第6話 先輩……あいつの問題が何か、分かったのですか?

「分かっている? 何がですか?」

「自分で言っていたじゃない。その男の子『美樹みき』君って名前なんでしょう?」

「はい? まあ、そうですけど……それが何か……?」

「だったらもうそれが答えを……って、本当に分かっていないのかい?」


 先輩の眉が困ったように歪んだのを見て、私の眉も同じような形になる。


「分かるも何も……分からなくて困っているんですよ?」

「そう。なら偶然って怖いな。私も君の発言で知ったよ」


 先輩は目尻を下げたまま、私にこう言ってきた。


「OKちゃんとNG君なんて、君達は本当にお似合いのカップルなんだね」

「カップ……もう、先輩! 何を言っているんですか!?」

「いやいや、これは運命の糸で繋がっていると言っても過言ではないよ。結婚したらどうだい?」

「結婚って……」


 先輩は明らかにからかってきている。楽しそうな表情を見てもそれは確かだ。

 だから私は頬を含ませて先輩に抗議しながら話を修正する。


「そんなことより今はあいつの言っている問題の話ですよ! ちゃんと真面目に話してください!」

「ふむ、私はいつだって真面目だ」

「嘘ばっかり!」

「いやいや本当だよ。それに――

「……え?」


 ヒント?

 先の発言がヒントだと先輩は言った。

 それがどのようなヒントになり得たのか、パッとは分からない。

 しかしながら、一つ分かったことがある。

 それは――


「先輩……あいつの問題が何か、分かったのですか?」

「ん? ああ、問題もそうだけど


 私は素直に驚いた。

 先輩は私から聞いたこと、そしてさっきあの紙を見ただけだ。

 それだけで、先輩は既に答えまで辿り着いているというのだ。


「流石先輩! 答え教えてください! あいつをぎゃふんッと――」

「おいおい、それはアンフェアってものだろう。自分で解いてこその謎解きだよ」


 身を乗り出した私に対し、先輩はウィンクをしながら人差し指を私の口元に当ててきた。


「それにあの問題も解答も、誰かに教えてもらうのではなくてなのだよ」

「……どういうことですか?」

「おっと。そこまでは出過ぎた真似かな。まあ、とりあえず解答を知った私は、

「?」


 先輩が薄く笑んでいる様子に、私はさらに混乱した。

 何故、知らなかったふりをするのか。

 その必要があるのか。

 全く理解できなかった。

 だから、うーん、と唸っていると、


「この状態でいるのも可哀想だね。だからヒントだけはあげようか」


 先輩は人差し指をくるくると回した後、私の持っている紙を指さした。


「『』なのだよ。そして――に目を向けるんだ」

「目を……?」


 私はもう一度、紙に目を落とす。



『お前に

 この問題が解け

 るか? 精々頭を使って

 頑張れよ』



「……この文章で違和感があるのって、ですよね?」


 文章の段落の仕方。

 見やすいように段落を変えるのであれば、文章は次のようにするべきだ。


『お前にこの問題が解けるか?

 精々頭を使って頑張れよ』

 

 しかし渡された紙に書かれた文章の段落の仕方はおかしい。

 特にこの部分だ。


『この問題が解け

 るか?』


 何故「るか?」だけなどという所で改行しているのだろうか?

 そこが違和感だ。


「うんうん。そうだね。ではその段落に意味があるとしたらどういうことかな?」

「意味? それはえっと……」


 言われて、私はハッとした。


「まさか……?」


「正解だ。わざわざ変な所で改行したということは、その頭か後ろに必ず意味を持っていると思った方がいいよ」


 と、そこまで言うと先輩は「……さて」と手をパンと一つ叩いた。


「ここまで分かればもう答えは出たようなものだよ。あとはこの部屋――『PC』にいれば自ずと答えは見えてくるはずさ」

「PC室に……?」

「うん。では、私はこの辺でおさらばするとしようか」


 先輩は私に背を向けると、手をひらひらと頭上で振って



「それじゃあ『NGに上質な謎をありがとう、と伝えておいてくれ――『OK



 そう言いながら教室を出て行った。

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