三次試験・特技の披露
急かされるように、東京を離れるかなめ。竜王たまきが消えた? なぜ。きちんと話もしていないのに。時速300キロの新幹線が、こんなにも遅く感じることはなかった。
18時半過ぎ。着替えもせずに大学の学食に戻ってきたかなめを、ナギは出迎えた。軽い感じのボブカット、ミス・キャンパスに選ばれるのも時間の問題だろうといったただ、応援サークルにいるのは思春期症候群への興味からであった。
「先輩、竜王たまきがいなくなりました。電話も拒絶しています」
「メールでも読んだけど、いったいどういうことだ。はじめにもらったメールでは、なにかを応援してほしいみたいなことを言っていたけど」
「恋です」
「恋?」
「先輩は、予習もしないんですか? 失恋したから新しい恋に踏み出したいので応援してくれって依頼ですよ?」
いままで、ナギを窓口にかなめは先が不安な学生を応援してきた。説得、交渉、さまざまな言い方はあるだろうが、思春期症候群と呼ばれた不思議な力は「応援」こそしっくり来る。
「恋愛関係で、連絡が取れなくなった、か。もしかして……」
ナギに竜王たまきの連絡先を聞くと、その場で電話をかける。ナギが何度かけてもつながらない番号に、かなめがかければツーコールでつながることができた。
「もし……もし」
「竜王たまきさんですね。今、いいですか? 篠ノ井かなめです」
「応援サークルの篠ノ井さん……! あの、スカイプに切り替えていいですか!」
瞬間、たまきの声色が一オクターブ高くなる。ナギの機嫌は一瞬で悪くなったが、依頼人が大切なので、無視をした。スマホの画面に、二つおさげの女子学生が映った。高校生といっても通用する幼い学生である。
「あの……、私、こんなことで応援サークルの人にお願いするのも変かな? って思ったんですけど」
「大丈夫。まずは話を聞かせてください」
「ええ。あの、私、好きだった部活の同級生が、部活っていうのはコーラス部なんですけど、彼が別の子と付き合い出して、告白もできずに引き下がるっていうのが嫌っていうか、でも別の子って私の友達で、今から告白したら空気を悪くしちゃうし」
話の筋道がばらばらなたまき。だが、不完全燃焼の失恋で歩みを止めてしまったことが伝わる。
「竜王さん、僕は君を応援する。友達を大切に思うあなたであれば、きっと誰かからも大切に思ってもらえるんだ。その誰かは、歩みを進めた先にいるかもしれない」
画面越しのたまきの目元が緩みだした。かなめは、その話し方、伝え方が抜群で、相手の気持ちを鼓舞させて行く。
「前に進んでもいいんですか?」
「後ろに戻っても良い。その場に足踏みをしてもいい。ただ、歩く足があるんだって言うことを忘れないで」
隣で聞いていたナギは、かなめの目を見ていないので、その効果を受けることはできない。彼女は中学時代に、仲良しだった同級生がいじめられ、思春期症候群に罹患し不登校となった苦い想いを味わってるので、そんな都合の良い魔法にかかるものかと思っていた。でも、かなめからこういう言葉をかけられたいとも思っていた。
「ありがとうございます、頑張れるかどうかはわからないけど」
「それは、竜王さんが決めることだよ」
「ありがとうございます。今、変わりますね」
変わる? かなめとナギははて、と顔を見合わせた。ザッ、とノイズが走ると、画面が切り替わる。
「篠ノ井かなめさん、最終面接、おつかれさまでした」
画面には、メディアスキー・ワークス面接会場が映し出されていた。
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