鳥取県と島根県

だいなも

 究極の選択

          割と最近のあるところ。


都会のはずれの安アパートにて、仕事もせず昼間からゴロゴロする男がいた。

男はどうでもいいことを夢想するのが好きである。例えば先程は


【2億円貰える、が毎日ランダムに1時間だけ

 江の島の海水浴場の、ギリギリ足が付かないところへ

 転送させられるとしたら】


 であった。


考えた結果、

いくら泳ぎは得意な方の自分でも、寝ている場合や冬の海、それに着衣の状態で転送されるのは危険なのでNG。

という結論に至った。


しかし真夏であれば、タダで水着ギャルうようよの場所へ行けるなあとも思うのだった。惜しいことをしたかなと男は頬杖をついた。


――――

夜も23時。


ムダに健康的な生活の男は、そろそろ寝ようと布団を敷き布団の中でまた夢想するのだった。


今度の夢想内容は


【毎日1万円貰えるのと

 一気に1億円貰えるのは

 どちらがいいか?】


 であった。


一気に1億は凄い、しかし30年もあれば前者は1億に達する。

しかし物価の変動なども考え、資金を運用するなり……


等と考えていると男は眠くなってきた。すると2階の窓がガラリと開き、

何者かがズケズケと部屋に入ってきた。


「やあ。わたしは神様だ。こんちわ」


意味の分からないことを言うおっさんだった。男は寝ぼけたのかと思い目を閉じることにした。


「これ。聞こえなかったのか。神様であるぞ。願い叶えちゃうぞ」


すごいことを言うおっさんだと男は思った。そして男はムクリと起き上がり、そのおっさんと薄暗い中で対峙した。


「暗っ。ホイっとな。」


おっさんがそう言うと、何もしていないのに明かりがついた。男は流石に驚き、少しおっさんをまともに見た。


「なんだ、まだ疑ってんのかよ。ホレ。」


そう言うと空から1万円札が降ってきた。男はその場にひれ伏した。


「か、神様あ! 夢でも何でもいい! おれのところに来てくれてありがとー!」


これは夢だな、とどこか思いながらも、男は余りの出来事にうれし涙を流し喜んだ。1万円札は丁寧に枕の下に入れた。


「ははは。信じてくれりゃいいよ。ところでお前さあ、さっき毎日1万といきなり1億どっちがいいとか、考えてたろ?」


どきり! 流石は神様である。男はもう完全に舞い上がった。


「さ、流石です神様! 心の仲間で御見通しとは!」


「ははは。お前はいつも色々と夢想してたろ? そう言うやつの事ちゃんと見てんだよおれら。お前みたいに一見ありえないだろって事を、頭の中だけでも実現してるやつ。そういう夢のあるヤツだよおれらが待ってたのは。」


「は、はあ。なんかありがとうございます!」


「やっぱ信じる者は救われるってはっきりわかんだね。んじゃ選ばせたんよ。毎日1万といきなり1億、どっちが欲しい?」


男は究極の選択を迫られた。


―――

男は色々と確認した。


例えばその1万にしろ1億にしろ、神の力でコピーするとか作り上げるとかするものなのかと。

もしそうならお札の記番号がうんぬんで、公権力等からあらぬ疑いをかけられるかもしれない。

しかし神が言うには、国立印刷局からわからんように神パワーで頂戴する方式のため、もうほんとにちゃんとしたお札なのだという。


そして1億はもうこの場でドンと、

1万は毎朝机の上に置かれる方式だという。


色々なことを確認した男は、いざどちらかを選ぼうとした。しかし神が待ったをかけこう言った。


「いきなり1億は讃岐うどんがこの世から消滅するぞ」

「そして毎日1万はお前がこれから一生鳥取県に行けなくなるぞ」


と。


男は質問した。讃岐うどんが消滅とはどういう事なのかと。

すると神曰く、

隣の徳島との関係が悪化、水を供給される事叶わず内乱状態に突入、狂喜乱舞の中讃岐うどんという文化が消滅する。


と。


そして鳥取県に行けなくなるとはどういう事かとも質問した。

すると神曰く、

鳥取県の領土に一歩でも入ろうとすれば男が爆発、木っ端みじんになる


と。


「うーん、讃岐うどんは安くてコシがあって大好きだし、それがなくなるのは日本のみんなにも悪いような……。というか内乱って……」


「ホホホ。安心しろ。(死人は出)ないです。」


「でも鳥取に入ったらおれが死ぬんですよね…… ううん…… 鳥取って島根とどっちだっけ……」


結局、人も良く先を見据えた男は、讃岐の事も思って毎日1万の方を選択したのだった。


それ以来、毎朝1万円が机の上に置いてあった。

男は割とリッチな生活をすることが出来るようになった。


――――――――――


「部長、一面雪でいい景色ですね」

「ああ。たまらねえぜ。」


ある日、生活に余裕のある男は日ごろの感謝だと言って、部長と一緒に冬の岡山の県北へ車を走らせていた。1㍍近く積もる雪が日の光で眩しい。


「あ、そういえば岡山の上っていうか北って何県でしたっけ?」

「もちろん島根や。申し訳ないがそんな事をまちがえる奴はNG。」

「ですよね。一応聞いといてよかったです」


よもやと思い一応確認した男。安全を確認し胸をなでおろした。

 

「ここでいいんですか?」

「ああ~最高や。雪の中でやるのも一番や」


県北の美しい土手。ここで一時的に謎の用事があるという部長を残し、

男はそのへんを車で走ることにした。普段見ない雪景色というのは新鮮なのだ。


県境を告げる標識が見えてきた。そこにははっきりと


「ようこそ鳥取県へ」


とあった。


「へ?」


男は爆発。車は大破炎上し大量の雪と一緒に吹き飛んだ。


看板に破片が激突、鳥取の文字はかすみ余計に分かり辛くなったとさ。



     「あ、北は鳥取や。ああ~たまらねえぜ。」



     あの県とあの県を間違えるのは……やめようね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鳥取県と島根県 だいなも @kanikohsen

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ