4 エッチな練習

【シェイラ】



 一方、その頃。


「ねーねー、いつまでもいじけてないで仕立屋さん行こうよ」


 エステバンが出掛けたのち、退屈したレーレがシェイラに声をかけた。


 シーツにくるまったままのシェイラはその声に応えず、まんじゅうのようなシルエットがうごめくのみだ。


「もう、いい加減にしてよねっ。そんなんだからエステバンに置いてかれちゃうんだよ」


 この言葉を聞いたシェイラがシーツからニュっと顔だけ出し「うぐっ、やっぱり嫌われたかな?」とべそをかく。


「知らないよっ。エステバンは元気なシェイラが好きだって言ってたよ? メソメソしてたら浮気されちゃうかもね!」


 レーレもイラついてきており、その言葉はなかなか辛辣だ。


「うっ、うっ、やっぱり浮気されるんだ、ぶおーん、おん、おん」

「あー、もうっ、泣かないでよっ。ごめんね、エステバンは浮気なんかしないよ」


 シェイラにとってエステバンは理想の男性である。

 バカバカしい話だが、自分が側にいなければ他の女が放っておくはずがないと本気で信じているのだ。


「うぐっ、妻としての務めもできないし、ううっ、このままじゃ赤ちゃんも作れないし」

「あー、もー、めんどくさいなあ。子作りの練習くらい付き合ってあげるから仕立屋さん行こうよー!」


 レーレがズボッとシーツに潜りこみ、シェイラが「ひぐっ!」と小さく呻いた。


「ちょ、ちょ、や、レーレやめて、ズボンに入ってこないでくれっ」

「やーだよー、ここを、こうするんだよっ!」


 シェイラが「ぎゃー、やめてっ!」と騒ぎ、レーレが「うりうり、ここがええのか」と調子に乗る。


 何だかんだでシェイラはシーツから追い出され、渋々ながら外出することになった。

 レーレの作戦勝ちだ。


 しかし、幼さの残るシェイラからは思ったような反応が得られず、小人責めが不発に終わったレーレは不服そうに唇を尖らせた。


 この後、仕立屋でもひと悶着もんちゃくあったようだが、なんとか針子の仕事が貰えたらしい。

 仕立屋は職人、レーレの仕事を見せたら納得してくれたのだ。




――――――




 その翌日



「へえっ! たったの1日でこれをやっちまったのかい? あんた1人で」


 仕立屋の店員が驚きの声をあげ、心底感心したといった風情でまじまじとシェイラを見つめる。


 昨日、しどろもどろになりながらもレーレが仕立てた服を見せ、僅かばかりの針子の仕事を貰った時とは明らかに反応が違う。


 レーレの仕事が認められたのだ。

 友達が褒められれば自分も嬉しい。

 喜びのあまり、シェイラはちょこちょこと不思議な動きをしてしまうが、店員は「仕事も丁寧だ」と食い入るようにレーレの仕事を見ており、彼女の奇行は気づかれなかったようだ。


「ちょっと待っててくれよ、親方に何か仕事があるか聞いてこよう。しばらく町にいるんだろ?」


 店員は少し慌てた様子で奥の工房に入っていき、いくつか反物たんものを持ってきた。


「この生地は安いが丈夫なやつでな。男物で肩かけの外套コートを仕立てたいと思うんだが――やるかい?」


 店員の問いかけに反応し、レーレがポケットの中から『OK』の合図を送る。

 それを受けたシェイラが「できます」と頼りなげに答えた。


「だろうな、あの仕事は並みじゃねえ。みっちりと修行を積んだ本物だ、腕は心配してねえよ。デザインはまかせるから、適当にボタンや装飾は持っていってくれ。急ぎじゃないから旅に出るまでに仕立ててくれりゃいい」

「わかりました。あの、すぐにできますから」


 肩かけの外套は基本的にはフリーサイズだ。

 親方からの「お手並み拝見」というメッセージでもあるが、当然シェイラにはわからない。


 店員から色々と受け取ったシェイラはすぐさま宿に帰り、レーレに言われるままに布を広げていく。


「レーレはすごいな。一回仕事を見せただけなのにな」

「へっへー、小人の仕立ては一流だからね!」


 退屈な内職であっても二人でやればすぐにおしゃべりの花が咲く。二人は本当に仲が良いのだ。

 いつの間にかシェイラのご機嫌も元通りである。


「ボクが仕事をしてる間は退屈でしょ? エステバンとできるようにエッチなことの練習しなよ」

「れ、れ、練習なんてダメだっ! え、エッチなことはいけないことなんだぞっ!」


 シェイラがわたわたとするが、レーレはどこを吹く風である。


「なんでー? 弓でも練習してから狩りに出るんでしょ? みんなエッチなことも練習するんだよ?」


 このレーレの何気ない一言にシェイラは衝撃をうけた。

 エッチなことを練習するなんて考えたこともない。


「本当か? エッチなこと練習してないからできなかったのか?」

「そうだよー、エステバンは優しいけど先が太いし、長いし、慣れてないと痛いだろうねー」


 いつの間にかシェイラはその気になり「どうやって練習するんだ? 痛くないのか?」と興味しんしんである。


「いいよ、教えてあげる。まずズボン脱いでよ」

「は、恥ずかしいな……」


 リリパットは気まぐれでいたずら好きだ。

 こうして下らない嘘をついては無邪気に人を騙すことも多い。


 レーレに限らず、彼らは非常に享楽的で『いまが楽しかったらいいや』という思考である。

 嘘がバレたときのことなど考えもしない。


 小人はニタリと邪悪な笑みを見せた。


「ひゃ、な、なんか変だぞっ」

「大丈夫だよー、任せて任せて」


 こうしてエステバンの知らぬ間にシェイラは開発――もとい性教育を施されていく。


 翌日に外套をもち、仕立屋にあらわれたシェイラに「一晩で出来たのか!?」と店員が驚きの声を上げるのだが、それはまた別の話だ。




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エッチな練習


性におおらかなアイマール王国では当たり前だが練習などしない。庶民であれば男女ともに初体験は適当に済ますことが大半。

そもそもアダルトビデオや成人誌などもないので実地で腕を磨くしかない現実もある。

当然、男女の感情のもつれからくるトラブルも多いが、皆が慣れているので大抵はなんとなく解決する。

一例として、農村では複数の男性と関係を持った女性が、妊娠後に『父親を指名』し、男性も異論を挟まないことが暗黙のルールとして存在するようだ。

シェイラをみるに森人エルフは人間よりも身持ちがやや固いようだが、それもレーレに崩されつつある。

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