第6話 ヤバい監督登場の巻

 部室で全員集まっているところに、空山が一人の、初老の男を連れてきた。撫でつけた白髪、整った白い髭。背広をきちんと着ている。空山が全員に紹介した。


「やはり、いい野球をするにはいい監督が必要と見た。そんなわけで、監督を務めていただく博多さんだ」


 博多と呼ばれた男、軽く礼をした。


「ドン・ターク博多です」

「え? 博多どんたく?」


 そう言った紺野に、博多は指を突きつけた。


「違うっ! お祭りと一緒にするなっ!」


 結構ドスのきいた声なので、紺野は頭を掻いて黙ってしまう。


「えー、とにかく私は、こちらの新吾ぼっちゃんより要請をいただき、こちらに馳せ参じた次第である」

「ぼっちゃんはよせよ……」


 空山がきまり悪そうにつぶやく。


「私もまた野球少年であった。諸君も見たところ……」


 そのまましばらく何も言わないので、空山がふと見ると、博多は顔を紅葉させ、二階堂を見つめていた。


「博多さん……」

「あ、あ、あの美少年は誰だ? タジオか?」


 鼻息も何やら荒くなってきている。


「タジオじゃありません二階堂という部員です」


 空山がそう言うと、博多の鼻息がますます荒くなった。


「フフ、フフ、フンフン、タギってきた……」

「タギらんって約束したでしょ!」

「タギっちゃったもんはしかたがない」


 そう言って二階堂の方に近づいた。


「ききき君っ、私とぜひタギール共和国を建国しようではないか」

「は、はい?」


 二階堂は何のことか分からない。空山が怒鳴った。


「その話もなしです! 野球を教えて下さい! 父に言いつけますよ!」

「い、や、そそそりゃ困るであるぞ」


 そう言ってあわてて元の場所に戻った。


「えー、聞けば諸君は毎日部室でだらだらしとるようで、それで恵伝学園に勝とうなど笑止千万不可能千万。まずは基礎体力をつけることから始めるぞ。さあモノドモ着替えよ! 河川敷で走るぞ!」


 有無を言わさない勢いなので、全員渋々着替え始める。



 河川敷は広いので、走るには定番の場所だ。博多が説明をする。


「ちと遠いがあそこに橋が見えるな。あそこまで走って戻ってくる。二人組になって競争じゃ!」

「はいっ!」


 元気よく返事をしたのは鳥居と尾大だけだった。残りの部員は空山を含め、かったるそうに下など向いている。顔をしかめた博多の視線は真っ先に空山に行く。


「おい、ぼっちゃん」

「はい、なんです?」

「まず、ぼっちゃんがやる気を見せねば」

「あー、ちょっと今はダルくて」

「野球をやめてタギール共和国建国を進めてもいいんですよ」

「分かりました。やります」


 それを聞いて博多はうなずくが、やはり誰もやる気があるようには見えない。


「ま、こういうこともあろうかと。よいか、二人組になって競争するのじゃ。勝った方にはビッグプレゼント!」

「まさかあなたのキスじゃないでしょうね」


 空山が顔をしかめつつ訊く。


「それがよければそれでもよい」

「よくないです」


 博多は背広の内ポケットから、何枚かの絵はがきを出した。


「勝った人にはこれ! 巨匠内藤ルネ先生描く、ルネ・ボーイズ絵はがきじゃ!」


 それを聞いて、明らかに反応があった。


「むっ」

「ほしい」

「勝てばもらえるのか」

「よし、やる!」


 内藤ルネはセクシー美青年イラスト以外でも高名なのだが、説明は省く。鳥居意外のテンションは上がり、逆に鳥居のテンションは下がってきた。博多はそれを見て取った。


「君、名前は?」

「鳥居です」

「じゃあ鳥居君、君はこれに興味がないようなので、あとで別メニューを用意しよう。楽しみに待て。さあ、鳥居君以外で二人組を作れっ!」


 別メニューって何だろうか。美少女イラストかなどと鳥居はのんきに考えている。

 当然のように、紺野と板東の間で二階堂の取り合いが起こる。


「二階堂と走るのは俺だ。俺だけが二階堂を守れる!」

「ふだげるな。おでが二階堂ちゃんとはじるんだど。おでは二階堂ちゃんに花をもだせる!」


 パッカーン! と音がして、板東が博多にデカいハリセンで殴られていた。


「それじゃ競争にならんぞバカモノ! お前はぼっちゃんと走れい!」

「い、いづのまにがそんな武器を持っでる……」


 板東と空山、二階堂と紺野が決まった。尾大は既に六角に寄り添っている。博多は二人を睨んだ


「君達はデキているのか?」


 尾大としては六角と離れたくない。


「い、いえ、よきライバルっす。ですよね六角先輩」

「デキていない。これ本当であります」


 何をもって何がデキていると言うのか、という言葉の問題として六角は答えている。

 林は自称宇宙人の小泉と組になった。


「前から思っていたけど、小泉君ってつかみどころがないよねえ」

「そうですか? 人類の体って、腕やら足やら、つかみどころだらけではないですか。特に男性の体にゃもう一つつかみどころが……」

「俺みたいなこと言うなよ」

「いや、もう大変なんすから」


 そして二人組競争が始まった。空山と板東は真剣に走ってなかなかいい勝負。ただ、負けたくない空山が板東の足をわざとひっかけて転倒させ、博多に厳重注意を受けた。


「ぼっちゃん、フェアじゃないですぞ!」

「あんまりうるさいと父に言いつけますよ」


 パッカーン! と音がして空山がハリセンで殴られた。すかさず空山はスマホを出して電話をした。


「あの、もしもし父さん、俺だけど……博多さんが暴力振るうんです。あの、俺が競争で相手の足を引っかけたら……え? そう? 俺が悪いの?」


 電話を切ってスマホをしまう。博多の方に向き直った。


「すいません、俺が悪かったです」

「悪くないと思ってたんかい! あと今度からスマホはおいてきなさい!」


 競争は続き、紺野と二階堂は紺野が順当に勝った。二階堂は体力が尽き、戻ってきたらふらふら状態。その二階堂を受け止めようと、紺野は両手を差し出す。


「さあ二階堂、我が腕へ」


 それを板東が黙って見ているわけはない。


「おどりゃあ!」


 そう叫んで、紺野に側面から蹴りを入れ、紺野は転倒。


「こ、この野郎っ!」


 二人が取っ組み合いをしている間。博多が出てきて二階堂を待ちかまえる。二階堂は博多の胸に倒れ込んだ。


「おお、タジオよ」

「すいません……疲れちゃって」

「いいのだよ。君なりに精一杯がんばったのだ」


 空山がそれを見て舌打ちする。


「クソジジイが……」

「何か言うたか?」

「いいえ」


 紺野と板東も取っ組み合いをやめて、あきれて見ていた。


「タジオってなんだのだ?」

「知るか」


 尾大と六角は、途中でつい手をつないでラブラブモードで走ってしまい。二人とも博多にハリセンでしばかれた上、もう一往復命じられた。林と小泉は、小泉の勝ち。小泉は絵はがきを見て、なかなかよい人体ですななどと言っている。林はやる気が足りず、これもハリセンを受けた上にもう一往復。なかなか厳しい。


「ハリセンでも気合いがハイリマセン」


 このように口答えしたため、林はハリセンをもう一発食らった。


「さて鳥居君……君にはこれだ」


 博多はおもむろに内ポケットから絵はがきを出す。果たして、青少年には刺激的な、特に鳥居のような純情野球少年には生ツバものの美少女水着イラスト絵はがきであった。


「え……こ、これを……」


 博多は突然鳥居の体をつかんで後ろを向かせる。そして背中に美少女絵はがきを貼りつけた。


「いでよ、神主の息子よ!」


 そう言って、鳥居の背中を紺野に見せつけた。たちまちうなり声と共に、紺野の頭から紫色の煙が吹き出し始める。


「鳥居きさまあ! 何を背中にくっつけてやがる!」


 鳥居はうろたえる。


「いや、こ、ここここれは、その……」

「今すぐお祓いしてやる!」


 背中から祓い串が出現し、紺野は両手に持った。鳥居は思わず博多を見る。


「奪われたくなかったら走れい」


 博多はそう冷たく言っただけだった。


「悪霊、退散っ!」


 紺野は絶叫し、祓い串を振り回しながら、鳥居に向かって突進してきた。鳥居は全力で逃げ出す。


「悪霊退散! 悪霊退散! 異化堂朱色断猛法蘇婆伽! 異化堂朱色断猛法蘇婆伽! 待ちやがれタワシ野郎!」


 あまりの声の大きさに全員耳をふさいだ。あたりは紫の霧で満たされ、咳込む人もいる。結局、鳥居も橋まで往復したのだが、全力疾走でヘトヘトな上、絵はがきも紺野に奪われズタズタに破られてしまった。


「さて、場所を変えてさらにトレーニングだ」


 博多は涼しい顔で言う。消防車のサイレンの音が聞こえてきた。紫の煙で誰か通報したらしい。



 大型ショッピングモールが増えてきた昨今だが、ここはまだ商店街が生きている。トレーニングの場所はここだと博多が言う。


「全員いるか? よし、我々に必要なのは脚力だけではない。腕力、持久力、そして判断力、指示力等、そう、体力だけではないのだ。一度背負ったあの日から、心がタギることもある。見知らぬ男と、見知らぬ男の、絆を取り持つ、おんぶDEデート! 分かったな?」

「はいっ!」


 また元気よく返事をしたのは鳥居と尾大だけであったが、返事をしたものの、何のことか全く分からない。その他の者はもちろん返事もしない。


「それ、トレーニングなんですか?」


 空山があきれたように訊く。


「うむ、説明しよう。また二人組になる。一人が目隠しをしてもう一人を背負う。上の者は下の者に指示を出し、目的地まで行く。商店街だから目的地は店だ。着いて買い物をしたら戻ってくる。お金は渡すし買ったものは差し上げよう。間違えるなよ。人にぶつかるなよ。バテるなよ。判断力、指示力、持久力もろもろが鍛えられるぞ」


 そうは言っても、やる気の出ない連中でもある。博多は続けた。


「もちろん。ご褒美もあるぞよ。今度は高畠華宵先生描く、美少年剣士等身大ポスター。レアもの!」

「うむっ……」

「ほ、ほしい……」


 なかなかの反応に博多はうなずく。


「あのう……」


 ここで手を挙げたのは二階堂。


「おお、どうしたタジ……いや二階堂君」

「さっきの走るのでバテちゃって……」

「そうだな、うん、君は休んでいなさい」


 これには空山も黙っていない。


「博多さん! 鍛えるんでしょ? そんな簡単に休ませていいわけが……」


 パッカーン! と派手な音がして、空山の顔面にハリセンが炸裂。


「黙れ下郎。人それぞれ。みんな違ってみんなよい」

「くっそー」


 空山は顔を押さえつつ、またスマホを出して電話をかけた。


「もしもし、父さん? あのさ、やっぱり博多さんが暴力を……いや、インチキじゃないって……いや俺はそんなことしてないよ……もしもし? もしもし? くそっ……」


 空山も、さほど信用された息子ではないようだ。


「ちょうど八人になったからくじ引きで二人組を作るぞっ!」


 紙切れを用いた簡易くじで決まった結果。空山と鳥居、紺野と小泉、林と六角、尾大と板東となった。六角と尾大は分かれてしまって不満そうだが、くじだからしかたがない。


「よし、一人が目隠し。一人が乗れい。一往復したら交代だ。今から買い物メモと小銭を渡す……おい紺野君、何をニヤニヤしとる」

「いえ……別に」


 上に乗った者は空山、小泉、林、板東であった。


「メモを見てスタート! 行けい!」


 紺野と小泉組、メモは八百屋でトマト一個を購入。上に乗った小泉は的確に指示を出す。


「そのまままっすぐ。おっと人です、止まって。はい、進んで。大丈夫です……あの、ちょっと紺野先輩、何やってんですか」


 小泉が上でモジモジしている。紺野が黙って、小泉の尻に回した手で何かをまさぐっている。


「やおい穴ってどれだ?」

「あっ、そのつもりでさっきニヤケてたんですね! ダメですよ。今いじらせるわけにはいきません」

「ちょうどいいところに手があるので手が行ってしまうのだしかたがない」

「紺野先輩、左です。そのまままっすぐ」

「おう」


 次の瞬間、ガン! と音がして紺野は電柱に激突した。


「いってーっ! わざとやったなてめえ! 痛いじゃねえか死んだらどうすんだ!」

「そんな騒がなくても……股間だって強いんでしょ」

「股間なら強いが、頭は弱いんだっ!」


 一方、林と六角組。二人は同級生である。メモは文房具屋で消しゴム一個を購入。林が上に乗っている。


「六角君とはほとんどしゃべる機会がないよね」

「うん、そうだね。俺は必要以上ほとんどしゃべらないからね。とりあえず目的地に急ごう。誘導してよ」


 尾大とはよくしゃべっているようだが、林の関心はそこにはない。


「うん、このまままっすぐ……ねえ、君への機械の暗示っての、俺もちょっとやってみたいんだが」

「ああどうぞ。でも指示が具体的でないと、違う動作をしてしまうよ。あと目隠ししている以上、視覚を発揮しろと指示されても、それはできない。超感覚を持つわけではないのでね。無理なものは無理。だから今のような状況の場合は、方向感覚や距離感覚を最大限にするという指示がいいだろうね。目的地に早く正確に着けるよ」

「ダジャレマシン」

「いっ……」


 六角は立ち止まった。林は辺りを見回してネタを探す。小さい電気屋があった。


「はい、掃除機」


 林がお題を出す。それに六角が答える。


「掃除機ものはバカを見る」

「扇風機」

「そんなに回しちゃいけま扇風機」

「イマイチだな」

「首を振っちゃいけま扇風機」

「もう一声」

「すてきな扇風機なんでファンになりました」

「うーん、無理な借金で買った扇風機なだけに、首が回りません……なんてな」

「やりますな」

「いやもう大変なんすから……テレビ」

「テレビ……えー、テレビはええぞー(映像)」

「ふふん、テレビを見すぎて、頭がどうが(動画)しちゃいました、ってな」


 延々とこんなことをやっていて、全く進まなくなった。

 そして鳥居と空山の組。総菜屋でコロッケ一個を購入。


「部長、どっちでしょう」

「そこを右に曲がって、しばらくまっすぐだ。少し人が多いぞ、ゆっくりでいい」


 鳥居はゆっくり歩くが、気になっているのは、さっきから空山が自分の頭にやたら頬ずりしてくることである。


「あ、あの部長……あたまをスリスリするのは……」

「おっとすまない。このスポーツ刈りの短さが、なんとも感触がよくてな」


 空山が顔を離し、しばらく歩く。


「鳥居君」

「はい」

「こういう時に言うのもなんだが……少し前から、俺は君が好きになった」


 鳥居は驚いて思わず立ち止まる。


「え、え……ええっ?」

「その野球に対する情熱は、俺のハートにも火をつけたのだ」

「ででで、で、でも俺は……あの、男の人は……」

「分かっている。嫌なのに付き合えなどとは言わない。しかし、今の状況は俺にとってあまりに幸せだ。こうして頭をいくらでも頬ずりできるし」

「うわああああ」

「やろうと思えば」


 空山は鳥居の耳に息を吹きかけた。


「ひゃああっ!」

「ふむん、たまらんのう」

「お、お、おろしますよ」

「ごめんごめん、まじめにトレーニングに励む君にそんなことはさせたくない。大丈夫。ここからは俺もまじめにやる。さあ、まだまっすぐだ。行こう。コロッケが待っている。一緒に熱々コロッケを食べようじゃないか」


 まじめにやると言われても、鳥居は一刻も早く終わらせたい。ただ、自分に好きだと告げる者の、背中のぬくもりも悪くはないとか思ってしまっている。空山は林に次ぐ美形でもあるし。妖しく惹かれるところもなくはないのだ。 

 極めて順調なのが、板東と尾大組。板東の誘導はなかなかうまく、尾大も太っているが体力はある。和菓子屋で栗饅頭一個を購入し、早くも戻る途中だ。

 一方、紺野、小泉組はなかなか進まない。紺野がまだ手先でいじり回そうとしている。


「紺野先輩。集中して下さいよ」

「いや、だからやおい穴発掘に集中しようとな」

「紺野先輩、左曲がってまっすぐ」

「おう……いや待て。また何かたくらんでるな」

「いや、別にぶつけようというんじゃないです。止まって下さい」

「目的地か?」

「右足を斜め四五度前方に出して」

「おす」

「キャイーン! わんわんわんわん!(ガブッ!)」

「うぎゃあああっ!」


 何が起きたのか。紺野が右足で寝ていた野良犬のしっぽを踏んづけ、怒った犬が紺野の股間にかぶりついた。さすがに小泉を放り出し、犬を引きはがし、股間を押さえる。


「ぐおおおおっ! 小泉てめえ!」

「おお元気だ。さすが丈夫なオマタですな」

「もうカンベンならねえ! 今日こそムリヤリでも見てやる!」


 そう言って目隠しをかなぐり捨てると小泉に襲いかかり、ズボンを脱がしにかかる。


「あ、ダ、ダメですっ!」


 商店街の真ん中で何をしているのかと思うが、男が女を襲っているわけではないので、特に通報もされず、人々はアホな男子高校生の戯れを見る目つきで通り過ぎるだけであった。しかし、目的地から戻ってきた板東がこの状況を発見。


「あっ、あどやろう! もしやどおもっだらやっぱりだ」

「な、何が起きたっスか?」


 目隠しをしている尾大は、板東が何を見つけたのか分からない。


「よじ尾大ぐん、ごのまま突進じゃ!」

「な、何をするっスか?」

「ひどだすけじゃ。いげーっ!」


 板東を乗せた尾大が突進し、小泉を組み敷いている紺野に激突。全員が転倒。もちろん紺野は怒る。


「またじゃましやがったなおでん野郎!」


 例によって紺野と板東の取っ組み合いが始まる。そこへ熱々コロッケを買った鳥居と空山組。上に乗っている空山が異変に気づく。


「まずい。あいつらまた喧嘩やってる」

「何です?」

「紺野と板東だ。とりあえず前に進んでくれ。止めなきゃ」


 紺野と板東がつかみ合っているところに。鳥居と空山組が到着。空山は急いで鳥居の背中から降り、二人を引き離そうとする。


「やめろーっ! ここをどこだと思ってる!」

「ぶぢょうはでをだずだあ!」


 気が立っている板東が空山を突き飛ばす。空山は転倒した上、手にはコロッケの袋を持っていて、それがすっ飛んだ上に、中のコロッケが外に放り出され。地面に転がってしまった。あとで鳥居と仲むつまじく食べようと思っていた熱々コロッケ。空山は本気で頭に来た。


「て、て、てめえっ! やっていいことと悪いことがあるだろっ!」


 そう叫ぶと板東に飛びかかっていった。もはや三つどもえの取っ組み合い。しかし、パッカーンという爽快な音が十数発した後、そこにいた六人が全員地面にノビていた。そこには鬼の形相をした博多が立っていた。


「全員そこに正座せい!」


 博多に怒鳴られ、六人は渋々地面に正座する。


「遅いから何事かと思ったら、何だそのザマはっ! 野球以前、トレーニング以前、小学生未満、幼稚園児に等しいではないか! 情けないぞっ!」

「すいません……」


 さすがに空山も小声で頭を下げる。


「まあぼっちゃん、こういうことではないかと、あなたの父上より話は聞いておったので、想定内ではあるよ。まずは目先のことに惑わされない、集中力や精神力を強化していかねばな。私に考えがあるので任せなさい……おい、あと二人はどうした?」


 林と六角は、まだダジャレの言い合い。林は背中から降りてしまい、六角も目隠しを取ってしまい。二人で道端に座っていた。お題は通行人から探している。


「うーん六角君、ハンドバッグ」

「半日だけの仕事には、半ドンバッグ」

「なるほど。ハンドバッグを引ったくって捕まって俺サンドバッグ」

「ほほう」

「次は……日傘だ」

「日傘が古くなって、ヒーガッサガサ」

「イマイチだな……日傘で日を隠しても、日焼けになったのでヤケになる……ううん、難しい」


 背後に人の気配。


「おい、そこの二人」


 その声に恐る恐る振り向いてみると、ハリセンを持った博多が仁王立ち。

 あと何が起きたかは書くまでもない。

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