第8話 覚醒
次の日の朝。
8時半。ユーと一緒に洗濯物を干している。
「ユー。」
「なんだ?」
「今日も出掛ける?もし暇なら久々に行かない?パチンコ屋に。」
「いいだろう。少しなら。」
「え!?いいの?」
「ああ。ちょうど試したいこともあるしな。」
「じゃあ急ごう。抽選に間に合わせないと。」
ユーは落ち着きを払って
「必要ない。10時になってからでいい。」
「え?そ、そう。わかった。」
相変わらずなにを考えているかわからなかったが、一緒また行けるというだけで舞い上がっていたため、深く考えなかった。
10時30分。
パチンコ屋。ほんの数日ぶりなはずだが随分と久しぶりな感じがした。
「今日の予想台は?」
「ない。」
「え?どういうこと?」
ユーは構わず歩を進めていった。
そしてとある台の前で止まった。
「まさか、これを打つの?」
「ああ、そうだ。」
ミリオンゴット神々の系譜。
爆裂台の代名詞。Aタイプとは真逆の台だ。
「ARTの台は効率が悪いんじゃなかったの?しかもよりによってミリオンゴットって……。」
「いいから金をだせ。」
ユーは天才だ。それは間違いない。なにかものすごい攻略を思いついたのだろうか?
サイフをだす。
「千円でいい。」
「え?いくらなんでもそれは……。」
ユーは構わずサイフから千円を抜き取るとサンドにいれた。
パラパラパラと心もとない枚数のメダルが下皿に転がる。
ユーはそこから3枚だけとり、投入口に入れた。
テンテンテン。
一体なにをどうしようというのか?
「この台は非常にわかりやすいフラグがあるよな?」
「ゴット揃い?」
「そう。確率は8192分の1。」
そういうとすうっと右腕を上げ、少し溜めた。
そして拳を下ろした。
ドシーン。
画面に巨大な赤扉が出現した。
言わずと知れた激アツ演出だ。
「まさか……うそだろ。」
ユーはなんの躊躇もなく左からテンポよく止めていった。
当たり前のように、画面に7が3つ揃い、リールもGOTが真ん中に揃っていた。
「ゴットが2連続する確率は67108864分の1。」
そういうとまた右腕をあげ、少し溜めた。
拳を下ろした。
プシュン。
画面が暗転する。
"左から押してください"
の文字が浮かび上がる。
ユーはまたなんの躊躇もなく左からからテンポよく止めた。当然ゴットが揃い、二回連続のファンファーレが鳴り響く。
「ゴットが3連続する確率は549755813888分の1……。」
ユーはまた右の腕を上げ、少し溜めた後、拳を下ろ……
ユーの腕を止めた。
「ユー、なにをした?ゴトか?どういうことだ?説明するしてくれ。」
ユーはじんわり汗をかいている。少し疲れているように見えた。
「……実験だ。成功だな。」
「ユー、わからないよ。ちゃんと説明してくれ。」
「私はこれで帰る。」
そういうとユーは手を振りほどくと店を後にした。
あり得ない。
普通ではない。
もはや天才とかそういうレベルの話じゃない。
ユーがどんどん遠くに離れていく。
そんな感じがした。
「ユー!」
我に返り、ユーの後を追いかけるが、ユーの姿は見えなくなっていた。
「さあ、まずは昨日の復習からやろうか?」
青年の呼びかけにユーは
「必要ない。」
そういうとユーは両手を胸の前に合わせ、目を閉じた。
合わせた手を少しずつ開いていく。
それに連動するように、目も少しずつ開いていく。
手の中には
光輝く、白い球体が発生している。
手の動きに合わせて次第に大きくなっていく。
指と指の間から光が漏れる。
青年の目が驚きで大きく見開く。
「……素晴らしい。」
20時。
ミリオンゴットは8時間出っ放しで最終的に13,000枚出た。
本来ならとても喜ばしいことだが、今日はそんな気分にはなれなかった。
一応3時に家に電話したら、ちゃんと、妻がでた。息子も迎えにいったようで、一安心。
実験……言っていた。
間違いなく昼間のお出掛けが関係してるだろう。
出掛けて研究をしている?
なんの?
ゴトの?
そんなわけない。
車を駐車場に止め、エレベーターに向かうとおばさんたちが三人、井戸端会議をしていた。
「こんばんわ。」
挨拶もそこそこにエレベーターを呼ぶ。
3人のおばさんたちはこちらをチラチラ見ながらこしょこしょ話してる。
なんだ?
と、一人のおばさんが前に出る。
「ちょっと……。」
「やめなよ!」
もう一人のおばさんがそれを制止しようとする。
「いや、言っといたほうがいいわよ。」
3人目のおばさんが煽る。
「どうしたんです?」
「いや、その、噂でね。」
「昼間。あなたの奥さんが若い男の子と一緒にいるのを見たっていうひとがいるのよ。」
目の前の景色が足元から崩れ落ちるような感覚に襲われた。
家に着くなり、すぐに酒を煽った。
妻はユーの味方だ。
下手したら、外で男にあってるということも肯定するかもしれない。
いや、それならまだいい。
取り乱して自己嫌悪に陥るかもしれない。
なんにせよ妻には黙っていたほうがいい。今は。
明日の朝。ちゃんと問い詰めるのだ。
今は起きていたくない。
何も考えたくない。
ウイスキーの瓶を口にくわえた。
朝の5時に目が覚め覚めた。
妻は、ユーはまだ眠っている。
タバコに火をつける。
タバコを吸い終わると決戦に向けて、さっぱりするため風呂を沸かした。
風呂から出てタバコを三本吸ったところで6時になった。
ユーが寝室から出てきた。
「ユー。」
「なんだ?」
怯むな!恐るな!いけ!直球だ。
「男と……若い男と会っているって本当なのか?」
「本当だ。」
即答だった。顔色一つ変えず。
早くも心が乱れる。ひざが震えだす。
「一緒にパチンコ屋に行かなくなったのもそれが原因か?」
「そうだ。」
頑張れ。最後まで。
「は、半分は俺の妻で……体は俺の妻なんだから、そ、そういうのは自重してもらわないと。」
俺にそんなことをいう資格なんかない。妻がありながら、目の前の女性にうつつを抜かしていたくせに。
ユーは顔色一つ変えずに
「何度も言っているが、私はミーとの契約は守っている。」
わかっている。そうじゃない、そうじゃないんだ。
言ってしまいたい。
好きなんだ。きみのことが。ユーのことが好きなんだ。
だからそいつとはもう会うな!
「……きなのか?好きなのか?……そいつのことが?」
ユーはいままでに見せたことのない表情にみせた。
が、すぐに真顔にもどり、
「一つ忠告しておこう。」
え?なに?忠告?
ユーは続けた
「お前はその男に会ったり、もしくは会ったみたいとおもっているか?もしそうなら、それはやめることだ。」
少しの間の後
「……消されるぞ。」
ビクッとする。ユーの鋭い眼光と言葉が体の芯を射抜く。
脅しなんかじゃないことだけは伝わった。
もうなにもいうことはできなかった。
ただ膝だけが制御不能で震えていた。
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