3 脇街道の偵察

 アレンタの町を出て、賢者の家に続く間道の調査を開始だ。


 賢者の家までは半日ほどの行程らしいが、盗賊が見張ってる道をのこのこ歩くわけにはいかない。

 なにしろ盗賊は衛兵隊が出張ればいち早く身を隠すのだ。常に警戒していると考えてよいだろう。


 パッと見では舗装こそされていないが、しっかりと突き固められ、馬車がすれ違える程度に道幅もある立派な道だ。

 衛兵は「間道」と表現したが、脇街道ともいえる道が盗賊に封鎖されているのだ。

 俺は改めて問題の大きさを察した。


 ……こりゃ、慎重にいかなきゃ怖いな。


 俺はベテラン衛兵から預かったごく簡素な地図を広げて探索の優先順位をつけていく。

 これはベテラン衛兵が手書きした稚拙なものだが、あるとないでは大違いだ。


 地形図などは軍事機密なので、ちゃんとしたものは冒険者の身では手に入らない。これはベテラン衛兵の破格の好意といえる。


 盗賊たちの襲撃ポイントは3ヶ所、全てを見張れる場所となれば自然と限られてくるだろう。


 ……となると1ヶ所か? いや、複数箇所で見張りをしている可能性も高いな。


 俺は可能性が低そうな場所も含めて4ヶ所の偵察を行うことにした。


 見張りを発見すればアジトの位置も絞れるはずだ。

 盗賊の素早い進退を考えれば見張りから合図を送れる場所で間違いないだろう。


「よし、目処めどは立ったな」


 俺は独り言を呟き、地図をしまう。


 脇街道からではなく、大回りで見張りポイントに近づき探る……言葉にすると簡単そうだが、下手に発見されては警戒が増し、衛兵隊に報告する前に盗賊たちは移動するかもしれない。

 こうなれば依頼は半ば失敗だ。

 見つからないように身を隠す必要があるだろう。


 アジトを見つけ出し、盗賊の規模を探る。戦闘は不要だ。

 無理は必要ないし、格好つける意味はない。


 ……よし、行くか!


 俺は脇街道を大きく逸れ、森の中に踏み込んでいった。




――――――




 半日ほど歩き太陽がすっかり沈む。森は闇だ。

 俺は目に魔力を込め、高台を目指して進む。


 夜目が利くようになる魔法は猫人ガティートの得意だが、人間に使い手は多くない。イメージがしづらいのだろう。

 だが、俺は暗視スコープや望遠鏡のイメージがあるために夜目や遠目の魔法が得意なのだ。


 魔法は魔力とイメージである。まあ、肝心の魔力が低いんだけどな。


 普段はモンスターのうろつく森で夜間行動などしないが、今回は偵察だ。

 近くまで来た見張りポイントを探るには都合がいい。


 ……人は、いないみたいだな。


 少し離れた場所から見張りポイントを探るが、どうも無人のようだ。

 しばらく待っても近づく人影はない。


 ……外れかな? なら地形の確認のために高台に登ってみるか。


 警戒のために探知魔法を広げると、周囲には小型モンスターがうじゃうじゃといる。

 冬の森は腹ペコだらけ、俺が襲われないのは単純に俺より小さなモンスターばかりだからだ。


 この森ではブーオと呼ばれる大型フクロウみたいなモンスターの脅威度が高い。だが、こいつはあまり人は襲わないのだ。

 まあ、あくまで『あまり襲わない』くらいで、他に獲物が無ければ襲ってくる場合もあるわけだが、まあ、それはいい。


 他の高台から見つからないように慎重に歩を進め、視界が開けた場所に出た。


 ……む、焚き火の跡があるな。古くないぞ。


 街道が良く見渡せる位置に焚き火の痕跡がある。

 特に隠そうとした感じではなく、また使用するのであろう印象を受けた。


 ……夜は火を使うと目立つから場所を移したのか?


 遠目を使い他の高台を観察したが、火を使っている様子はない。


 ……まあ、直接行って確かめるさ。


 この場所だって、盗賊の痕跡はあるのだ。

 何度も来て確認する必要があるだろう。


 俺は焚き火の灰をすくい、夜の闇に溶け込むように顔に擦り付けた。




――――――




 その後、2日かけて周辺の高台を張り込みした結果、少なくとも3ヶ所で盗賊は見張りをしているようだ。これは焚き火などの痕跡を残していることからもわかる。

 ローテーションなのか担当が決まっているのか、詳細はわからないが移動しながら脇街道の監視をしているらしい。


 途中、何度か盗賊と思わしき武装した二人組を見かけたが、遠くから観察するにとどめている。

 いま交戦して警戒を高められては困るからだ。


 観察したところ、盗賊は常に二人組。

 武装もリングメイル(粗悪な鎖帷子)に鉄兜、戦斧や戦鎚ハンマーなど見るからに厳めしい。

 明らかに訓練された武装勢力、恐らくは戦士団だ。


 戦士団とは領主お抱えの場合もあるが、大抵は傭兵団みたいなものだ。

 荒事を本職とするだけに一人一人の戦闘力は極めて高い。


 事情はしらないが魔族と戦争してるご時世である。

 こんなところで地方領主に雇われてるとなると、かなりヤバい案件だろう。

 恐らくは都市間の紛争だ。


 ……こいつは深入りせず、さっさと済ますが吉だな。


 幸い、盗賊のアジトの目星はつけた。


 彼らの進退の速さを考えれば、見張り場所から合図を受け取れる場所なのは間違いない。

 3ヶ所から合図をやり取りするアジトの位置は限られてくる。


 日が沈むのを待ち、目星をつけた場所を調査すると上手い具合に街道からは隠れた角度でアジトを建設していた。


 小さな洞穴を利用した倉庫(?)らしきものと簡単な木製の小屋が2つ。

 ご丁寧なことに小屋は立ち木を利用してカムフラージュまで施してある。


 これはキャンプなどではない。

 小なりとは言え、完全に基地だ。


 ……こいつはますますキナ臭くなってきたな……


 離れたところから4日目の朝まで観察し、ぼんやりと人数を把握して引き上げることにした。

 正確な数はわからないが、規模を把握すればよいのだ。


 できれば洞穴の側まで近づいて構造探知の魔法を使いたかったが、あまり無理はできない。


 俺は身を隠すことが得意ってわけじゃないし、見つかったら今までの苦労が台無しだ。

 彼らとやりあうのは衛兵隊に任せよう。


 俺は手書きの地図に14と書き込み、その場を離れることにした。




■■■■



戦士団


名誉と戦いを求め、さまざまな紛争で雇われる傭兵団。

たまに裕福な領主と専属契約を結んでいることもあるが、基本的にはフリーランス。

冒険者との違いは集団で契約し、もっぱら荒事のみを請け負うことである。

その戦闘力は極めて高く、戦意は旺盛。

若い頃のエステバンも何度かスカウトされたことがあるが、バトルジャンキー的なノリについていけず、断ったらしい。

ちなみに戦士団に組合はない。

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