2 帰ってこないパターン?

 単独ソロでの探索は俺の得意ではあるが、何しろ久々だ。

 以前使っていた短弓は捨ててしまったし(5話3)、色々と準備をしたい。

 俺は市場へ向かい、雑貨屋を訪れることにした。


 これは余談だが、武器屋と言えば大抵は『刃物屋』である。弓と矢は狩猟用品に分類されるために専門店か雑貨屋で売っている。マメ知識だな。


 ちなみに本も専門店か雑貨屋だ。

 もちろんエッチな本もあるぞ。挿し絵は微妙だし、内容も詩的で実用性は全く無いけどな。

 読者層は貴族とかセレブの女性が多いらしい。


 そんなこんなで雑貨屋は便利な商店だ。

 大店になると交易所のような機能を持つこともある。


 ……ほー、立派な店構えだな。


 市場で探した雑貨屋は石造りの立派な建物だ。

 交易所とまではいかないが、店員も多いようで、店の外でも若い店員が忙しげに荷物を馬車から下ろしていた。


 店に入るとカウンターがあり、若い店員が「一見さんかい?」と声をかけてくる。


 壁にもたれ掛かっていた警備員(用心棒)がジロリとこちらを睨むが、珍しいことではない。

 商品の値段が交渉で決まる世界では、当然だがトラブルは多い。少し立派な商店に行けば、体格のいい店員や専門のスタッフが防犯を担うのだ。


「ああ、はじめて使わせてもらうよ。弓と矢、それとえびらが欲しい。弓は長いのじゃなくて短めがいい。予算は決めてないが、手頃なのを頼む」


 店員に伝えると「少々お待ちください」と丁寧な言葉で挨拶し、奥からいくつか弓と箙を運んできた。

 一応は陳列もあるが、大抵はこのシステムである。


 どうやら俺は『それなりの客』と判断してもらえたようだ。

 身なりが貧相だったり風体が悪いと「市場の露天をご利用ください」とか言われることもあるし、逆に立派な上客と見れば店主が相手をしてくれる。

 一見の冒険者に店員が丁寧に接客をしてくれれば御の字だろう。


 運ばれた短弓にはすでに弦が張ってあり、俺は「引かせてくれるか?」と断ってから弓を引く。


「それはオルモ材ですね。引き味がやわらかいと思いますが、どうですか?」

「うーん、軽すぎるかな」


 俺はいくつか試すが、どうもしっくりこない。

 以前使っていた弓に良く似た感じのものも軽すぎるのだ。


 ……うーん、腕力が上がった影響だな。どうもバランスが掴みづらい。


 どうやら俺の身体能力が上がったせいで感覚がズレたようだが、コレばかりは仕方ない。


「これ以上だと長弓か合成弓になりますよ。そうなるとお値打ちとはいきませんが……」


 店員が申し訳なさそうな顔をするが、俺もごねるつもりはない。

 そもそも短弓は威力を求める武器ではないし、これでいいだろう。


 装備は良いものがいいに決まってるのだが、いざという時に投げ捨てられるようなものが望ましいと俺は思う。

 何か思い入れのある品を犠牲にできず、命を落とす冒険者はわりといるのだ。

 月の剣はそういう意味ではわりと困る。冒険者であるうちは身軽でいたいもんだ。


「じゃあ、このロブレ材の弓を試射できるかな。矢と箙も――」


 裏には小さな射場があり、警備員が2射した後に俺に弓を手渡した。

 不良品だとか難癖つけられないために目の前で確認したのだろう。


 肝心の引き味は軽いは軽いが、速射などには向いているかもしれない。

 時間があるときに練習してみることにしよう。


 その後は店員の言い値で支払ったため、若い店員は「またどうぞ」とエビス顔だ。

 まあ、暴利って訳でもないし、試射もさせてくれたからこんなもんだろう。


 なんか俺が試射とか連射とか言うと勘違いされそうだが、弓の話だぞ。

 誤解しないように。店員も警備員も男だからな。


 その後は市場で保存食……干し肉、堅焼きビスケット、乾燥フルーツ、ピクルス、ハードチーズなど数種類の保存食を買い込み、少しづつ携帯袋に入れる。


 今回は偵察だ。

 火は使えないために保存食となるが、食事に飽きないために種類を用意するのだ。


 これは味覚だけの問題じゃない。

 何日も山中に入るのだ。乾燥フルーツの甘味は気力を回復させるし、ピクルスは塩分の補給になる。

 準備は面倒だけど、このちょっとした差がベテランの技なのだ。

 干し肉だけでは気力が萎え、ストレスは集中力を鈍らせる。

 ちょっとした工夫が肝心だ。


 長期間の潜伏には甘味。これ。で、これにピクルス。これ最強。

 しかし、これをやると次からポンコツ森人にマークされる諸刃の剣。素人にはオススメできない。

 ま、7級くらいまでは乾燥豆でも食ってろってことですよ。


 なんだが懐かしいネタを思い出したが、通じる相手はいない。

 もう慣れたが、これはこれで寂しいものがある。




――――――




 宿にもどると、ベッドの上でシーツがまんじゅうのように真ん丸になっていた。

 シェイラがふてくされてシーツをかぶっているのだ。


「エステバン、シェイラを何とかしてやってよー」


 レーレがうんざりした声で助けを求めてくる。

 どうやらずっとシェイラの相手をしてくれていたらしい。


「シェイラ、俺はちょいと依頼で4日ほど空ける。その間に元気になっていてくれよ。食べ物はここに置くぞ」


 俺は保存食の残りを置き、レーレに「無理させなくていいぞ」と伝えた。


「ちょっと、ちょっと、シェイラ! これダメなやつだよ!? 1人で行かせるとエステバン死んじゃって帰ってこないパターンだよっ! 止めなきゃ!」

「え、エステバン死んじゃいやだ」


 まんじゅうから手が生えて俺のすそを掴む。

 なんかすごい縁起の悪いこと言われてる気がするんだが、気にしたら駄目だ。


「これは単独の依頼だから駄目だぞ……そういえば雑貨屋の向かいは仕立屋だったな。退屈だったらシェイラが仕事を受けてレーレが内職してもいいかもな」


 気晴らしにいつもと違う仕事をする――思いつきだが悪くない。

 レーレなら仕立屋の下職くらい簡単にこなしてしまうだろう。

 シェイラが服を見せて『自作です』と言えば半信半疑なりに仕事は回してもらえるはずだ。


「へー、面白そう。上手くいったら3人で仕立屋さんもできるんじゃない?」

「はは、悪くないな」


 俺は雑談をしながら手早く荷物をまとめる。

 煮炊きをしないから鍋やら調理器具は必要ないし、戦闘は極力避けるつもりだから斧は置いていく。


「じゃ、ちょいと行ってくるよ。シェイラの顔が見れないのは残念だけど」


 俺の言葉に反応し、シェイラがにゅっと首だけ出して何か言いたげな表情を見せた。


「ふてくされてるシェイラより、俺は元気なシェイラが好きだぞ」


 猫をあやすようにあごの下をくすぐると森人は「ふぐぐっ」と謎のうなり声を残し、シーツの中に戻っていった。


「やれやれ、重症だな」

「めんどくさい女だねー」


 俺とレーレは苦笑して肩をすくめた。

 さて、いつまでもシェイラのご機嫌とりをするわけにはいかない。


 俺は「まかせたぞ」とレーレに伝え、部屋を出た。




■■■■



エッチな本


書籍自体が貴重な世界にもちゃんとある。

だが、内容は詩的なものや、挿絵つきのおとぎ話みたいな内容が大半。

挿絵は微妙すぎて現代の日本人なら笑ってしまうようなレベルだが、それでも他のアダルトコンテンツがない世界では一部の好事家が買い支える程度には需要がある。

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