第50話 爆走 迷宮!!

「よし、今日は俺が奢るぜ。適当に注文しろ」

「はい、もう注文してあります」

 ナターシャが笑みを浮かべた。

「さすがだな」

 俺は苦笑した。

「はいよ。これを頼むって事は、いよいよアレだね!!」

 タイミングよく、オバチャンがメシをテーブルに置いていった。

「……な、なにか、いつもより桁違いに豪華なのですが」

「いいから黙って目を閉じろ。思う事はなんでもいいぜ」

 戸惑うカレンにいってから、俺は目を閉じた。

「……は、はい」

 そのまましばらくして、俺は目を開けた。

「よし、気合い入ったか。ガンガン食え!!」

 カレンを除く、全員が一斉にメシに手を伸ばした。

「お前も遠慮するな。願掛けみてぇなもんだ」

「……は、はい!!」

 カレンが遅ればせながら、メシを食いはじめた。

「オバチャン、もうなんでもいいからガンガン持ってきてくれ!!」

「あいよ、景気よくいこうぜ!!」

 オバチャンが小さく笑みを浮かべた。

「そういうこった。またここに座れる事を祈ってな」

 俺は笑って、普段はなるべく避けている人間用のメシも遠慮なく食った。

「うん、本気で飲んでいい?」

「私も上限解放しますか」

 レインとナターシャが笑った。

「おう、もうなんでもいい。いっそ、思い切り暴れろ。そこら中のものぶっ壊せ」

「……おいおい」

 カレンが妙に冷静にツッコミを入れてきた。

「なに、景気悪いね。ほら!!」

「!?」

 カレンの口に酒瓶の口をねじ込み、無理矢理飲ませた。

「ったく、このバカ猫!!」

 ミーシャが苦笑して鼻ピンした。


「……ううう、普段飲まないから」

「うん、根性が足りん!!」

 テーブルに突っ伏したカレンの背中をバンバン叩きながら、レインが上機嫌だった。

「ミーナ、今度戻ったら結婚しよう!!」

「それヤバいっすよ!!」

 ……色々あかん、この二人。

「どーすんのこの惨状。知らないよ!!」

 ミーシャが笑った。

「いいじゃねぇかよ。これだけやっときゃ問題ねぇだろ」

 俺は息を吐いた。

「よし、出発は明日の朝だ。一気に地下六階から攻めるぞ。他には目もくれるな」

 グデグデだった連中の顔が引き締まり、一つ頷いた。

「……こ、このスイッチ。ついていけない」

 カレンはそれきり、動かなくなった。

「おう、いきなり緊急事態だぜ。回復いけ」

「ここは私が!!」

 ミーナが回復魔法を使った。

「おう、やっぱいい腕してるじゃねぇか」

「まあ、私ほどじゃないですけどね」

 ナターシャが笑った。


「……」

 ボロ宿の部屋で全員が寝静まった中、俺は念入りに杖の手入れをしていた。

「……どうした、寝れねぇか?」

 もどもぞと布団が動き、カレンとミーナが顔を覗かせた。

「……私は地下四階までの経験しかありません。三年もやっていて情けない話ですが、私を含めたパーティーの実力だとそれが限界だったのです。このパーティーは現在の再深度地下十二階の経験がある事は有名です。私がどこまで通用するか……」

 俺は小さく笑った。

「訂正だ。地下五階を経験しているはずだぜ。勢いでな」

「あっ……」

 ミーナが声を上げた。

「そういうもんだぜ。俺たちだって、気がついたら地下十二階にいたんだ。狙ったわけじゃねぇ。あんまり考えるな」

「は、はい……」

 ミーナは小さく息を吐いた。

「カレンもだ。いざってなれば、誰かが必ずフォローする。緊張すんな。楽しくねぇぞ」

「……は、はい」

 カレンは小さく頷いた。

「よし、寝ちまえ。一気に突っ走るから、寝不足だとキツいぞ」

 二人は頷き、また布団に潜った。

「……さて、生かして帰さなきゃな。楽しくなってきやがったぜ」

 俺は小さく笑った。


 明け方過ぎくらいに街を発った馬車は、迷宮までの道を走っていた。

「……荷物多い気がします」

 カレンが不思議そうにいった。

「ああ、一人増えてくれたお陰で運べる量が増えたからな。地下深くなるほど、いちいち地上に戻るのは現実的じゃなくなるんだ。だから、いざって時のために持てるだけ持って行くのが基本だぜ。ったく、冒険してんだか荷運びしてるんだか分からねぇ」

 俺は笑った。

 馬車は程なく迷宮に着き、荷台から荷物を下ろして背負い始めた。

「……お、重い」

「戦闘になっちまった時は手早く下ろせよ。もたもたしてるとやられちまうからな。そして、恒例だが謝らなきゃならねぇ事がある」

 俺はため息を吐いた。

「……俺、猫だから荷運び出来ないんだ。ごめんね」

「コイツさ、意外とこういうの気にしやがるからよ!!」

 ミーシャが鼻ピンした。

「……こればかりは、しょうがないね」

 カレンが笑みを浮かべた。

「……よし、いくぜ!!」

「……また、このスイッチ」

 カレンがため息を吐いた。


「よし、走れ」

「……は、走る!?」

 ナターシャが魔除けの結界を張り、邪魔くさい魔物を追い出したあと、俺たちは階段に向かって走って。

「いいな、先生のあとに続け。変なとこ踏むなよ」

「……は、はい!!」

 そのままの勢いで階段を駆け下り、地下一階に下りた。

「こんな場所どうでもいい。突っ走れ」

「……い、今までの慎重なペースは!?」

「このためだ。もう安全なルートは確認済みだ。モタモタする必要はねぇ」

 俺たちは一気に地下二階まで駆け抜け、当たり前のようにコボルトの店を通過した。

「……す、スルー!?」

「……定時通過。異常なし」

 そのまま地下二階を駆け抜け、地下三階に下りるとなにもいわずに氷の浮島を作った。

「おう、なんだよ。今日はノリノリじゃねぇか!!」

 いつも通り、ウンディーネが顔を出した。

「おう、今日はそんな気分だぜ」

「分かった、とっとと乗れ!!」

 俺たちが浮島に飛び乗ると、ウンディーネは浮島の進行方向側が上を向くような勢いで猛スピードで押し始めた。

「なんだおい、いい感じじゃねぇか」

「当たり前だ。ナメるなよ」

 正気とは思えない速度で入り組んだ通路を突き進み、あっという間に階段に到着した俺たちは、飛び降りた勢いそのままで階段を駆け下りた。

「……し、死ぬかと!?」

「馬鹿野郎、ヘタレたこというんじゃねぇ。駆け抜けるぜ」

 地下四階のフロアに下りると当時に、俺は呪文を唱えた。

「……うわ!?」

 慌てて頭を引っ込めたカレンを掠め、極太の光の帯が通路の先に伸びた。

「掃除完了。また魔物が寄ってくる前に走れ」

「……も、もう限界」

 カレンが弱音を吐いた瞬間、レインがケツを蹴り上げた。

「ほら、いけ!!」

「……ああ、もう!!」

 ヤケクソで走るカレンの背中をみて、俺は笑った。

「いいぞ。ここまでついてこれるんだからよ」

「……あとでぶっ殺す!!」

 地下四階を駆け抜け、地下五階への階段前でミーシャが止まった。

「ここから先はダメだよ。進む前に休憩ってどう?」

 ミーシャが笑みを向けてきた。

「いいイディアだ。先生、休んだら頼むぜ」

「了解」

「……や、やっと、休める」

「……」

 カレンとミーナが床にぶっ倒れた。

「お前らすげぇな。いきなりこれについてこれるなんてよ」

「うん、この調子なら大丈夫だね」

「はい、安心しました」

 レインとナターシャが笑った。

「さ、さすが、噂以上のイカレたパーティだ……」

 ミーナが肩で息をしながらいった。

「そりゃ褒め言葉だぜ。よし、しっかり休め。ここから先は、確実なルートがねぇから、集中力が必要になるからな」

 俺が床に丸くなると、ミーシャにとっ捕まって胡座の中にブチ込まれた。

「ここだって、何度いえば覚えるんだよ!!」

「……知らねぇ。寝たいところで寝るのが猫だ」

 ミーシャが鼻ピンして、小さく笑った。

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