第3話 問題が問題とすら分からない問題なんて問題じゃないわ!

「……何を考えていたのかしら、私は……」


 生徒指導室の前に辿り着いて扉に手を掛けた直後、私は自虐的にそう呟いた。

 よくよく考えれば、生徒指導室の中に美樹が何かを隠したりしたとは思えない。

 そもそも、生徒指導室などいつだって開いているわけではないし、仮に開いているのならば誰かが指導を受けているということだ。

 そんな中に入っていくことはかなりの失礼だし、そもそも美樹がそこに何かを隠す手立てがない。

 他の生徒や先生に見つからないように顔に熱さを感じながら逃げるようにしてその場を離れる私。


「全く、もう、全部あいつのせいよ……」


 思わず口にしてしまったこの言葉は全面的に正しい。

 あいつが変な問題を出してくるからだ。


「問題が問題とすら分からない問題なんて問題じゃないわ!」


 ……なんだか早口言葉になってしまったが、もう一度、よく考えよう。

 そして放課後だからいいが、口に出すのは極力避けよう。

 ――そう秘かに誓って、私は考えながら廊下を歩く。


 問題がある場所。

 ほかにそんな場所がないわけではない。


 次に思い当たったのは――職員室だ。


 しかしながら、職員室も同じ理由で違うだろう。

 生徒指導室と同じように、教室に対して何かお願いするということは考えにくい。

 教師だって暇ではないのだ。こんな問題に手伝ってと言われて手伝ってくれる人なんか、数人くらいしかいないだろう。


「……一応確かめてみようかしら……」


 そう思い、職員室に向かう。

 だが結論から先に言うと、問わないうちに、これは間違いだということに気が付いた。


 先生達は職員会議中だったのだ。


 探し始めてから数分レベルでの出来事なので、イレギュラーで職員会議が発生したのではない限り、

 そんなことを教師に頼んでいた場合はやんわりと拒否されるだろう。

 そして問題が成り立たなくなる。

 あいつは私を困らせたいだけなのだろうか?

 ……その可能性も無きにしも非ずだ。

 だけどあの態度から少しだけ期待してもいいじゃないか。

 そう心の片隅でどこか高揚感を持ちながらも顔は平静でいるように保つために

「……あーあ。このまま本を読んでいた方がよかったわ……」と口にし、数秒後、誰もいないのに「……あ、そっか」と手をポンと叩く。


「一度、文句を言ってやるのよ。きちんと問題を確かめなさい、って。だから分からないからPC室に行くのではないわ、私」


 言い訳を虚空に投げながら、私の足はPC室の方に向かっていくのであった。

 そう、あいつに負けたわけじゃない。

 文句を言うために行くのよ。

 ついでに何かヒントでも出させてやるわ。


 ――そんな風に防衛線を張りながら、私はPC室の扉を開いた。

 しかし――



「……いないじゃん」 



 PC室には美樹どころか、誰一人としていなかった。

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