理ですからね!!」
「馬鹿野郎、誰がそんな事いった。俺の仕事取るんじゃねぇ。追い出されちまうぜ」
俺は思わず笑った。
「へぇ……ミーシャが本気で寝てるって、初めてみたぞ。お前、なんか魔法つかってねぇよな?」
寝息を立てているミーシャの脇で、床に転がっていたミーナが笑った。
「私の睡眠魔法は暴発するらしいので、なにもしていませんよ。横に転がっているだけです」
「一番穏やかで自然な魔法だぜ。睡眠魔法で無理矢理寝かせたって、全く意味がねぇからな」
俺は小さく笑った。
「俺が使えない魔法ってのはこれだぜ。どうも荒削りでよ。力任せに叩きのめしてねじ伏せるのは得意なんだが、こんなのはできねぇぜ」
「まあ、そういうのはタンナケットの領分ですね。私は苦手です!!」
ミーナが笑った。
「これで、やっと出来なかったことが出来るようになったぜ。まあ、頼むぜ」
「こら、どっかいくな!!」
ミーナが苦笑した。
「んだよ、ちょっと散歩だぜ」
俺は苦笑した。
「馬鹿野郎、サボるな。ちゃんと仕事しろ!!」
ミーナが笑った。
「ったく、たまには休ませろよ。しょうがねぇな」
俺は杖を持ち、神経を集中させた。
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