3 完敗
2日ほど、シェイラと採取や猟などで日銭を稼ぎ今日は3日目。
俺たちは今日から試しに2手に別れて仕事をしてみる事にした。
俺が稼ぎのいい仕事をしつつ、シェイラに経験を積ませる作戦である。
狩猟ならばシェイラは1人でこなせるだろうし、正直に言えば俺たちは宿や食事を切り詰めないので低ランク向けの依頼を2人でこなしても、その日暮しで貯蓄ができないのだ。
特に、冒険者に必要な旅の道具を少しずつ集めている今は赤字である。
シェイラやレーレはあまり理解していないが、9等の冒険者が個室で泊まり、3食に事欠かないなど分不相応な話なのだ。
金が無いと嘆くのが間違っているかもしれない。
……端から見たら若い娘に貢ぐオッサンにしか見えんよなあ。
俺は30才になった。十代半ば程に見えるシェイラと並ぶと犯罪的な雰囲気があるに違いない。
それはそれで構わないが、ロリコンと思われるのは
俺は高めでも全然いけるタイプなのにロリコン扱いされては熟女が寄り付かなくなる……実に勿体ない話だ。俺は50才くらいまでなら守備範囲なのに。
まあ、それはさておき――大半の冒険者が貯蓄などは無く、廃業と同時に乞食や犯罪者になる者も珍しくないわけで、貯金がないからとてシェイラが特別に金銭感覚が狂っているわけではない。ちょっぴり贅沢をさせ過ぎてしまっただけではある。
「気を付けてな。知らない人についていったらダメだぞ」
「うん、大丈夫だ」
シェイラは自信満々に頷くが、元々彼女は狩人だ。そう心配することも無いだろう。
「レーレ、シェイラを助けてやってくれよ」
俺がシェイラの胸ポケットに小声で話し掛けると、ピョコンと腕が飛び出した。恐らく大丈夫だという意味だと思う。
「じゃ、気を付けてな」
俺はシェイラとレーレを送り出し、稼ぎの良さそうな依頼を探す。
とは言え、世の中に儲け話など都合良く有るはずもなく「下水道掃除」「賭場の用心棒」など危険なわりに中途半端な報酬の依頼ばかりが並んでいた。
「感心せんね、お嬢ちゃんを放ったらかして、色町通いかい?」
用心棒の依頼書を眺めていると、
「金が要るんだ。怖いのから逃げるために装備を捨てちまって、このままじゃ旅が続けられないのさ」
俺が正直に答えると、支配人は「ふむ」と考え込んだ。何か良い依頼の心当たりでもあるのかも知れない。
「赤目蛇からも事情は聞いてるよ。魔貴族が来てたらしいね」
「まあ、なんとか見逃してもらえたみたいだな」
支配人は俺の言葉に頷きながら「これはどうだ?」と数枚の依頼書を差し出した。
……どれどれ『宝石店の警備兼雑務』と『サキュバス討伐』か。
俺は「ふむ」と依頼書を睨んで宝石商の依頼を手に取った。1日250ダカット、かなりの高額報酬である。
「これの日当がやけに良いが何かあるのか?」
美味しい話は怪しい話、さすがにホイホイと引き受ける訳にはいかない。
俺の質問を受けて、犬人の支配人は「どれどれ」と手元の資料を探し始めた。
「これはな、宝石商の警備と雑務……まあ雑務ってのは在庫整理か何かだね、算術ができる者とある。あと宝石商の要望で『目立つ武装不可』とある」
「おいおい、商家の手伝いなら商業ギルドだろ? しかも警備で武装不可って矛盾してないか?」
俺はよく分からない内容に苦笑してしまう。
ちなみにこの世界では計算が出来るものは稀だ。
特に冒険者になるような者が受けた教育レベルは低く、大抵は指を使いながら
シェイラも『串焼き3本で12ダカット、大サービスで5本なら22ダカットだ!』とか言われて騙されてる事が多い。
その点、俺は計算は得意だ。
冗談抜きで日本の教育って凄いレベルである。高卒の俺でもアイマール王国じゃインテリなのだ。
俺の冒険者手帳にも算術が得意だと記載されており、支配人はそれを見て勧めてきたのだろう。
「商業ギルドに頼めないのは、ここの店員がサキュバスの被害に遭ったからだ。商業ギルドじゃ希望者が集まらないらしい。武装は……まあ、高級品を扱う店だからな。店の雰囲気とかもあるんだろうよ」
支配人がやや言い辛そうに『サキュバス被害の影響』を口にした。
どうやら被害は拡大しているようだ。
……サキュバスが出てきたら素手で戦えるかな?
俺は色々と考えるが、サキュバスは色仕掛けで男性をたぶらかし
戦闘力自体は大したこと無い。色仕掛けに惑わされなければ問題無いはずだ。
俺は
自制心はある方だ。
「サキュバスか。武装がダメって言われてもナイフくらいは良いんだろ?」
「まあな、引き受けてくれるか」
支配人は嬉しそうに受注の手続きを始めた。
俺は内心で『サキュバスが出てきたら退治してやる』くらいの気持ちで宿に引き返した。
剣と上着を外してから宝石店に向かうのだ。
サキュバス討伐には結構な報酬がついていた。狙うのも悪くない。
俺は注意深く周囲を警戒して宝石店に向かった。
――――――
宝石商は上流階級が住む地域の端に、目立たぬように建っていた。
石造りの店は品が良く、武装した冒険者に出入りして欲しくないのも頷ける。
店主は地味な初老の男で、俺の姿を見て少し驚いていたが、算術ができるのを見せたら納得したようだ。
まあ、
この店主は中肉中背、白髪混じりの地味な風貌だが、仕立ての良い服を着ているためにそれなりに立派に見える。
商人らしく人当たりの良い男だ。
「いや、エステバンさんは仕事が早い。見るからに強そうだし、これは良い人に来てもらった」
夕方にはすっかりと店主に気に入られ、このまま就職しないかと薦められたほどだ。
「エステバンさんには商業ギルドで人が決まるまで、毎日来てもらいたいのですが。なあ、お前もそう思うだろう?」
店主はニコニコと奥さんに声をかける。
「ふふ、そうね。エステバンさんみたいな方なら安心だわ」
奥さんがふっくらとした唇を動かし、鈴の音のような声を出す。
それだけで、俺は脳が痺れたように思考停止してしまう。
この奥さん、メチャクチャ色っぽいのだ。
年のころは30代半ばくらい。清楚な服で体のラインを隠しているが、その豊かな胸の大きさは隠しようもない。
また、茶色い髪をサイドアップにまとめ、うなじを見せているのが憎いほど似合っている。
実にコケティッシュと言うか……隣に立たれたら誘ってるのかと勘違いしそうだ。
押し倒したくなるほどにフェロモン全開、彼女が視界に入るだけで俺は前屈みである。
子供の姿は見えないが、子宝には恵まれていないのかもしれない。
「エステバンさん、今日はここまでで良いですよ。これから商業ギルドで人と会う予定でしてね」
店主がそう告げ「報酬は冒険者ギルドで受けとるようにしています」と依頼完了の書類にサインをした。
すると、奥さんが不安げに「心細いわ」と呟いた。
「最近は物騒だし、1人で留守番なんて……」
「それもそうだね。エステバンさん、申し訳ないが、あと少しだけお願いできますか?」
店主も奥さんには弱いらしい。
俺がキメ顔で「もちろんです」と答えたのは言うまでもない。
店主は満足げな顔で出掛けていった。
店内には俺と奥さんの2人きりが残る。
密室に奥さんの芳しい体臭が充満している気がした。
狭い店内に2人きり――ただ、それだけの事実で俺の股間に血が集中していくのが分かる。
「エステバンさん、お店も閉まってますし、お茶でも淹れますわ。座っていて下さいな」
「あ、おかまいなく」
奥さんは可愛らしくパタパタと足音を立てて店舗の奥に消えた。恐らく生活スペースになっているのだろう。
……はあ、俺もあんな色っぽい奥さんと結婚してえ。
俺が奥さんとの生活を妄想し、ニタニタと笑っているとパタパタと足音を立てながら奥さんが戻ってきた。
変な足音がするのはサンダルのサイズが合っていないのだろう。旦那さんのを履いているのかも知れない。
俺が奥さんの足元に注目していると、彼女は小さく「あっ」と叫んでお茶を溢してしまった。
少しだけ俺のズボンにもお茶がかかる。
「ごめんなさいっ、すぐに拭かないと」
奥さんが俺の足元に
「いいんです。お若いんですから……火傷をしてしまうから脱いでください」
俺は奥さんに促されるままズボンを脱ぎ捨てた。
頭がぼーっとして何も考えられない。
色っぽく「ご立派なのね」と呟き、彼女は妖艶に笑った。
彼女の口が、舌が淫らに動き、俺を翻弄する。
そして俺の後ろへ彼女の指先が伸び――俺は小さく悲鳴を上げ、彼女を受け入れた。
その指先が妖しく動き俺の中の『何か』をつまみ上げる。
途端に思考が真っ白になり、視界がぐにゃりと歪んだ。
「まあ、素晴らしい輝きね。色が混ざってるなんて初めてだわ」
「上手く行ったみたいだね」
奥さんの嬉しげな声が聞こえる。
もう1人、誰かいるようだが店主だろうか? もう何も考えることができない。
「こんなに自制心が無いやつも珍しいわね。スルッと捕れたわ」
奥さんが冷ややかに吐き捨てた。それだけでゾクゾクする色気を感じる。
『もっと罵ってください』
この思考を最後に、俺の意識は薄れていった。
■■■■■■
サキュバス
美しい女性に化けるモンスター。淫魔ともいう。
男の心を捕らえるため、その人にとって『もっとも魅力的な姿』となって現れるとされる。
つまり、今回のサキュバスは『最もエステバン好みの女性』である可能性が高い。意外と年増好みのようだ。
しかし正体は醜悪な姿をしており、魅力的な美女に見えるのは一種の集団催眠術である。 もちろん女性には魅了の効果はないが、姿は人間に見える。
サキュバスは男性をたぶらかし魔力結晶である尻子玉を奪うが、これは彼女らのコレクションのようなもので、アクセサリーに加工し身につけるらしい。尻子玉は被害者の尻に戻せば元に戻るようだ。
女性を狙う男性型の淫魔はインキュバスと呼ばれる。
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