第4話 前編

 朝の光で目が冷めた。


「ほぁぁ~~」


 ここで目を覚ますのは3度目だ。時計を見ると6時だった。昨日は早く寝たしこんなもんか、普段はもっと遅く寝ているからな。

 俺は昨日もらった服に着替える。無難なデザイン、それに動きやすい服装だった。

 着替えて下に降りると、富永さんと会った。


「おはよう。早ぇじゃねぇか」

「沢山寝てたせいか目が覚めたんで」

「よし、じゃあ付いて来な」

「?」


 俺は富永さんに付いていって店の外に出る。しばらく歩くとファミレスが見えてきた。だがその外観は少しボロボロだ。


「あそこで朝食を食べる」

「えっ!」

「安心しろ中はきれいだぞ」


 よく見ると何人か中にいるのが見える。


「このファミレスで周辺の住民の飯を作ってるのさ。中にいるのは料理を作ってくれるボランティアさ」


 気がついたらもうファミレスの真ん前だった。店に入ると、思ったより綺麗だった。


「まだ早いからな。出来るまで時間かかるから適当にくつろいでくれ」


 俺はキッチンの近くの席に座っておとなしく待っていることにした。しばらく待っていると他の住民の人たちも店に入ってきた。その中には竹内さんや名取さんもいた。

 俺の事を知っている人達がいたのか、「元気か?」「身体は大丈夫か?」など話しかけてきたりした。この人達の勢いに押されていると助けが来た。


「こらこら、彼はまだ昨日目覚めたばかりなんだからあまりちょっかいをかけない!」


 名取さんの言葉に俺の周りにいた人たちが離れた。


「ごめんねー、ここの人たち勢いすごいでしょ」

「そ、そうですね」


 その後は軽く話しをして待っていると、朝ごはんが出来たようだ。野菜たっぷりのサラダとスープ、そしてホットドッグだ。料理を見ていた俺に富永さんが声をかけた。


「ま、朝だからこんなもんだ。昼や夜ならちょろっと豪華だから今はこれで我慢してくれや」

「そんな気にしないでください。食料不足なのは分かっているんで」

「そうか、ありがとな」


 そんなやり取りのあと「いただきます」と口にして朝ごはんを食べ始めた。

 


 朝食を平らげて改めて店の中を見ると、朝食を食べてさっさと店を出ていく人もいれば食べ終わっても店の中にいる人もいた。他には新たに店に入って来る人もいた。


「ここって朝食は何時までって決まってるんですか?」


近くの席に座っていた竹内さんに聞いてみた。


「ここは毎日7時から9時まで開いているので皆さんバラバラの時間に来ますよ」

「そうなんですね。ありがとうございます」


 昼食や夕食もここで食べればいいのかな?

 それよりもこれからどうしようかと考えていた。ここの事知らないし誰かに話を聞くかな。誰かに街を案内してもらうのもいいし。そんな事を考えていると店の空気が少し変わった。


「お、お前ら久しぶりだな」

「鳴君、目ちゃん! 一週間ぶりじゃない?」


 振り返ってみると二人の男女がいた。知り合いだろうか。一人は俺と同じくらいの歳の男、もう一人は中学生くらいの女の子だ。二人は手を繋いで店の空いている席に座った。

 俺はなんとなく二人を見ていると竹内さんに話しかけられた。


「彼の名前は宇杉鳴君。彼があなたを助けた人ですよ。女の子は宇杉要ちゃん、鳴君の妹ですよ」

「えっ!」


 俺を助けてくれた人にこんなに早く出会えるとは思ってもみなかった。

 それにしても彼らをよく見ると特に二人で会話をしている様子はない、ずっと無表情だ。なんだか近寄り難い雰囲気を持っている………。

 でも助けてくれたお礼をしなければならない。

 俺は宇杉君が食べ終わるタイミングを見計らい、席を立って声をかけた。


「お、おはよう……」


返事はなかったが顔だけはこちらに向けていた。声をかけてもずっと無表情のままだった。


「俺、笹倉良司って言うんだけど俺の事助けてくれたの君だって聞いてお礼を言いたかったんだ」

「…………」

「そ、その……助けてくれてありがとう」

「…………」


 喋ってくれない……。会話しづらいな。まぁ初対面だし。


「…………礼なんかいらない」

「えっ?」

「俺があそこに来たのは気まぐれだ。その気まぐれがなかったらお前は死んでた。それだけだ」

「…………それでも、ありがとう」


 彼は目を逸らしてしまった。あまり感情が読めないので何か気に触ったことをしてしまっただろうか。とりあえずお礼を言う目的は果たせたのでカウンター席へと戻った。


「フフッ、どうですか鳴君は?」

「えっと……なんていうか、俺の周りにいなかったタイプなんでよくわからないです」


 竹内さんに質問されたがそれしか思い浮かばなかった。


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