結婚

平沢哉太

結婚

 僕には姪がいる。これがまたとんでもなく可愛い。20離れているんだけど、僕のことをお兄ちゃんって呼んできて妹が出来たみたいだ。兄夫婦に姪以外には子供はいないし、兄嫁には兄弟がいない。僕はというと、この歳で彼女もいない。昔はそこそこ色んな子と付き合ってたけど結婚を考える年齢になって、急に冷めた。そんなこんなで毎年姪の誕生日には兄夫婦と双方の両親と僕で集まってる。

 ---おにいちゃんと結婚する!

 今年は何を頑張るのかなって聞いたらこんなことを言い出したもんだから可愛い。大きくなったらしようね、なんて子供の約束をするのも愛しい。


 季節が巡って秋になった。仕事が順調で波に乗ってたもんで、兄夫婦に会うこともなかなかなかった。そんな頃に僕はある女性と出会った。これは僕の一目惚れで、冷めてたものが急に息を吹き返した。繊細なガラス細工のような、そっと慎重に扱わなければならないとまで思わせる美しさを持っていた。すぐに交際を始めて、冬になる頃には僕らの左の薬指にはお揃いのシルバーのアクセサリーが輝いてた。


 姪が5歳の誕生日を迎えた。去年の秋から全く会っていなかったけれど子供はこんなに成長するものなのか。久々にあった兄夫婦や両親には僕の薬指ついて質問攻めをくらった。誰にも言わず籍を入れてたので仕方ない。彼女はどうしても抜けられない仕事でここにはいない、というのは幸いだ。質問攻めは可愛そうだ。

 ---おにいちゃんと幸せなかていをもつの!

 愛らしい。今年も頑張ろうね、なんて言ってその場はお開きになった。


 幾年が過ぎて僕はもう42だ。彼女は相変わらず綺麗で繊細で愛しい。腹部には豊かな曲線が描かれており、これは僕らの念願の夢だ。

 姪の5歳の誕生日の後、僕の転勤が決まり、それ以来姪とは会っていない。両その姪の20の誕生日、今日、久々に皆で誕生日を祝うことになった。彼女をまだ紹介できていない。18年も兄夫婦もそうだか、何より両親に合わせていないのは自分でも不思議でならない。ともかく今日は初対面だ。用事済ませてから行くね、と言って彼女は先に家を出た。本当に可愛らしい。

 久々の姪との対面はいささか緊張を放っている。インターホン越しに聞こえる、はーいという可愛らしい声。18年聞き続けた声だ。


 おにいちゃん、久しぶり


 お腹に手を当てながら彼女は笑顔を浮かべそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

結婚 平沢哉太 @shima-aki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ