12話 不思議発見! リリパット驚異の生態

1 旅のトラブル

 冬だ。

 アイマール王国では雪が積もることは稀、旅に支障はない。

 俺たちはサルガドの町を離れ、北を目指して歩いていた。


 ……だが、寒いことは寒いよな。


 鼻で息をすると奥がツンとするような冷えを感じる。


「まあ、冬将軍ってほどでもないし、我慢だな」

「冬将軍って何だ?」


 俺の呟きに隣のシェイラが反応した。

 思考が漏れていたらしい。独り言は俺の悪い癖だ。


「あー、冬将軍ってのは冬の擬人化だ、わかるか擬人化?」

「うん、学問の話だな!」


 彼女は無邪気に笑い「エステバンは頭がいいんだっ!」と腕に抱きついてきた。


「こらこら、ぶら下がるな」


 俺が軽く引き剥がすと、シェイラは嬉しげにぶーぶー言っている。甘えているのだ。

 彼女は先日の別行動以来、常にこの調子でベタベタしたがる。

 まあ、害はないのだが、さすがに森人エルフをぶら下げて旅をするのは御免だ。


「シェイラ、退屈なら話をしようか。何の話がいい?」

「あ、エステバンの恋ばな? 興味あるかもっ」


 寒いからとシェイラのポケットに隠れていたレーレも顔を出してきた。

 最近、レーレはポケットに籠りがちだが、寒さに弱いのかもしれない。


「そんなのやだっ! エステバンのカッコいい話を聞くんだ!」

「えー、恋ばながいいよ」


 ぎゃあぎゃあ騒がしいが、シェイラとレーレは実に仲が良い。


 考えてみれば、俺は今までこんな旅はしたことがなかった。

 日本人の忙しない観光旅行でもなく、冒険者の旅でもなく、まさに物見遊山だ。


 歩きの旅路は退屈なものだが、彼女らのお陰で賑やかに過ごせるのはありがたい。


「そう言えば、レーレは小さいし寒いのは苦手だったりするのか?」

「んー? ううん、そんなこと無いけど……ちょっと風邪ひいたかも?」


 レーレは自分の頬をムニッと両手で持ち上げて熱を測っている。

 これは余談だが、アイマール王国では熱を測るときは首筋に手を添えるためにこのジェスチャーになるのだ。


「おいおい、大丈夫か……その頬っぺた洒落になってないぞ。太ったのか?」


 女の子が頬を持ち上げる仕草はかわいらしいが、ちょっと肉のボリューム感がすごい。


「あ、ヒドーイ! エステバンはデリカシーがないよっ!」

「たしかに最近のレーレは食べ過ぎだぞ。この前も……」


 レーレは「もうっ! シェイラまでひどいっ!」とむくれてポケットに潜り込んでフラップまで閉じてしまった。


 いつもの他愛のないやりとり。

 多少、ケンカをしてもすぐに仲直り――この時は俺もシェイラもそう考えていた。




――――――




 夕方、夜営。



 冬になっても俺たちの役割分担は変わらない。

 俺が火起こしと調理を担当し、シェイラが食料の確保である。


 もちろん携帯食はあるが、旅にトラブルはつきものだ。

 悪天候やケガ、体調不良などで移動できなくなることはザラである。

 食料は節約するに越したことはない。


 俺はシェイラが獲ってきたウサギを雑に捌き、鍋に放り込む。

 沸騰したらアクを捨て塩で味をつけたのち、カッチカチになったパンを放り込み完成だ。

 夏ならば生えてる香草も突っ込むが、冬はなかなかそうはいかない。


 特別旨いものでもないが、冬の夜営に温かい鍋はご馳走である。


 俺が「できたぞ」と伝えるや、ウサギの生皮からチマチマと肉を小削いでいたシェイラが「わあっ」と声を出す。


「レーレ、ご飯だぞ! 早く出て来てくれ。一緒に食べよう?」


 シェイラがフラップの閉じたままのポケットに声をかけるが様子がどうもおかしい。


「どうしたんだ? まだご機嫌ななめなのか?」

「エステバン、何かおかしいぞ。レーレが何も言わないんだ」


 シェイラがポケットのフラップを開け、不安げな声を出す。

 拗ねているならフラップを開けた時点で抗議の声が上がるはず――俺は急いでレーレをつまみ上げ、手の平で抱えた。燃えるように熱い、明らかにただ事ではない。


「すごい熱だ、これはマズイぞ!」


 リリパットの生態は知られていないが、異常な高熱が体に良いわけはない。


「エステバン、どうしようっ! レーレが死んじゃうよ!」


 シェイラはすでにべそをかいているが無理もない。

 医療の未熟なアイマール王国では風邪や発熱は十分命取りになるのだ。


 ……せめて回復魔法があれば。


「レーレを治癒士に診せるかどうかは判断が難しいが……とにかく近くの村にでも向かおう。夜通し歩くぞ、飯を食え」


 俺は無理やりシェイラを座らせ、鍋を食べさせた。

 馴染みのない土地での夜行、これに耐える体力をつけるには食うしかない。


 俺はレーレをポケットにそっと戻し、鍋をすすった。




■■■■



病気


アイマール王国では回復魔法があるだけに医学は極めて未熟。

一般的には治癒士と呼ばれる回復魔法の専門家が医者の役割を果たしている。

腕のよい回復魔法の使い手は限られており、受診料は高額。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます