14話 その名はせいけんエステバン
1 久しぶりの単独行
数日後
俺はアヌスと酒場で会っていた。あずかっていた剣を返すためだ。
なぜか先日のベテラン衛兵も一緒だが、気にしてはいけない。
なぜか並んで座るカップル座りで互いにケツを抱き合っているが、気にしてはいけない。
世の中は『なぜか』であふれてやがるぜ。
ちなみにこの席にシェイラとレーレはいない。
シェイラは先日の同衾以来落ち込んで宿に引きこもっており、レーレはそれを心配して付き添っているのだ。
失敗ったって体のサイズの問題なのだから、徐々に慣らすか、成長を待つしかないのだが――リトライをしないのは俺が萎えたのも理由の1つである。
「ああ、星の剣……やっと返って来た」
アヌスは頬ずりせんばかりに剣を眺めて喜んでいる。大切な物だったのだろう。
「良かったな。お前が喜ぶ姿が見れてよかったよ」
「……アニキ」
二人が見つめあっているが気にしてはいけない。
恐らくは森人と人間、数日間の交流の成果なのだろう。
「それじゃ、俺は帰るよ」
俺は男どもに声をかけ、席を立とうとするが、ベテラン衛兵から「ちょっと待ってくれ」と声をかけられる。
何か用があるらしい。
衛兵が俺の目の前で乳繰りあうためについて来たわけではないと知り、少しホッとした。
「エステバンさん、すまんが依頼していいだろうか」
ベテラン衛兵が俺を引き留め真面目な顔をするが……右手をアヌスの胸元に突っ込んでるのは気にしてはいけない。
色々な種族や宗教が存在し、それなりに共存しているこの世界では同性愛に対しておおむね寛容である。
だから俺も同性愛については別になんとも思わない。
そこはいいのだが……公衆の面前でニヤニヤしながら過度なボディタッチを繰り広げる男たちの仲間だと思われるのはちょっと嫌だな。
「……依頼ですか?」
仕事は仕事である。俺は色々と我慢することにして席に着いた。
「すまんな、新年早々に」
俺の気持ちを察したか、ベテラン衛兵が気を使ってくれるが、おしい。そこじゃない。
「実はな、盗賊がでるんだ」
「盗賊退治ですか?」
少し違和感のある内容に、つい聞き返してしまった。
治安維持は衛兵の仕事だ。当然だが、盗賊退治もそこに含まれる。
レーレの件(4話)で盗賊退治したのは仇討ちだ。ちょっと事情が違う。
「いや違うんだ。この町から半日ほど大人の足で間道を進んだ場所に賢者が住んでいるのだが、その間道に盗賊が現れてな」
ベテラン衛兵の言葉は
「ああ、賢者だ。まあ、それはさておき、当然だが衛兵も出張ったが盗賊は土地勘のあるやつららしくてな、衛兵が行くと巧みに隠れちまうんだ」
話が見えてきた。囮を兼ねた偵察だろう。
冒険者を使い捨てにするのはわりとある作戦だ。
「大人数では逃げられる、かといって生半可なのが1人じゃ盗賊の餌食になるのがオチでね、ここは単独行動に長けた者に偵察を頼みたい」
ベテラン衛兵は微妙な言い回しをした。『単独行動に長けた者』とわざわざ口にするとは俺のことを調べたらしい。
ちなみに衛兵隊なら冒険者ギルドに情報提示を求めることも『ある程度は』可能だ。これは冒険者が犯罪に関与するパターンも多いので仕方がない部分もある。
……ま、シェイラがアレだし、久々の
俺は頷き「条件を教えて下さい」と尋ねる。
条件とは報酬や作戦の目標、もろもろの協力なども含まれる。
ギルドを通さない依頼こそしっかりと話をする必要があるのだ。
「先払いで手付け。あとは成果報酬だ。盗賊団の規模、武装、隠れ家、その他の有力な情報。もちろん退治してくれても構わない」
ベテラン衛兵の話に特に変なところはない。
「わかりました。周辺の地形、今までに確認できた人数、過去の襲撃ポイントを教えてもらえますか?」
俺の言葉を聞いた衛兵は待ってましたとばかりに手書きらしき雑な地図を取り出して説明を始める。
どうやら用意していたらしいが俺が引き受けることは折り込みずみらしい。食えない親父だ。
説明をする衛兵の股間をアヌスが怪しく揉んでいるが、そこは気にしてはいけない。
しかし、荒い息づかいが実に耳障りだ。
その後もアヌスはなるべく視界に入れないようにしつつ何点か意見を交換し、依頼は引き受けることにした。
「それでは報告は4日後までに頼む」
「承知しました――それとあと一点よろしいですか?」
俺は賢者とやらの情報も尋ねることにした。
場合によっては盗賊に追われて賢者の家に避難するかもしれないし、最悪の場合盗賊団に関与している可能性もある。
気になる点は全て確認するのが無難だ。
「賢者はな、良くわからんが先々代の領主に仕えた大学者らしい。全てを知るらしいが、あまり町には来ないから俺にはわからんね」
「全てを知る、ですか……」
なかなか興味深い話だ。
俺は成果報酬に「賢者への紹介」も追加で頼むことにした。
全てを知る賢者ならば質問したいことは山ほどある。
ベテラン衛兵は少し不思議そうな顔をしたが「ま、大丈夫だろ」と請け負ってくれた。
「それじゃ、よろしく頼むよ」
「ええ、4日後のこの時間までに衛兵隊の兵舎を訪ねますよ」
俺たちは握手をし、別れることにした。
ベテラン衛兵とアヌスが「なんで、あの人とばかり」みたいな痴話喧嘩を始めたが気にしてはいけない。
久しぶりの
■■■■
同性愛
エステバンも言及しているように、さまざまな種族や宗教が共存するアイマール王国では、ごく一部の地域や部族を除き寛容である。
ただ、基本的には子孫を残すことは重視されるために『同性愛オンリー』だと変わり者扱いを受けることも多いようだ。
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