3 謎の助っ人
2日後、未明。
肌を刺す冬の寒さを感じながら、俺たちは目的の遺跡に向かっていた。
遺跡まで一応の道はあるが、荒れている。
もともと人の往来がすくなかったところを数ヶ月放置されたためだろう。背の高い枯れ草に阻まれ視界が確保できない。
「エステバン、この辺じゃない?」
「そうだな。少し高いところに……」
偵察のために俺のヘルメットに乗ったレーレと会話をしつつ、道を進む。
『そのまま進むと遠回りになるぞ』
どこからともなく、声が聞こえた。
俺は担いでいた斧を地面におろし、剣を抜く。
『いい判断だ。不意打ちに備えるなら剣だろうな』
また、声が聞こえた。
男とも女とも、若者とも老人だとも判断のつかない声だ。
遠くから聞こえる気もするし、すぐ側から聞こえる気もする……恐らくは魔法だろう。
声を探り、周囲を警戒する。
後ろでシェイラが短弓に矢をつがえる音が聞こえた。
俺は息を整えつつレーダーのように魔力を広げ、気配を探る――気配探知の魔法だ。
だが、声の主の気配はない。こうなればシェイラを庇えるように身構え、八方からの攻撃に対応するしかない。
『やるな、かなりの手練れだ。戦士と思ったが斥候か?』
また、声が聞こえた。
俺のレーダーが僅かに反応する。
……そこかっ!!
俺は無言で枯れ草の中に剣を投げつけた。
投げた剣は狙いを
俺は軽く舌打ちし、斧を拾い上げる。
「そこまでだ、お見事!」
剣を投げた先から男の声が聞こえた。
もはや戦う意思は無いのだろう。俺の剣を持つ腕を頭より高く上げ、ガサガサと音をたてながら男が姿を現した。
「私の
俺は油断なく、姿を見せた男を観察する。
第一印象は焦げ茶色の髪をオールバック風に整えた紳士。口髭がダンディだ。
年のころは俺よりやや上……30代の半ばから後半だろう。
猫科の動物を思わせるしなやな挙動は凄腕のそれである。
そして、男は……全裸であった。
「イヤアアアッ!! へ、変態だーっ!!」
シェイラがいきなり叫び、男に矢を放つ。
しかし、男は体を僅かに傾け矢を躱わした。
……できる!
至近距離からの矢を躱わすなど並々ならぬことである。俺は男の身のこなしに戦慄した。
「やめろシェイラ、彼は忍者だ」
「に、に、忍者は良いけどっ! ち、ちんちん丸出しじゃないかっ、変態だっ!」
シェイラはソッポを向きながら抗議を上げるが、それは理不尽である。
忍者の特徴とは、動作の枷となる全ての防具を排し、超人的な素早さを武器とするスタイルにある。
軽装であることが忍者の最大の特徴なのだ。
「ふふ、忍者をご存じか、私は1等冒険者ドアーティ。煙のドアーティとよばれることもある。腕を試すような真似をして悪かった」
「煙のドアーティ……これは大物ですね。こちらはチーム松ぼっくり、私は3等冒険者エステバン。こちらがシェイラで、このちっこいのがレーレです」
もうレーレは見られている。
今さら隠すことはできないし、変に取り繕うより堂々とすべきだと判断した。
レーレは人懐こく「よろしくー」と挨拶を交わしたが、シェイラは初対面のドアーティを警戒しているようだ。初対面の冒険者を警戒するのは間違った判断でもないだろう。
ドアーティは「ほう、リリパットか」と呟きながら認識標(タグ)を見せてくれた。どうやら尻に挟んでいたらしい。
「え、エステバン、忍者はいいけど、ずっと、その、ちんちん出してるなんて、こいつ変態だっ!」
シェイラはまだごちゃごちゃ言っている。
忍者は裸。当たり前の事になぜ拘るのだろうか。
しかし、ドアーティは「ご心配なく」とどこからともなくマントを取り出し、全身を隠した。
「町に入るときはこうするのですよ、お嬢さん」
シェイラの狼狽えぶりとは対照的に、ドアーティは余裕の表情である。
「申し訳ない、ドアーティさん」
「いや、忍者を知らない冒険者は同じような反応さ」
ドアーティは「矢を射られたのは初めての経験だがね」と軽く笑い、茶目っ気を見せながら片目をつぶる。
全裸でありながらもダンディ。惚れてまうやろ。
「エステバンさん、私は数日前より神殿の周りを偵察してきたが……この依頼、容易ではない」
煙のドアーティと言えば伝説的な冒険者だ。
その彼をして容易ではない依頼……俺の喉は無意識にゴクリと鳴った。
「ねーねー、ドアーティさんって渋くて素敵じゃない?」
「ち、ちんちん出してる人は駄目な人だっ!」
いつの間にか、シェイラのもとへと移動していたレーレがのんきな会話をしていた。
■■■■
忍者
これはいわゆるスパイとしての忍者ではなく『忍者』という戦闘スタイルのことである。
その極限まで素早さを追及するスタイルは、動作を妨げないために軽装を好む傾向にあり『全裸』へと行き着く者も多い。そうした者たちは畏敬の念を込めて裸忍者と呼ばれる。
忍者は侍と共に東のマルチェロ王国に多く、アイマール王国内では珍しい。
未熟な忍者の中には顔を隠す頭巾を装備するものも多いが、それは羞恥心ゆえである。
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