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香織と美沙はテニスサークルで一緒だった。香織が一年の後期に大学に顔を出さなくなるまでの間、学内でも一番仲良くしていた。香織が大学に行かなくなってからは彼女がいたから単位を取得できていたと言っても過言ではない。
佐久間の家に美沙を連れていった日は、夕方から所属していたテニスサークルの新入生歓迎コンパがあった。共通の友人が多かった香織は大学にもサークルにも顔を出していないという引け目を感じることなく参加した。
「越谷、大学来てないんだって?」聞いてきたのは大村だった。
大村とは入学して間もない頃サークルで知り合い、半年間付き合った。お互い高校は違うものの、郡部の出身で、大学から一人暮らしを始めた仲間ということもあり親しみやすかったのがよかったのだと思う。
「必要とあらば顔を出しているし。美沙の慈悲深い努力の結果、必要単位を満たしておりますので、御心配には及びません」
「そっか。別にどうでもいいんだけど、越谷とか来ないとただの飲みサーになっちまうから、適度に来て後輩指導してやって」
「そうそう」美沙は何度もうなずきながら言った。
「考えとく。ダイエットがてら行くかもね」香織はテンプレートの断り文句ではぐらかした。
美沙が下戸であることはサークル内での常識だったため、二人はすぐに会を抜け出すことができた。出来上がった美沙を担ぎあげ、美沙の郊外のアパートへ向かうため、駅を目指した。しかし、美沙が急に気分を悪くしたため、駅から近い佐久間の家に連れていくことになった。
佐久間は「かわいい子だからいいよ」の一言で自宅のトイレを開放した。美沙は「マーライオンみたいでごめんね」と何回も言った。結局、その日は二人で佐久間の家のソファーで眠った。
およそ半年のブランクを数分の会話で埋められたのだから、大村と香織の間には何も生まれていなかったのだろう。そして、美沙と気まずくなることもなく話せるということも分かった。
大村は香織と別れた後、美沙と付き合っている。否、自分と付き合っている時からその気があったのだと香織は思っていた。そのことを大村に聞いたこともないし、今後も聞くことはないだろう。その程度に思っているのだから、美沙との遺恨があるはずがないと香織は改めて確認した。
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