第39話 覚醒? カレン
「あっちゃー、最悪……」
病院に担ぎ込み、意識を取り戻したミーシャが呟いた。
「自分で分かってるだろうから、俺はなにもいわねぇよ。とにかく、とっと治せ」
呪縛は解除できたが、その反動でしばらくはまともに動けそうになかった。
「なにやってるんだかねぇ。情けないぜ……」
「無理に喋るな。まだ、痺れが抜けてねぇはずだからな」
俺は苦笑した。
「頼むぜ先生。みんな頼ってるんだからよ」
ミーシャは笑みを浮かべ、静かに目を閉じた。
俺は病室を出ると、心配顔の全員に笑みを向けた。
「問題ねぇ。あれが簡単にくたばるタマじゃねぇだろ」
全員が息を吐いた。
「さて、どうすっか。先生はしばらく動けんぞ。俺は、もう少し呪術の勉強でもするかねぇ……」
「……あ、あの、魔法と剣を合わせた技があると、師匠から聞きました。一度みたいのですが」
カレンが熱を入れた声でいってきた。
「ああ、魔法剣な。ちとタイミングが難しいが、剣の材質によっては可能だぞ。レイン、ちょうどその剣はミスリルだろ。うってつけだな」
「うん、いわれると思って持ってきた」
レインが笑った。
「ちなみに、回復魔法でも可能ですよ。斬りつけて回復。意味分からないですね」
ナターシャが笑った。
「……妙なことすんな。わけがわからん」
俺は苦笑した。
「……あ、あの、この刀では可能ですか?」
カレンが刀を抜いた。
「師匠、なに教えたんだよ」
俺は笑った。
「うん、うっかりね」
レインが笑った。
「どれ……ああ、鋳鉄か。これじゃダメだ。魔力をほとんど吸収しねぇからな」
「……あ、あの、面白そうなので、やってみたいのですが」
カレンが笑った。
「おう、なんだ。急速に馬鹿野郎になってきたな。よし、まずはどんなもんかみせてやる。レイン、やるぞ」
「うん、分かった」
俺たちは病院をあとにいた。
街の原っぱに移動して、レインが剣に手を掛けた。
「よし、手本だからゆっくりやるぞ」
カレンが頷いた。
俺が杖を構えると同時に、レインが剣を抜きその刀身に炎が纏わり付いた。
そこから放たれた炎が一直線に地面を走り、たまたま進路上にあった立木を一瞬で炎上させた。
「……す、凄い」
カレンが目を丸くした。
「うん、手加減してるよ」
「これをほんの一瞬でやるんだ。目で追えねぇかもな」
俺は小さく笑った。
「……すっごく、やりたい!!」
カレンの目に変な炎が点った。
「……本気で馬鹿野郎になってきたな」
俺は苦笑した。
「やるなら、まずその刀から変えねぇとダメだ。でも、それ銘品なんだろ。もったいねぇよ」
「……いいんです、このためなら!!」
「……師匠、なんか馬鹿野郎になっちまったぞ」
「うん、いずれこうなるよ」
レインが笑った。
「な、なに、それ捨てて魔法剣のために新しく打て!?」
いつもの武器屋のオヤジが、目玉を極限まで見開いた。
「……は、はい、お代はこれでなんとか」
今までの刀をカウンターにおいた。
「お、お前、それの価値分かってるのか!?」
「……多少は……しかし、些細な事です。ぜひ」
オヤジは俺の顔をみた。
「お、お前のとこってロクなのいねぇな。なに考えてるんだ!?」
「しらねぇよ。止めたって聞かねぇしな」
俺は苦笑した。
「ったく、お前。これに見合うって……俺じゃ無理だ。専門にしてる野郎がいる。ちと呼んでくるから待ってろ!!」
オヤジは慌てて店の外に飛び出ていった。
「ほぅ、アイツが外注するとはな。カレン、相当な難題を押し付けたぞ」
俺は苦笑した。
「……そ、そうなんですか?」
「ああ、あれは何でも自分でやる事にプライドを持ってる。それが外注に出すってのは、相当なもんだぜ。ったく、どんだ馬鹿野郎だぜ」
カレンが笑った。
「……まあ、染まってしまいましたね」
「いいことだ。その調子で上げていってくれ」
店のオヤジが、一人の姉ちゃんを連れて帰ってきた。
「おう、この馬鹿野郎だ!!」
「へぇ、これを捨てて……なかなか、面白いね」
姉ちゃんが笑みを浮かべた。
「ちょっと体格をみせてくれ……」
姉ちゃんがカレンの体をアレコレとチェックしはじめた。
「なるほど……よし、プランは決まった。工房を借りるぞ」
姉ちゃんは店の奥に入り、やがて槌音が聞こえはじめた。
「……いい音ですね。これは、期待できます」
「なんだ、分かるのか?」
俺の問いにカレンが頷いた。
「まあ、その辺りは分からねぇが、本当に後悔してねぇだろうな?」
「はい、やりたいことをやる。それが、冒険者でしょう」
笑みを浮かべたカレンに、俺は笑った。
「ちげぇねぇ。さて、出来るまでの間、どっかみて回るか?」
全員が頷き、俺たちは一度店を出た。
「まあ、まずはここだな」
そこは、魔法書を扱う店だった。
「……勉強するんですね」
「馬鹿野郎、魔法なんざ自然に湧いてくると思っていたのか?」
俺はカレンに苦笑した。
「ああ、私もなにか探そうかな」
ナターシャが反応した。
「……わ、私も」
「……なに、好奇心の塊?」
俺は笑った。
「よし、これが読めたら教えてやろう」
俺は一冊の魔法書をカレンに示した。
カレンはその書物を手に取り、数秒で頭から煙を吹いた。
「……分からないところが分からない」
「馬鹿野郎、その魔力でまともな魔法が使えるか」
俺は笑った。
「魔法を使うには、それに見合った資質が必要だ。気合いと根性で使ってるわけじゃねぇぞ」
「……先にいって」
カレンはため息を吐いた。
「まあ、なんにでも関心を持つのは悪くねぇぞ。その調子だ」
俺は店に入り、目当ての魔法書を探した。
「いつまでも呪術は専門外なんて、偉そうにいってる場合じゃねぇからな……」
「……意外と勤勉」
「……カレン、俺の事なんだと思ってやがった」
「まあ、タンナケットは魔法の虫なので、暇さえあれば読んでいますよ。こっそりね」
ナターシャが笑った。
「……堂々とやればいいのに」
「馬鹿野郎、俺が真面目に勉強してるところなんか、見たくもねぇだろ」
俺は苦笑した。
「……努力している人は好きですよ。いいですね」
カレンが笑みを浮かべた。
「生憎、俺は猫だ。人じゃねぇ」
カレンに笑みを返し、真面目に書物選びをはじめた。
「……呪術か。なかなか厄介なんだよな」
「教えますよ。ヘタレでよければ」
ナターシャが笑みを浮かべた。
「ヘタレね、よくいうぜ」
俺は苦笑した。
「……し、師匠は魔法には興味がないんですか」
カレンがレインに聞いた。
「うん、全然興味ないよ」
レインが笑った。
「ったく、もったいねぇよなぁ。それなりに魔力あるのによ」
「……ズルい」
カレンがため息を吐いた。
「まあ、そんなもんだ。俺なんて魔法使えなかったら、ただの口うるせぇ猫だぜ」
「……そんな事はないです。魔法だけではないと思いますよ」
カレンが小さく笑った。
「なんだおい、いうようになったな」
俺は笑い数冊の魔法書を選んだ。
「……ふん、こいつはやり甲斐があるな」
思わず口がにやけた。
「……あ、あれ?」
「ああ、モード入っちゃったね。しばらく抜けないよ」
レインの声が聞こえた。
「……ど、どこが馬鹿野郎なんですか!?」
「馬鹿野郎だよ。そのうちわかる」
レインが笑った。
「よし、あとはどこが気になる?」
「……これといってないですが。あっ」
カレンが指差した先にあったのは……人買い人売りの店だった。
「まぁな、いいか悪いかなんざしらねぇが、この国にはそういう文化みてぇなものがある。珍しくねぇぞ」
「……許せませんね」
カレンがその店を睨んだ。
「おっ、信念貫くか。でも、お前は丸腰だぞ。ムチャはすんなよ」
「……お願いです。協力してください。ぶっ潰しましょう」
俺は笑った。
「おうおう、熱くなりやがって。おい、どうする?」
「いいんじゃない、暇だし」
レインが笑った。
「まあ、私も好きではないので、暇つぶしに遊びますか」
ナターシャが指をバキバキ鳴らした。
「……あ、あれ、武器は?」
「いらねぇよ、この二人に任せとけば二秒くらいじゃねぇか?」
「そんなにいらないよ」
「瞬殺ですかね」
「よし、いってこい!!」
素早く店に突っ込んだ二人は、文字通り一瞬で店を叩きこわした。
「……え、えっと?」
「大した事ねぇよ。あんなもん」
俺は笑った。
「さて、救助した人たちどうする?」
「馬鹿野郎、俺たちがもらっちまうわけにはいかねぇだろ。警備隊にでも預けてこい」
レインは笑い、十人ほどを警備隊の詰め所に連れていった。
「よし、そろそろ戻るか。出来てるんじゃねぇか?」
俺たちは武器屋に戻った、
「上がってるよ。大小二振り打ってみたがどうかな」
「……す、凄い」
カレンの刀は二振りになっていた。
鞘から抜くと、独特の金属の色に綺麗な紋様が浮いていた。
「体格に合わせてあるから、使いやすいと思うよ」
「……は、はい」
刀を素振りして確かめ、カレンは満足そうな笑みを浮かべた。
「気に入ったらしいぜ。支払いはいつものアレでいいか?」
「ああ、いいぜ。これは持っておけ、あまりにも貴重すぎるぜ」
オヤジはカレンに元の刀を押し付けた。
「……そ、そんな!?」
「なに気にするな。その分、きっちり働いてもらうからな」
「……は、はい、頑張ります!!」
カレンは笑みを浮かべた。
「よし、さっそく待望の魔法剣タイムだ。俺がタイミングを合わせるから、そんなに難しくはない」
「……は、はい!!」
俺たちは再び街の原っぱに移動した。
「……いよいよ」
「馬鹿野郎、なにかと戦ってるんじゃねぇんだからよ」
俺は笑い杖を構えた。
「よし、まずは普通に振ってみろ。その癖に合わせてやるぜ」
「……はい」
カレンが刀を鞘から抜き、素早く振った。
「分かった。いくぞ」
「……はい!!」
もう一度振ったカレンの刀に炎が纏わり付き、振り下ろした直後に地面を走った炎が、原っぱを駆け抜けて近所の民家をぶっ壊して炎上させた。
「……あっ」
「……ヤベぇ、逃げろ!!」
俺たちは一目散に原っぱから逃げ出した。
「まあ、魔法剣ってのはいざって時の必殺技みてぇなもんだ。破壊力はあるが、扱い方は難しいもんさ」
「……び、ビックリしました」
カレンが息を吐いた。
「うん、慣れだね。使って覚えるしかないよ」
レインがカレンの肩を叩いた。
「……は、はい。色々ぶっ壊して覚えます」
「……近所迷惑だからやめろ」
俺たちは病院に戻り、またミーシャを見舞った。
「よう、馬鹿野郎。調子はどうだ?」
「もうちょい掛かるよ。まだ声も本調子じゃないぜ。情けなくて泣けるぜ」
ミーシャは目を拭った。
「ったく、頼むぜ。今回は覚悟したからな。なんたって、最後は運だったからな」
「……分かってるよ。ごめん」
「分かってりゃいい。ったく、死にかけるの何回目だよ」
俺は苦笑した。
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